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僕たち横浜万博警備隊 ― 1989年、青春と事件の半年間 ―  作者: 岩田 ヒロ


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4/10

コンパニオン・ガールとフタマタ

 4月から6月まで僕は学校があり、週に一回か二回しか24時間のバイトができなかったが、7月になり、再び週3回のペースでシフトに入った。


 ところがこの7月下旬から8月にかけて、記録的な数の台風が日本を横断した。ほぼ毎週台風が上陸し、入場者数は予想の半分以下。平日も休日もパビリオンは閑古鳥が鳴いていた。


 パビリオンのコンパニオンや警備員は暇でよかったが、僕たち24時間ゲート警備は悲惨だった。

 この東口ゲートは高島埠頭の港のトラックと万博のトラックが通過するため、常にゲートに立っていなければならない。通行書をチェックするために、台風で雨が降ろうが、強風が吹こうが、ゲートの外に立つ必要があった。


 レインコートは配られたが、夏で蒸れてたまらない。


「真っ直ぐ立ってられましぇーん!」


 結城さんはずぶ濡れになりながら叫ぶ。


「俺、飛ばされるかと思った」


 住吉さんも同じくびしょ濡れだ。


 ひどい時は、バケツの水を頭から一気にかけられるような雨が僕たちを襲った。

 トラックの運転手は窓も開けず、窓越しに通行書を見せて笑いながら通過していく。


 テレビの台風中継でレポーターが飛ばされそうになりながらレポートしているが、僕たちはそれを24時間耐えていた。


***


 しかし、この悪天候が幸いしたのか、僕と結城さんのナンパは絶好調となった。

 きっとコンパニオン・ガールたちはパビリオンが暇で、何か刺激的なことを求めていたのだろう。


 結城さんは狙いの子をほぼ決めていた。ソバージュのポニーテールで、いつもミニスカートの子だ。


 夕方、ついにその時が来た。


「おつかれさまでーす」


 彼女が通り過ぎると、結城さんが「お疲れ様です」と返す。


 その後、10メートルほど進んだところで、結城さんがダッシュで走り寄り、何か話しかけた。

 1分ほどして戻ってきて、いつもの警備のポジションに立つ。


 僕はゲート横の詰め所から見ていたが、すぐに外に出て聞いた。


「どうだった?」


「ふふ、今度ご飯行きませんかって聞いたら、いいよって! よっし!」


「電話番号聞いたの?」


「いや、とりあえず明日の夜、待ち合わせした」


「名前は?」


「分からん。でも明日聞く」


 その後、結城さんはデートし、名前と電話番号を聞き出すことに成功した。


「名前は洋子ちゃん。すげー可愛いんだよ。22歳で、アメリカ・パビリオンのコンパニオンだって」


「いいな、年上か! 次はどうするの?」


「今日の夜10時に電話することになってる。だからごめん、10時から1時間は抜けさせて!」


 ゲートから見える電話ボックスが僕らの電話だ。

 結城さんは10時になるとテレフォンカードを持って電話ボックスに入り、座ったり立ったりしながら、受話器を肩に挟んで話している。両手を上げ下げし、忙しそうに話している。


 僕と住吉さんは呆れながらも、それを見ていた。


 1時間後、ぐったりした結城さんが戻ってきた。


「ありがとうございました。これから2時間、俺一人でゲート立つから、休憩して」


「で、どうだった?」と住吉さん。


「今度、フィアットでドライブ行くことにした。写真見せたら乗りたいって言ってたんだよね」


 結城さんは僕が『写るんです』で撮ってあげた写真をひらひらさせた。


***


 次は僕もと思い、気になる子に声をかけてみることにした。小柄で美人の子だ。

 断られたらかっこ悪いと思ったが、結城さんに負けられないと思い、声をかけた。


「あ、お疲れ様です。あの、今度ご飯一緒に行きませんか?」


「え、これナンパ?」


「あ、いや、それは……」


 想定外の返しに固まってしまった。


「いつ?」


「えっ」


「い・つ?」


「あ、えーと、明日の午後は暇ですけど」


「じゃあ明日、バイト終わるの5時だから、それでよければ?」


「ほ、本当ですか? じゃあ明日、ここで待ってていいですか?」


「うん。じゃあ明日の5時半くらいにここで待ち合わせで」


「うん、お願いします」


「じゃ、お疲れ様です」


 え、明日? 本当か?

 彼女の姿が人混みに消えていった。


 すぐゲート前の警備に戻ると、結城さんが近寄ってきた。


「どうだった?」


「明日、ご飯行くことになった」


「おー、すげーじゃん! どこのパビリオン? 名前は?」


「聞いてない」


「ま、いいか!」


***


 次の日の朝、彼女の出勤時に挨拶しようと思ったが、見かけなかった。

 休憩時間に出勤したのか?

 それとも昨日の約束は嘘で、今日は空振りになるのか?


 昼に警備が終わると、僕は崎陽軒の詰め所で17時まで横になったが、興奮して眠れなかった。


 17時半、約束の場所で待っていると、彼女が現れた。


 浮かれる気持ちを隠しつつ、ご飯の場所を提案した。

 彼女はどこでもいいと言うので、僕がよく行く「アウトドア」というカフェバーに行った。

 カウンターで横並びに座れるお気に入りの店だ。


 ビールとピザを食べながら会話した。


 彼女の名前は直子。3歳年上のフリーターで、企業パビリオンの受付をしていた。


 不思議と話は途切れず、お互いのことを紹介し、バイトの愚痴を言い合い、時間はあっという間に過ぎた。


 直子さんは聞き上手だった。

 年上だからか、落ち着いていて、時間を忘れさせてくれる。


 僕たちは電話番号を交換し、次に会う約束をして別れた。


 声をかける勇気をくれた結城さんに感謝した。


***


「よし、もっと声かけようぜ!」と結城さん。


「絶対バレないし、うまくいけば二股、三股かけられるぜ!」


「はー? 同じパビリオンの子だったらまずいでしょ」と僕。


「平気だよ。あとちょっとで万博終わりだぜ」


「おめーら、東口ゲートの警備員がナンパしてくるって評判になったらクビだぞ」と住吉さん。


「消防活動するし、ダフ屋退治するって評判いいはずですよ」と結城さん。


 結城さんは住吉さんの助言を無視して、第二弾のナンパをした。

 派手な服を着た背の高い子だ。


 結城さんが声をかけ、少しして戻ってきた。


「最初無視してたけど、最後は『ごめんなさい』って走っていったよ」


 今回はうまくいかなかったようだ。


「やっぱモテそうな子は高ピーでダメだな。ちょっと地味で真面目な子が狙い目だな」


 そう言って第三弾のナンパをした。化粧の薄いかわいい子だ。

 驚いたことにデートの約束が取れた。


 結城さんは洋子ちゃんのことなどすっかり忘れ、次の子とのデートのことを考え始めていた。


***


 僕は直子さんともっと仲良くなりたいと思い、第二弾のナンパはせず、直子さんに電話した。

 夜10時、ゲート近くの電話ボックスで。


 女の子の家に電話する時、親が出ないでほしいと祈る。

 時間を決めて「親が出る前に出てね」と約束しても、なかなか出ないと緊張する。


 直子さんは3コールで出てくれた。ほっとした。


 出会ったばかりの女の子と話すと、話題が尽きず楽しい。

 高校3年から付き合っている久美とはこうはいかない。

 会うと落ち着くし、エッチするのは楽しいのだが。


 直子さんが映画好きと分かり、今度映画を見に行くことにした。

 久美と見た映画とかぶっても、知らないふりをしようと思った。


 直子さんとの電話は30分で切り上げ、久美にも電話した。

 台風の中の警備の話をした。

 久美は夏休みに旅行に行きたいと言うので、僕は「バイト代が入るから新島に行こう」と提案した。


 久美は次に会う日を決めようと言い、予定を合わせた。


 うまく二股をしていこうと思った。

 鉢合わせさえしなければ絶対バレないと思った。


 そして、自分勝手とは分かっているが、久美には浮気してほしくないし、直子さんには彼氏がいても不思議ではないと思った。


***


「大学生の兄ちゃんはその後うまくいってんのかよ?」と住吉さん。


「えーと、こないだ映画行きました」


「けっ、大学生ってだけでモテるんだろ。いい身分だぜ」


 藤井さんも「ふんふん」と同意している。


「住吉さんも声かけてみればいいのに」


「おれはそんなこと出来ねえよ。おまえらみたいにチャラくないんだよ。な、藤井さん?」


「ふんふん」


 こんな会話をしている裏で、僕は直子さんと次はどこに行って、どうやってエッチのチャンスを作るかを考えていた。

 そして久美との新島旅行も楽しみにしていた。


 結城さんの二股を「よくやるよ」なんて言っていられない。

 僕自身も同じことをしているのだから。

読んで頂き、ありがとうございます。

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