第三章 魔王軍と竜王軍
数時間後――。
竜王軍領。
険しい山々の上空を巨大な竜が飛び交っていた。
その山道を、一人の侍が歩いている。
影虎だった。
特に急ぐ様子もない。
散歩でもしているかのような足取り。
しかし。
城壁の見張りが影虎の姿を発見した。
「人間だ!」
「侵入者だぞ!」
鐘が鳴り響く。
竜人たちが一斉に武器を構えた。
影虎は立ち止まる。
そして城を見上げた。
「大きい城だな。」
竜人たちは困惑した。
侵入者とは思えないほど落ち着いている。
「止まれ!」
「これ以上進めば命はないぞ!」
影虎は答えない。
そのまま歩き続ける。
「撃てぇ!」
無数の矢が放たれた。
だが。
次の瞬間。
影虎の姿が消える。
「なっ!?」
ズバッ。
ズバッ。
ズバッ。
竜人たちが次々と倒れていく。
誰も斬撃を見切れない。
影虎は刀を鞘に収める。
「弱いな。」
そして再び歩き始めた。
その頃。
竜王城最上階。
巨大な玉座の間。
黄金の鱗を持つ竜王が静かに目を閉じていた。
その胸には大きな傷跡。
勇者との決戦で負った傷。
既に数か月が経っている。
しかし未だ完全には治っていなかった。
竜人の将軍が駆け込んでくる。
「竜王様!」
「侵入者です!」
竜王はゆっくり目を開いた。
「勇者か?」
「いえ、人間一人です!」
竜王は立ち上がる。
傷が僅かに痛んだ。
「まだ傷が治っておりません!」
「ご出陣はおやめください!」
竜王は鼻で笑う。
「相手は人間一人だ。」
「我を誰だと思っている。」
その頃。
影虎は城門を突破していた。
倒れている兵士たち。
砕けた武器。
だが誰一人死んでいない。
影虎は必要以上には斬らない。
ただ道を開いているだけだった。
「竜王はどこだ。」
兵士たちは震える。
誰も答えられない。
影虎は首を傾げた。
「そうか。」
そして再び歩き出した。
――――
一方その頃。
魔王軍領。
黒い雲が空を覆っていた。
巨大な魔王城。
その正門の前に立つ男。
白虎だった。
魔族の門番が睨みつける。
「止まれ!」
「ここは魔王城だ!」
白虎は城を見上げた。
「ほう。」
「なかなか立派だな。」
門番。
「聞いているのか!」
白虎。
「魔王はいるか?」
「いるから何だ!」
白虎は笑う。
「そうか。」
「なら話は早い。」
門番たちが武器を構える。
「侵入者だ!」
「殺せぇ!」
数十人の魔族が襲いかかる。
白虎は動かない。
そして。
一瞬。
風が吹いた。
次の瞬間。
魔族たちが一斉に崩れ落ちた。
「な……」
「何が……」
誰も見えなかった。
白虎だけが静かに歩いている。
「遅い。」
その一言だけ残して。
城の中へ消えていった。
――――
魔王城。
玉座の間。
魔王は静かに報告を聞いていた。
その腹部には大きな傷跡がある。
勇者との戦いで受けた傷。
魔王ほどの存在でも、その傷だけは癒えなかった。
未だ全快には程遠い。
側近が焦った声を上げる。
「魔王様!」
「出陣なされてはなりません!」
「傷が開きます!」
魔王はゆっくり立ち上がった。
「相手は何人だ。」
「一人です。」
魔王は沈黙した。
「一人?」
「はい。」
「城内の兵が次々と倒されています!」
魔王は少しだけ興味を示した。
「面白い。」
そして玉座から立ち上がる。
「久しぶりに退屈しない戦いになりそうだ。」
――――
竜王城。
最上階。
影虎はついに玉座の間へ辿り着いた。
巨大な扉を開く。
重々しい音が響いた。
玉座の前。
黄金の竜が座っている。
竜王だった。
影虎は静かにその姿を見る。
竜王もまた影虎を見る。
しばらく沈黙が続いた。
やがて竜王が口を開く。
「ここまで来た人間は久しい。」
影虎。
「そうか。」
「お前が竜王だな。」
竜王は笑う。
「いかにも。」
その瞬間。
竜王の背後から凄まじい魔力が溢れ出した。
城全体が揺れる。
影虎は少しだけ口元を緩めた。
「なるほど。」
「少しは楽しめそうだ。」
――――
同じ頃。
魔王城。
玉座の間。
巨大な扉が開いた。
白虎が入ってくる。
魔王は玉座に腰掛けたまま白虎を見下ろした。
「貴様か。」
白虎は刀に手を添える。
「お前が魔王か。」
魔王。
「そうだ。」
白虎。
「そうか。」
それだけだった。
だが。
白虎の目は笑っていた。
獲物を見つけた獣のように。
魔王もまた笑う。
「面白い。」
「久しぶりだ。」
「勇者以外で我の前まで辿り着いた者はな。」
白虎。
「勇者か。」
「そいつより強いといいな。」
魔王の眉が僅かに動いた。
そして。
玉座の間に殺気が満ちる。
次の瞬間。
二人は同時に動いた。
――続く。




