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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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第94話 同じ痛み

翌日も、その翌日も、ノアは、崖の祠へ通い続けた。


長居はしない。無理に話しかけもしない。ただ、少しずつ、薬草や、食べ物や、時には、他愛のない話を、そっと置いていく。それだけを、繰り返した。


二日目は、少年が、置いていった薬草に、そっと手を伸ばすのが見えた。三日目は、少しだけ、こちらを見る時間が長くなった気がした。目に見える変化は小さかったが、ノアには、確かな手応えがあった。


「今日は、こんな話をしたよ」


三日目の夜、ノアは、箱に向かって、そう報告した。


「村で採れる貝の話。……向こうも、答えてはくれなかったけど、耳は、こっちに向けてた気がする」


「いいペースだ」


キョウジュの声が、優しく答えた。


「焦らず、そのまま続けろ」


ミオの声も、続いた。


「無理に踏み込まないでいてくれて、ありがとう。……それが、一番、あの子のためになると思う」


◇


四日目の夕方、崖に着くと、少年は、いつもの岩陰ではなく、少し開けた場所に座っていた。


初めて、目が合った。逃げようとはしなかった。


「今日は……」


ノアが、恐る恐る近づくと、少年は、小さく、掠れた声を出した。


「リオ」


「え?」


「名前。リオ、っていう」


その一言に、ノアの胸が、じんと熱くなった。ようやく、届いた。長い時間をかけて、少しずつ差し出してきた手が、ようやく、届いたのだと分かった。


◇


「リオ。……ありがとう、教えてくれて」


ノアは、少し距離を詰めて、腰を下ろした。リオは、身を固くしたが、逃げはしなかった。


「僕は、ノア。……前にも言ったけど」


「聞いた。憶えてる」


リオの声は、まだ細く、弱々しかった。だが、確かに、言葉を交わしていた。


「なんで、来るの」


リオが、ぽつりと尋ねた。


「みんな、僕には、近づかない。怖い、から」


「怖くないよ」


ノアは、はっきりと答えた。


「僕も、同じだから」


◇


「同じ、って」


リオの目に、初めて、はっきりとした光が宿った。疑いと、それでも、縋りたいような、複雑な色だった。


「境の樹――こことは違う、遠い場所に、似たようなものがある。僕は、そこに、強く反応するんだ。お前が、その祠に反応するのと、同じように」


「嘘だ」


リオの声が、震えた。


「みんな、僕を化け物みたいに見る。同じなんて、そんなやつ、いるはずない」


「いるんだよ」


ノアは、静かに、しかしはっきりと言った。


「僕の村でも、最初は、そうだった。魔力ゼロの出来損ないって、ずっと呼ばれてた。……でも、それが、本当は違う意味を持ってたって、後から分かったんだ」


◇


「僕の母さんも、お前や、僕と同じだった」


ノアは、震える声で、続けた。


「独りで抱え込んで、誰にも言えなくて。……それで、死んじゃった」


リオが、息を呑んだ。


「僕は、母さんみたいには、なりたくない。だから、独りで抱え込まないって、決めたんだ。……お前にも、それを、伝えたかった」


しばらく、二人とも、何も言わなかった。波の音だけが、静かに、辺りを満たしていた。


「……本当に、同じなの」


リオが、震える声で、そう尋ねた。


「本当だよ」


ノアは、まっすぐに、リオを見つめた。


「お前は、化け物なんかじゃない。祠に近い場所で生まれた、特別な力を持ってるだけだ」


◇


リオの目から、堰を切ったように、涙が溢れ出した。声を殺しながら、痩せた体を震わせて、泣いていた。


「ずっと……ずっと、独りだと思ってた」


「もう、独りじゃない」


ノアは、そっと、リオの背に手を置いた。リオは、一瞬びくりと震えたが、拒みはしなかった。


「僕も、仲間も、みんな、味方だから」


その夜、初めて、リオは、少しだけ、多くのことを話してくれた。祠に近づくと熱を持つこと、体調を崩すたびに、両親が心配というより、恐れた目で自分を見ること、村中から遠巻きにされてきたこと。堰を切ったように溢れる言葉の一つ一つに、これまでの孤独の重みが滲んでいた。


「父さんも、母さんも、悪い人じゃない。……ただ、僕のことが、怖いんだと思う」


リオが、力なく笑った。


「小屋に、閉じ込めておくのが、一番安全だって。……それが、優しさなんだって、言われた」


その言葉に、ノアの胸が、締め付けられた。閉じ込めることと、守ることは、似ているようで、まったく違う。それを、リオの両親は、まだ知らないのだろう。


◇


孤独だった少年に、ようやく、一つの確かな繋がりが生まれた瞬間だった。


だが――


その夜、ノアが宿へ戻ると、村の入り口に、見慣れない一団の姿があった。


立派な馬と、洗練された身なりの従者たち。掲げられた紋章は、教会のものではなかった。


「あれは……」


ルカの顔が、強張った。


「王国の、紋章だ」


翌朝、村中に、緊張が走った。王国から遣わされたという一団が、村長の家を訪れ、何かを告げているという知らせが、瞬く間に広がっていった。


ノアたちが、ようやく開きかけたリオの心。その矢先に、新たな影が、静かに、しかし確実に、村に忍び寄っていた。


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