↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/102

第82話 駆けつける

王都の大通りは、朝だというのに、騒然としていた。


地面が、断続的に、低く唸る。空を見上げる人々の顔には、隠しきれない不安が浮かんでいた。人混みをかき分けながら、五人は、神殿を目指して走った。


「表門は、絶対に通れない」


先頭を走るガレンが、息を切らしながら言った。


「衛兵の数が、倍以上に増えてる。裏の資材搬入口から回るぞ」


◇


裏路地に入ると、ガレンは、迷いなく足を進めた。積み上げられた木箱の陰、洗濯物が渡された細い隙間。誰も知らないような道筋を、体で覚えているようだった。


「詳しいですね」


ノアが尋ねると、ガレンは、前を見たまま答えた。


「領主の使いで、何度もこの街を歩いてる。……表の顔だけじゃ、生き残れない仕事だからな」


搬入口の前には、見張りが一人。ガレンが、懐から何かを取り出し、短く言葉を交わすと、見張りは、気まずそうに視線を逸らし、道を空けた。


「金か?」


ルカが囁くと、ガレンは、鼻を鳴らした。


「借りだ。……こういうときのために、恩は売っておくものだ」


◇


搬入口を抜けた先、神殿の裏庭に差し掛かったところで、今度は正規の巡回に行く手を阻まれた。


「止まれ。この先は、立ち入り禁止だ」


アルバンが、一歩前に出た。懐から、鑑定官の印章を取り出す。


「中央神殿鑑定官、アルバンだ。異常事態を受け、緊急の確認に向かう」


「しかし、上からは……」


「上の指示より先に、事態が起きている。責任は、私が取る」


アルバンの声には、これまでにない強さがあった。巡回の兵士たちは、顔を見合わせ、やがて、道を空けた。


「……ありがとうございます」


ノアが、小さく礼を言うと、アルバンは、首を振った。


「礼はいい。これは、私自身の意志だ」


◇


「揺れが、強くなってる」


ハンナが、足を止めずに言った。


「ノア、大丈夫かい」


「大丈夫」


ノアは、答えながら、肩の箱を抱え直した。クドウが作った腕輪が、手首でわずかに冷たさを増している気がした。恐怖はまだ消えていない。それでも、足は止まらなかった。


◇


現代の研究室でも、モニターを囲む面々が、息を詰めていた。


「波形、まだ荒れてる」


工藤が、画面から目を離さずに言った。


「谷のタイミング、逃すなよ」


美緒が、拳を握りしめた。柳瀬は、無言のまま、二十五年前のデータと、今の波形を、交互に見比べ続けている。黒川が、静かに、しかしはっきりと言った。


「送れ。今、伝えられることを、全部」


その時、箱の枠に光が灯った。


「聞こえるか」


キョウジュの声が、緊迫した調子で響いた。


「反応の波形に、周期がある。強まる瞬間と、わずかに落ち着く瞬間が、交互に来ている」


「落ち着く瞬間があるんですか」


「ある。……ソラ、詳細を」


「揺らぎの谷は、約二十秒周期で訪れます。完全に安全とは言えませんが、突入するなら、その谷を狙うべきです」


ソラの声が、淡々と、しかし的確に告げた。


◇


同じ頃、アルダの森では、ダグとティナが、境の樹の前に立ち尽くしていた。


「村長には知らせた。……でも、あたしたちに、できることなんて」


ティナの声が、不安に揺れた。


「見てるだけじゃ、ない」


ダグが、樹の幹に手を当てた。


「昔、ノアが言ってた。ここは、繋がってる場所だって。……なら、こっちが落ち着いてることも、きっと、何かの支えになる」


ティナは、その言葉に、小さく頷いた。二人は、揺れる光を見つめながら、遠く離れた友の無事を、ただ、祈り続けた。


◇


裏庭を抜け、聖具の間へ続く回廊に差し掛かったところで、行く手に、複数の人影が現れた。ヴェルナー派の兵だった。


「……ここから先は、俺たちに任せろ」


ガレンが、腰の剣に手をかけた。


「お前と、鑑定官殿とで、時間を稼ぐ。その隙に、ノアとハンナ婆さんを通せ」


「ルカ、頼めるか」


アルバンの問いに、ルカは、にやりと笑った。


「もとより、逃げ足には自信がある。だが、今日は、逃げるためじゃなく、道をこじ開けるために使ってやる」


「お前ら、下がれ!」


兵の一人が、剣を構えたまま怒鳴った。ガレンが、その正面に立ちはだかる。


「領主メルヴィン様の名代として言う。この先、無理に通そうとするなら、後で困るのはお前らの方だぞ」


「はったりを」


「はったりかどうか、確かめてみるか」


ガレンの声に、微塵の揺らぎもなかった。兵たちが、束の間、たじろぐ。


その隙を突き、アルバンが、印章を掲げて前に出た。


「これは、神殿内部の緊急事態だ。鑑定官の権限において、通行を命じる。……妨げるなら、後日、正式に問責する」


「くっ……」


兵の一人が、剣を下ろしかけたその瞬間、奥からさらに数名が駆けつけてくる足音が響いた。


「行け!」


ガレンが、叫んだ。


「ここは、俺たちで持ちこたえる!」


四人が、それぞれの場所へ散っていく。ノアとハンナだけが、回廊の奥へと、まっすぐに走った。


◇


聖具の間に近づくにつれ、空気そのものが、震えているのが分かった。壁の向こうから、耳の奥に直接響くような、低い唸り。境の樹の前に立ったときに感じる、あの感覚に似ていた。ただし、今のそれは、あたたかさではなく、軋むような痛みを伴っていた。


「本物と、偽物の、違いか」


ノアは、震える声で呟いた。


扉の隙間から、白とも金とも言えない光が、不規則に漏れ出していた。中から、押し殺した呻き声のようなものが、微かに聞こえる。


箱の枠に、再び光が灯った。


「そっちの状況は、見えている」


キョウジュの声が、静かに、しかし力強く届いた。


「今、そちらの反応、また谷に近づいてる。……無理はするな。だが、行くと決めたなら、俺たちは、最後まで見届ける」


枠の向こうで、ミオの声が続いた。


「ノア、聞こえてる? 一人じゃないから。ちゃんと、繋がってるから」


その声に、ノアの胸の奥が、じんと熱くなった。恐怖は、消えない。それでも、独りで震えていたときとは、確かに違う何かが、そこにあった。


ハンナが、ノアの手を、強く握った。


「行くよ。あんたの隣で」


ノアは、大きく息を吸い込み、頷いた。


扉の向こうに、何が待っているのか。まだ、分からない。それでも、恐怖より確かなものが、今、ノアの中にあった。


二人は、揺れる扉に、手をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。