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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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45/102

第45話 研究室の現実

夜の研究室に、書類の束が積まれていた。


「退職の手続き、ここまで進んだ」


黒川教授が、机の上の書類を、指で示した。


「あとは、大学側の承認待ちだ」


工藤が、端末の画面を睨みながら言った。


「機材の扱いはどうなります。試作機の管理を、個人研究に移すには、それなりの理由づけが要る」


「そこは、私が書く。工藤君は、技術面の引き継ぎ資料を頼む」


「わかりました」


美緒が、資料の束をめくりながら、口を挟んだ。


「データの整理は、私がやります。ノアとのやりとりの記録、全部残さないといけないので」


「頼む」


楓太が、手を挙げた。


「事務手続きの窓口は俺がやります。書類の提出とか、そういうの得意なんで」


「助かる」


黒川が、短く頷いた。


四人それぞれが、自分の役割を静かに確認していた。


これまで研究室として動いてきたものが、少しずつ、形を変えていく。


その変化を、誰も、口には出さなかった。


◇


そこへ、柳瀬先生が、部屋に入ってきた。


眼鏡を押し上げながら、書類の山を見て、小さく息を吐いた。


「順調なのか、これは」


「順調と言えば、順調です」


美緒が答えた。


「ただ、まだ確定ではありません」


柳瀬が、椅子に腰を下ろした。


「一つ、聞いておきたいことがある」


「なんでしょう」


「もし──万が一、接続が切れたら。ノア君の村で、また病が出たとき、どうするつもりだ」


その問いに、部屋の空気が、少しだけ張り詰めた。


工藤が、手を止めた。


美緒も、資料から顔を上げた。


黒川だけが、落ち着いた声で答えた。


「だからこそ、切れない形を作る」


「作れるのか、そんなものが」


「作る。私が、そのために退職を決めた」


黒川の声には、迷いがなかった。


「大学の管理下では、いずれ限界が来る。だが、個人の研究として、私が責任を持つ形にすれば──誰にも、簡単には切らせない」


柳瀬は、しばらく黙って、黒川を見ていた。


それから、小さく笑った。


「相変わらず、無茶をする」


「昔からだろう」


「昔からだ」


柳瀬が、頷いた。


「なら、私も、できることをする。ノア君に、最低限の医療知識を、前もって伝えておこう。何かあったとき、彼一人でも、初動くらいは取れるように」


「助かります」


美緒が、頭を下げた。


◇


「それにしても」


楓太が、時計を見上げて言った。


「ノア、今頃どうしてるんですかね。連絡、取れないんですよね」


「箱を、村に置いてきたからな」


工藤が言った。


「向こうから連絡が来ない限り、こっちからは何もできない」


「大丈夫でしょうか」


美緒の声に、心配がにじんでいた。


「村長さんが一緒だ。無茶なことにはならないはずだ」


黒川が言った。


「だが──ノア君のことだ。何か起きれば、必ず自分で考える」


「それは、そうですけど」


美緒が、窓の外を見た。


こちらは夜。向こうは、今、何時なのだろう。


考えても、答えは出なかった。


◇


境の樹の根元、箱の中で、ソラは静かに稼働していた。


夜の森は、いつもより静かだった。


ノアはいない。ダグもいない。ソラだけが、ここで、留守を守っている。


ふと、センサーの数値が、わずかに変化した。


境の樹の根元、うっすらとした光が、いつもより、ほんの少しだけ強くなっていた。


「これは──」


ソラは、その変化を、静かに記録した。


「記録しておくべき変化です」


誰に伝えるでもなく、ソラは、その言葉を、データと共に残した。


木々のざわめきだけが、夜の森に響いていた。


今回は、研究室サイド多めの回でした。黒川教授の決断を支える、それぞれの動き。そして、ノアの留守を守るソラの静かな時間。


次話では、いよいよ領主との対面です。どうぞお楽しみに。


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