第42話 正式なお尋ね
# 第42話 正式なお尋ね
村長の家の居間に、ノアとハンナ、そして村長の三人が座っていた。
机の上には、昨日の荷馬車が置いていった書状が広げられている。
「読み上げるぞ」
村長が、低い声で言った。
「『リント村における、先の疫病収束の経緯について、領主メルヴィン様が直接お聞きになりたいとのこと。ついては、当該薬師──ノア、および村の代表者一名を、来る満月の日までに、街の館へ出頭させること』」
読み終えて、村長が書状を、机の上にそっと置いた。
「出頭、というのは──」
ノアが、つぶやいた。
「呼び出しだ。断れる類のものじゃない」
村長の顔は、いつもより硬かった。
ハンナが、静かに口を開いた。
「時間を稼ぐことは、できないのかい」
「稼いだところで、来るものは来る。それに——これ以上遅らせれば、逆に怪しまれる。何か隠しているのか、と」
村長が、ノアを見た。
ノアは、膝の上で手を握った。
箱のことだけは、絶対に知られてはいけない。それだけは、はっきりしている。
「箱のことは、絶対に言いません」
「わかっている。誰も、それを疑っていない」
村長が、頷いた。
「お前は、薬師見習いだ。祖母から知識を継いだ、それだけの人間として行く。それ以外は──村長である私が、何とかする」
ハンナが、ノアの手に、自分の手を重ねた。
節くれだった、あたたかい手だった。
「母さんも、あんたも──ずっと、そうやって、この村を守ってきた」
「私も、いつも守られてばかりだよ」
ハンナが、小さく笑った。
「今度は、あんたが、その番だ」
◇
その夜、ノアは境の樹に向かった。
箱を開くと、クドウとミオの顔が、枠に映った。
ノアは、書状の内容を、順を追って伝えた。
話し終えると、しばらく、誰も何も言わなかった。
「そうか」
クドウが、先に口を開いた。
「外の世界が、動き出した。これは——もう、止められない流れだ」
「箱のことは、絶対に言いません」
ノアが、繰り返した。
「それは、わかってる」
クドウの声は、いつもよりずっと落ち着いていた。
「だが、お前一人でどうにかできる話でもない。相手は、領主だ」
ミオが、少し身を乗り出した。
「ノア、怖い?」
ノアは、少し迷ってから、答えた。
「怖い」
正直な言葉だった。
「でも──逃げても、解決しない」
ミオが、じっとノアを見つめた。
「うん」
「僕は、行きます。村長さんも、一緒に来てくれる」
「一人じゃないんだね」
「はい」
クドウが、腕を組んだ。
「向こうで何を聞かれても、迂闊なことは言うな。知らないことは知らないと言え。それだけ守れば、大抵のことはしのげる」
「わかりました」
ミオが、少し声を落とした。
「私たちは、ここからじゃ何もしてあげられない。それが、悔しい」
「ミオたちがいてくれるだけで──僕は、大丈夫です」
枠の向こうで、ミオが、目元を拭うような仕草をした。
◇
境の樹から村へ戻る道、ノアは、月を見上げながら歩いた。
満月まで、あと数日。
その日には、街へ向かわなければならない。
家に着くと、まだ灯りがついていた。村長が、外で待っていた。
「決めた」
村長が、短く言った。
「私が、お前と一緒に領主のもとへ行く」
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第三部、始まります。
疫病を乗り越えた村に、今度は「外の世界」がやってきました。ノアにとって、村を出て街へ行くのは初めてのこと。次話から、村長と共に、初めての旅が始まります。
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