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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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第41話 第二部完・それぞれの居場所

夏が来た。


疫病は、完全に収束した。ハンナは、もう普段と変わらない様子で、薬草を扱っている。ネコタビ草も、少しずつ、森に戻ってきていた。


ある日、村長が、広場に村人を集めた。


「今回の病を、この村は——自分たちで乗り越えた」


村長の声が、広場に響いた。


「ノアと、ハンナのおかげだ」


その言葉に、村人たちが、頷いた。


ノアは、少し離れたところで、その様子を見ていた。村長が、自分の名前を、こんなにはっきりと、村人の前で言うのは、初めてだった。


「出来損ない」


という言葉を、使う人間は、もう——この村に、一人もいなかった。


◇


ダグが、隣に立って、腕を組んでいた。


「お前、すごいことになってんな」


「ダグも、手伝ってくれたから」


「俺は、薬を運んだだけだ」


「それが、大きかった」


ダグが、少し気まずそうに、頭をかいた。


ティナが、ノアの袖を、軽く引いた。


「ほら、ちゃんと前向いて。村長、お前のこと話してるんだから」


「わかってる」


ガルドさんが、遠くで、静かに頷いていた。エーラさんが、目を拭っていた。


ノアは、その全部を、しっかりと、見ていた。


◇


その夜、研究室では、いつもより少し、にぎやかな空気があった。


「やっと、落ち着きましたね」


美緒が、コーヒーを配りながら言った。


「コルソさんも、メイちゃんも、ハンナさんも——みんな、元に戻った」


「落ち着いた、とは言い切れない」


工藤が、端末から目を上げて言った。


「報告書の件も、先生の決断も、まだ何も終わってない」


「それは、わかってます」


美緒が、少し苦笑した。


「でも——少なくとも、ノアの村のことは、一区切りついた。それくらいは、言わせてください」


「区切りは、確かにありますよ」


楓太が、横から言った。


「今日みたいに」


黒川が、しばらく、三人のやりとりを聞いていた。それから、静かに言った。


「ノアに、一つ伝えておきたいことがある」


◇


枠の向こうに、ノアの顔があった。


「ノア君」


黒川が、ゆっくりと言った。


「私から、お礼を言わせてほしい」


「キョウジュが、お礼を?」


「君のおかげで——私の研究人生の最後に、一番大事な出会いができた」


ノアは、少し戸惑った。


「キョウジュ、それは——僕の言葉です」


黒川が、珍しく、声を出して笑った。


「そうか。なら——お互いに、同じことを思っていた、ということだな」


「みたいです」


「いいことだ」


黒川が、頷いた。


その目は、研究室の灯りの下で、いつもより、ずっと穏やかだった。


◇


枠を閉じたあと、ノアは一人で、境の樹に向かった。


夜の森は、静かだった。


根元に座って、箱を膝の上に置いた。


光は、今夜も——弱く、ある。


「ソラ」


「はい」


「僕はここにいる。それだけで、いいんだな」


「最初から、いていい場所でした」


「うん」


ノアは、樹を見上げた。


「——でも、もっと広い場所も、あるのかもしれない」


「……どういう意味ですか」


「わからない。でも、そんな気がする」


ソラは、それ以上、何も聞かなかった。


ノアも、それ以上、何も言わなかった。


ただ、二人で、夜の森の静けさを、しばらく、共有していた。


◇


翌日、村に、見知らぬ荷馬車が来た。


荷台には、旅の荷物ではなく——測量の道具らしきものが、積まれていた。


御者の男が、村長の前に立って、書状を差し出した。


「領主様より。リント村の薬師についての、正式なお尋ねです」


村長が、書状を受け取った。


ゆっくりと、目を通していく。


それから、村長が、顔を上げて、ノアを見た。


ノアも、村長を見た。


何も言葉はなかった。でも——二人の間で、何かが、確かに通じていた。


外の世界が、本格的にやってくる。


その朝の光は、いつもと同じように、村に降り注いでいた。


---




第二部、完。


疫病の危機を、ノアと村の人たち、そして研究室の仲間たちが、一緒に乗り越えました。ハンナさんが倒れたとき、何を書いても足りない気がしましたが——夜が明けたとき、少し救われた気持ちになれたなら嬉しいです。


ダグが「俺が運ぶ」と言った場面、書いていて一番好きでした。立場が、ちゃんと逆になっていく物語です。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


★評価をいただけると、本当に励みになります。


第三部では、外の世界が、いよいよ本格的に動き始めます。次でお会いしましょう。

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