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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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第40話 アルダの森の変化

「おかしいもの、って何だ」


走りながら、ノアが聞いた。


「見ればわかる。境の樹のあたりだ」


ダグが、息を切らせながら答えた。


「夜明け前、狩りに出てて見た。最初は、火か何かかと思った」


「火?」


「いや——違う。火じゃない。もっと、変な感じの光だった」


二人で、境の樹に向かった。


◇


着いたとき、日はもう高く、何も見えなかった。


「ここだったか」


「ここだ。間違いない」


ダグが、樹の根元を指した。


ノアは、その場所をじっと見た。何も変わったところは、ない。いつもと同じ、土と、根と、苔があるだけだった。


「日中は、何も見えない」


「夜明け前は、確かに光ってた。お前が最初に箱を見つけたとき——こんな感じだったか?」


ノアは、少し考えた。


最初に箱を見つけたときのことは、よく覚えている。もやもやと歪んだ空気。淡く発光していた、あの瞬間。


「似てる気がする」


「やっぱりか」


ダグが、樹を見上げた。


「俺、何かまた、変なものが出てくるんじゃないかと思って——お前に知らせた」


「ありがとう、ダグ」


「礼はいい」


ダグが、いつものように言った。それから、少し心配そうな顔をした。


「今夜、もう一度ここに来てみるか」


「来る」


◇


夕暮れ時、境の樹に戻った。


ダグも一緒だった。


光が見え始めたのは、日が完全に落ちる少し前だった。


樹の根元の土が、うっすらと光っていた。最初に見たときよりは弱い。でも——確かに、光っている。


「これだ」


ダグが、低い声で言った。


ノアは、肩掛け袋から箱を取り出した。


「ソラ、見えるか」


「見えています。これは——」


ソラの声に、わずかな緊張があった。


「通常では測定できない種類の微弱なエネルギー反応があります。試作機が転送されてきたときの残滓に近い波形です」


「クドウを呼んでくれ」


しばらくして、枠が明るくなった。クドウの顔が、真剣だった。


「ノア、その光、もう少し近くで見せてくれ」


ノアは、箱を樹の方に向けた。


クドウが、画面を見ながら、何かを計算しているようだった。


「境の樹が、また反応している」


クドウが、誰にともなく呟いた。


「一時的なものか、継続的なものか、判断できない。データが少なすぎる」


「これから、どうなるんだ」


「わからない。だが——記録を続ける必要がある」


枠の向こうで、別の声が聞こえた。


「クドウ君、私にも見せてくれ」


キョウジュの声だった。


ノアは、もう一度、箱を樹の方へ向けた。


キョウジュが、しばらく無言で見ていた。それから、低く言った。


「記録を続けろ」


その声が、少しだけ、高揚しているように聞こえた。


◇


「キョウジュ、何かわかったのか」


ノアが、聞いた。


「まだ、何もわからない。だが——これは、興味深い現象だ」


キョウジュが、慎重に言葉を選びながら言った。


「試作機が、最初にこの場所に現れたのも、何か理由があったはずだ。境の樹が、その理由と関係しているなら——記録する価値がある」


「危険なことなのか」


「今のところ、危険を示す要素はない。だが——わからないことを、わからないままにしておくのも、危険なことだ」


その言葉が、ノアの胸に、静かに残った。


わからないことを、わからないままにせず、考え続けること。


それは、ノア自身が、少し前に思ったことと、同じだった。


◇


ダグと一緒に村へ帰る道で、ハンナとすれ違った。


こんな時間に、珍しい。


「ばあちゃん、こんな時間に」


「眠れなくてね」


ばあちゃんが、少し笑った。


「ノア、あの樹のことだけど」


ノアの足が、止まった。


「知ってたの?」


「うすうすね」


ばあちゃんが、境の樹の方を見た。


「あの樹は——昔から、人の死に目に光ると言われていたよ」


ダグが、横で息を呑んだ。


「死に目、って——」


「でも」


ばあちゃんが、続けた。


「お前の母さんが死んだときは、光らなかった」


ノアは、息を止めた。


「光ったのは——お前が見つけた、あの日の前だけだ」


その言葉が、ノアの頭の中で、ゆっくりと意味を持っていった。


母が死んだときは、光らなかった。でも、箱が現れたときには、光った。


「ばあちゃん、それって——」


「私にも、わからないよ」


ばあちゃんが、静かに言った。


「ただの言い伝えだ。本当のことかどうかも、わからない。でも——お前が知っておくべきことだと思った」


ノアは、その言葉を、胸の中に、丁寧にしまった。


ダグが、何か言おうとして、結局、何も言わなかった。


三人は、それ以上、何も話さずに、村への道を歩いた。


夜の風が、境の樹を、静かに揺らしていた。


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