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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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第39話 使者

領主の使者は、村長が予告してから三日後に、村に現れた。


馬車が一台。御者と、護衛らしき男が二人。それから——馬車から降りてきたのは、四十代くらいの、身なりの整った男だった。


旅の薬師とは、雰囲気が違った。礫儀正しいが、その礫儀の奥に、何かを測っているような目があった。


「リント村の、村長殿でいらっしゃいますか」


「私です」


村長が、広場で応対した。ノアは、少し離れた場所から、その様子を見ていた。村長に、目立つなと言われていた。


「領主様より、例年の巡回として参りました。村の様子を、確認させていただきます」


「ご苦労様です。どうぞ」


村長の声は、いつも通り、落ち着いていた。


◇


「聞くところによると——この村で、疫病が出たそうですね」


使者が、村の様子を見回しながら言った。


「出ました。少し前のことです」


「治癒師なしで、収まったとも聞いています。本当ですか」


「本当です」


村長が、答えた。


「流行り病が少し出ましたが、薬師の対処で、収束しました」


「薬師、とは」


「この村の薬師と——その見習いです」


使者の目が、少し細くなった。


「その見習いに、話を聞けますか」


ノアの心臓が、跳ねた。


村長は、表情を変えずに言った。


「今は、体を休めさせています。疫病の対処で、夜も眠れない日が続きましたので」


「そうですか。それは——大変だったでしょうね」


使者は、それ以上、強くは聞いてこなかった。でも——その視線が、一瞬、ノアのいる方向に向いた気がした。


ノアは、目を逸らさずに、ただ静かに立っていた。


◇


使者は、一泊した。


ティナの母の宿屋に泊まり、夕食のときも、村人にいくつか話を聞いていたらしい。


「村の暮らしぶりは、どうですか」「困っていることはありますか」「最近、変わったことはありましたか」——表向きは、普通の巡回の質問だった。


でも、ティナが後で教えてくれた。


「あの人、最後に、必ず一つ聞いてた。『この村に、不思議な力を持つ者はいるか』って」


「不思議な力」


「うん。みんな、首をかしげてた。魔法のことだと思ったみたいで、『この村は、誰も魔力が強くないので』って答えてた人が多かった」


「それで——」


「使者は、それ以上は聞かなかった。でも——納得してない顔だった」


ノアは、その話を聞いて、胸の中が、少し重くなった。


◇


翌朝、使者は何事もなく、馬車で村を出ていった。


村長が、その背中を見送りながら、ノアに言った。


「今回は——大丈夫だった。だが」


「だが?」


「あの男は、何も確証を得られなかった。だから——また来る可能性がある。別の使者か、もっと立場の高い人間かもしれない」


ノアは、頷いた。


「わかってる」


「お前は、よくやった。緊張していたはずだが、何も悟られなかった」


「村長が、ちゃんと対応してくれたから」


「いや」


村長が、珍しく、少し表情をやわらげた。


「お前が、ただ静かに立っていただけで、十分だった。何かを隠そうと焦る方が、かえって目立つものだ」


その言葉に、ノアは、少しだけ救われた気がした。


◇


森へ向かう道で、箱を開いた。


「ソラ、聞いてたか」


「聞いていました。使者とのやりとり、全部記録しています」


「クドウは?」


「います。今呼びます」


しばらくして、枠が明るくなった。クドウだった。


「使者の話、聞いた。外の世界が、本格的に動き始めたな」


「やっぱり、そう思うか」


「思う。一度目は、何も得られなかった。だが——一度諦めるとは思えない」


ノアは、少し考えた。


「これから、どんどんこういうことが増えるんだろうな」


「増える」


クドウが、はっきりと言った。


「お前の覚悟を、もう一度確認したい」


ノアは、その言葉を、少しの間、受け止めた。


「準備というより——覚悟は、できてる」


「理由は」


「ここが、僕の居場所だから。守りたい」


クドウは、何も言わなかった。ただ、頷いた。


それで、十分だった。


◇


ミオの声が、横から聞こえた。


「ノア、これからどんどんこういうことが増えると思う。準備、できてる?」


「うん。今、クドウにも言った」


「そっか」


ミオが、少し優しい声で言った。


「私たちも、できることを考えてる。すぐには言えないけど——ノアのために、動いてることがある」


「ミオたちにも、大変なことがあるんだな」


「うん」


「そうか。じゃあ——僕も、ちゃんとしないといけないな」


ミオが、少し笑った。


「ちゃんとしてるよ、いつも」


◇


その夜、台所で、箱の前に座っていた。


「ソラ」


「はい」


「一つ伝えてもいいですか」


ソラが、いつもより少し、言葉を選ぶような声で言った。


「美緒さんたちの側でも、色々なことが起きています。でも——みんな、あなたとの繋がりを守りたいと思っています」


ノアは、その言葉を、静かに受け止めた。


「ありがとう、ソラ」


外で、夜風が、木々を揺らしていた。


村は、まだ穏やかだった。でも——その穏やかさが、いつまで続くのか、ノアにはわからなかった。


ただ——わからないことを、わからないままにせず、考え続けること。それが、今、自分にできる、唯一のことだと思った。


翌朝、ダグが、息を切らせて家にやってきた。


「ノア、一緒に来い。森で、おかしいものを見つけた」


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