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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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第35話 夜を越える

夜は、なかなか進まなかった。


ノアは、ばあちゃんの傍を離れなかった。布を絞り直し、額に当て、また絞り直す。その繰り返しを、何度も続けた。


ソラが、時々、静かに声をかけてきた。


「ノア、体温を確認しますか」


「頼む」


「先ほどと、ほぼ同じです。悪化はしていません」


「良くなってもいない、ってことか」


「そうです」


悪くなっていない。それだけでも、今は救いだった。でも——良くなる兆しが見えないことが、別の不安を連れてきた。


「ソラ、薄ら寒い気がするんだけど、ばあちゃんはどうだ」


「体温が高いので、寒さは感じにくいかもしれません。ただ、念のため、布団を確認してください」


ノアは、布団の隅を、ばあちゃんの肩までしっかりかけ直した。


◇


明け方近く、枠に小さな明かりが灯った。


「ノア」


ミオの声だった。眠そうな声ではなかった。むしろ、起きていたような声だった。


「ミオ……起きてたのか」


「うん。今日は、誰も帰らなかった」


ノアは、その言葉に、少しだけ胸が温かくなった。


「眠れてる?」


ミオが聞いた。


「眠れない」


「そうだね」


それだけだった。


ミオは、何も特別なことを言わなかった。アドバイスもしなかった。ただ——枠の向こうに、いてくれた。


「ミオ」


「うん」


「何も言わなくていいから。ただ、そこにいてくれ」


「うん。ここにいる」


ノアは、ばあちゃんの手を握ったまま、枠を見た。ミオも、何も言わず、画面の向こうで座っていた。


言葉が少ないことが、こんなに心強いと、知らなかった。


◇


東の空が、わずかに白んできた頃、ばあちゃんの呼吸が、少し変わった。


「ばあちゃん?」


ノアは、慌てて顔を近づけた。


ばあちゃんが、ゆっくりと目を開けた。


「……ノア」


声が、少し、はっきりしていた。


「ばあちゃん、わかるか」


「わかるよ。お前の声が、ずっと聞こえてた」


ノアは、額に手を当てた。


熱が、少し下がっている気がした。


「ソラ、確認してくれ」


「確認します。……体温が、下がっています。先ほどより、明確な変化です」


「ばあちゃん、楽になってきたか」


ばあちゃんが、薄く笑った。


「……楽に、なってきた」


その言葉に、ノアの中で、何かが崩れた。涙が、止まらなくなった。


「ばあちゃん」


「泣くな、ノア。まだ、治ったわけじゃないよ」


「うん。でも——」


「でも、いい兆候だ。そうだろう」


「うん」


ノアは、涙を拭わずに、頷いた。


◇


朝が来た。


村全体でも、昨日より症状が重くなった人が出ていなかった。コルソのじいさんは、起き上がって、自分で水を飲めるようになった。メイも、熱が少し下がった。


ダグが、広場に立って、村人に薬の飲み方を伝えていた。慣れない手つきだったが、丁寧に説明していた。


ティナは、水の準備を手伝いながら、家々を回っていた。


村長は、村人に安静を促し、不安を抑えていた。


誰も、ノアに「あの薬は何だ」と問い詰めなかった。「出来損ない」と呼ぶ人も、もういなかった。


それぞれが、自分にできることをやっていた。


ノアは、ばあちゃんの傍に座って、その様子を、窓の外から見ていた。


「これは——みんなでやった」


声に出さず、そう思った。


◇


昼前、ばあちゃんが、少し起き上がれるようになった。


「ノア、水を、一杯くれるか」


「うん」


水を渡すと、ばあちゃんはゆっくりと飲んだ。手が、まだ少し震えていたが、自分で持てるくらいには戻っていた。


「ばあちゃん」


「なんだい」


「もう、無理しないでくれ」


ばあちゃんが、少し笑った。


「無理はしてないよ。ただ、年だから、こうなることもある」


「年のせいじゃない。ばあちゃんが、僕とソラのために、いろいろ話し続けてくれてたから——」


「それは違うよ、ノア」


ばあちゃんが、はっきりと言った。


「あれは、私がしたかったことだ。お前のためだけじゃない。私自身のためでもある」


「ばあちゃんのため、って」


「私の知識が、誰かの役に立つ。それが、嬉しかったんだよ。お前が、薬師見習いになったときと、同じようにね」


ノアは、その言葉を、胸の中で繰り返した。


「だから——心配しなくていい。私は、自分で選んでやってたことだ」


ばあちゃんが、ノアの手を、逆に握り返した。


「ノア。もう一つ、頼んでいいか」


「なんでも」


「ミオさんに——お礼を言っておくれ。私の口から」


「今すぐ呼んでくる」


ノアは、台所の隅から、箱を持ってきた。


枠を開く前に、少しだけ、深呼吸した。


長い夜が、ようやく終わった。


朝の光が、台所の窓から、静かに差し込んでいた。


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