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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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第33話 外からの波

夜明け、ダグの声が、ソラを通じて届いた。


「ノア、コルソのじいさん、少し楽そうだ。目を開けて、水を飲んだ」


ノアは、台所の椅子で、その言葉を聞いた。一晩、起きていた体に、ようやく力が抜けた。


「ありがとう、ダグ」


「礼はいい」


短い言葉だったが、十分だった。


その朝——同じ時刻、研究室では、別の波が動き始めていた。


◇


「黒川先生、学部長室まで来てください」


事務からの連絡を受けて、黒川は静かに席を立った。


「行ってくる」


美緒、工藤、楓太の三人は、研究室に残った。


「先生、一人で大丈夫ですか」


楓太が、心配そうに言った。


「大丈夫だ。これは——私の問題だ」


黒川は、それだけ言って、研究室を出た。


ドアが閉まったあと、しばらく誰も何も言わなかった。


「ノアの方は、コルソさんの容態が改善してるみたいですね」


楓太が、モニターを見て言った。


「ダグくんの報告、ちゃんと届いてる」


「良かった」


美緒が、小さく息をついた。


「でも——こっちは、まだ何も終わってない」


工藤が、端末を見ながら言った。


◇


学部長室で、黒川は一時間ほど話していた。


戻ってきたとき、その顔には、はっきりとした疲労が見えた。


「先生、どうでしたか」


美緒が、すぐに聞いた。


「学部長は、試作機が消えた実験について、正式な報告書を提出するよう求めてきた」


黒川は、椅子に座りながら言った。


「予算の使途、研究の進捗、試作機の現状——すべて、文書で説明しろと」


「猶予は」


「二週間だ」


その言葉に、研究室の空気が変わった。


楓太が、思わず言った。


「二週間って——」


「短い。わかっている」


黒川が、静かに言った。


「だが、学部長としては、当然の要求だ。試作機がなくなって、それでも研究が続いている。説明がなければ、誰だって疑う」


工藤が、腕を組んだ。


「全部書けば、接続を切られる可能性がある」


「そうだ」


「書かなければ」


「隠蔽になる。長くは続かない」


美緒が、声を落として言った。


「中間は、ないんですか」


「中間?」


「転送に成功したこと、接続が維持されていることは書く。でも、相手側の情報——場所も、人物も——書かない。それなら、嘘ではないですよね」


黒川は、少しの間、美緒を見ていた。


「それが、限界かもしれないな」


◇


その日の午後、工藤の端末に、また別のメールが届いた。


差出人は、同じ助教だった。


「黒川研、報告書出すんだって聞いた。今度こそ、何があったのか分かるんじゃないか?」


工藤は、画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。


「楓太」


「なんですか」


「お前、ノアに伝えておいた方がいいと思うか。接続が切られる可能性があるって」


楓太は、すぐには答えなかった。


「……正直、わかりません。でも——最悪を想定しておくのは、必要だと思います」


「美緒は、何て言うと思う」


「『まだ早い』って言うと思います」


工藤は、頷いた。


「俺も、そう思う」


「でも、いつかは——」


「いつかは、言わなきゃならん。だが、今じゃない」


工藤が、端末を閉じた。


「今、ノアは村のことで必死だ。こっちの問題まで背負わせるのは——違う」


楓太は、何も言わなかった。ただ、その判断に、納得していた。


◇


夜、美緒が一人で研究室に残っていた。


モニターの中、ノアが眠っている様子が、わずかに見えた。台所の椅子で、頭を少し傾けて、眠っているらしい。


「ソラ、ノアは眠れてる?」


「はい。穏やかに眠っています」


「そうか……よかった」


美緒は、ため息をついた。


「ソラ、私たちは、正しいことをしてるのかな」


ソラが、少し間を置いて答えた。


「わかりません。でも——美緒さんたちは、毎回、迷いながら、選んでいます。それは、正しい人のすることだと思います」


美緒は、その言葉に、少しだけ救われた気がした。


「ありがとう、ソラ」


「いえ」


そのとき、研究室のドアが開いた。黒川だった。


「まだ、いたのか」


「先生も」


黒川は、ノアのモニターを見ながら、静かに椅子に腰掛けた。


「美緒君、一つ、考えていることがある」


「なんですか」


「報告書の件だ。中間の案——君が言ったやり方は、悪くないと思う。だが、それだけでは、いつか限界が来る」


「限界、というのは」


黒川は、少しの間、黙っていた。


「私が、もし——大学を離れたら、どうなると思う」


美緒は、その問いの意味を、すぐには理解できなかった。


「先生、それは——」


「考えているだけだ。まだ、決めたわけじゃない」


黒川は、それ以上は言わず、ただモニターの中のノアを見ていた。


その横顔には、これまで見たことのない種類の覚悟が、静かに浮かんでいた。


◇


翌朝、ノアが目を覚ましたとき、箱から小さな音がした。


「ノア、おはようございます」


ソラの声だった。


「おはよう、ソラ。コルソのじいさんは——」


「ダグさんから、報告が来ています。今朝も、落ち着いているそうです」


ノアは、安心して、肩の力を抜いた。


「ミオは?」


「今日は、少し遅れるそうです。研究室で、別のことが起きているようです」


「別のこと?」


「詳しくは、私からは言えません。ミオから直接、話があると思います」


ノアは、その言葉に、わずかな違和感を覚えた。


ソラが、何かを隠している。


そう感じたのは、初めてのことだった。


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