↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/102

第32話 ダグの選択

「コルソのじいさんが——かなりひどい」


ダグが、息を切らしながら言った。


「熱が、すごく高い。さっき見てきた」


ノアは、薬の包みを握り直した。


「メイより先に、コルソのじいさんが悪くなったのか」


「最初に羊の異変に気づいたのは、じいさんだ。一番早く、羊に触れてたかもしれない」


最初に感染した可能性が高い。それなら——一番、悪化が進んでいてもおかしくない。


「ダグ、僕についてきてくれ」


「もちろん」


ダグが、迷いなく言った。


◇


コルソの家に向かう道で、ダグが言った。


「お前、何か知ってるんだろ」


メルのときと、同じ言葉だった。でも——今度は、目の色が違った。


「知ってる。薬を作った」


「効くのか」


「わからない。でも——確かめなければならない」


ダグが、少し黙ってから言った。


「前は、お前の薬を断った。今は——違う」


「違う?」


「前みたいに、扉を閉めない。俺はお前を信じる。だから、話してくれ」


ノアは、足を止めずに、横にいるダグを見た。


その顔には、迷いがなかった。


「ありがとう、ダグ」


「礼はいい。当然のことだ」


その言い方に、ノアは少し笑った。ばあちゃんも、村長も、ガルドさんも、みんな同じことを言う。


「何がおかしい」


「いや——みんな同じことを言うなと思って」


「それが、この村なんだろ」


ダグが、前を向いたまま言った。


それも、ノアには新しい発見だった。


◇


コルソの家に着くと、じいさんは布団の中で、苦しそうに呼吸していた。汗が、額からこめかみに流れている。


「コルソさん」


ノアが呼んだが、反応が薄かった。


ノアは膝をついて、できる範囲で様子を確認した。発熱、関節の痛み、呼吸の速さ。脚の付け根を見ると、メイと同じ、赤黒い小さな点があった。


「ソラ、聞こえるか」


「聞こえています」


「コルソのじいさんの様子、見えるか」


「見えます。状態を記録しています」


ヤナガセの声が、すぐに来た。


「ノア君、症状の進行が、メイちゃんより速いようだ。先に感染していた分、悪化も早いのかもしれない」


「薬を使っていいか」


「使ってくれ。ただ——量に気をつけて。子どもと大人で、必要な量が違う」


ノアは、薬の包みを開けた。コルソのじいさんの娘——メイの母が、心配そうに見ていた。


「これは、何の薬なの」


「ハンナばあちゃんが、調合した薬です」


嘘ではなかった。ばあちゃんが、実際に調合した。


「効くのかい」


「わからない。でも——今、一番できることだと思う」


メイの母は、しばらくノアの顔を見ていた。それから、頷いた。


「あなたを、信じる。お父さんのこと、お願い」


◇


薬を飲ませて、ダグと二人で、コルソの家に残った。


「俺が、ここに泊まる」


ダグが言った。


「様子を見る。何かあったら、すぐお前に知らせる」


「ダグが?」


「悪いか」


「悪くない。でも——」


「メルのとき、お前がそうしてくれた。お前は、ずっと外で待ってた。誰にも頼まれずに」


ノアは、何も言えなかった。


「今度は、俺がやる」


ダグが、布団の傍に座った。


「お前は、箱のところに戻れ。先生とか、ミオさんとかと、ずっと話してないといけないんだろ」


「うん」


「だったら、行け。俺はここにいる」


立場が、逆になっていた。


メルのとき、ダグはノアの薬を拒んだ。今は——ダグが、ノアの薬を信じて、そばにいることを選んでいる。


「ダグ、ありがとう」


「礼はいい」


ダグが、短く言った。


「当然のことだ」


◇


ノアは家に戻って、箱を台所に置いた。


「ソラ、コルソのじいさんの様子を、見続けてもらえるか」


「はい。ダグさんがそばにいるなら、彼の声も拾えます」


「ダグの声?」


「ダグさんが報告してくれれば、それも記録に残せます」


なるほど、と思った。箱が直接見えなくても、ダグが言葉で伝えてくれれば、それも一つの情報になる。


ヤナガセが言った。


「ノア君、しばらく経過を見よう。体温と呼吸のパターンが、改善するかどうかが、最初の判断材料になる」


「どれくらいで分かる」


「半日から一日。焦らないでくれ」


焦らないでくれ、と言われても、焦らないことは簡単じゃなかった。でも——焦って何かを変えても、状況が良くなるわけではないことも、ノアはもう知っていた。


◇


夕方、ダグから声がかかった。


ソラが、その声を拾って伝えてくれる。


「ノア、聞こえるか」


「聞こえてる。どうだ」


「呼吸が、少し落ち着いてきた気がする。汗も、少し減った」


ノアは、ソラに確認した。


「ソラ、データではどうだ」


「体温が、わずかに下がっています。呼吸のパターンも、改善の傾向があります」


ヤナガセが、すぐに言った。


「いい兆候だ。だが——まだ油断はできない。一晩、様子を見よう」


ノアは、台所の椅子に座って、箱を見つめた。


ミオの声が、静かに聞こえた。


「ノア、今日は本当に、いろんなことがあった日だったね」


「うん」


「ダグくんが、コルソさんのそばにいてくれてる。それも——大きいと思う」


「ダグは、変わったんだと思う」


「ノアも、変わったよ」


ミオが、少しやわらかく言った。


「最初の頃、ノアは一人で全部背負おうとしてた。今は——ダグくんに任せられる部分は任せて、自分は別の役割を持ってる」


「役割って」


「箱の前で、私たちと話す役割。それも、すごく大事な役割だよ」


ノアは、その言葉を考えた。


一人で全部やらなくていい。誰かに任せて、自分にできることをやる。


それが——一緒にやる、ということなのかもしれない。


◇


夜が深くなって、村が静かになった。


ノアは台所の椅子に座ったまま、ソラの声を待っていた。


「ノア」


「なに」


「ダグさんから、報告が来ました」


「どうだった」


「コルソさんが、少し眠れているそうです。呼吸も、安定してきていると」


ノアは、息を吐いた。


まだ、安心はできない。一晩、様子を見なければわからない。でも——少しだけ、肩の力が抜けた。


「ソラ、ありがとう」


「私は、ただ伝えているだけです」


「それでも、ありがとう」


外で、夜の風が、木々を揺らしていた。


ノアは、箱を膝の上に乗せたまま、夜が明けるのを待つことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。