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異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


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第31話 数が足りない

ばあちゃんを台所に呼んで、もう一度箱を開いた。


「ハンナさん、おはようございます」


ヤナガセが、丁寧に声をかけた。


「おはよう、先生。今日は、薬の話だと聞いたよ」


「そうです。対処法は見えてきました。ですが——必要な量について、相談したいことがあります」


ばあちゃんが、椅子に座った。ノアもその隣に座った。


「対処に必要なものは、二つあります」


ヤナガセが、ゆっくりと説明した。


「一つは、安静と水分補給、それから特定の食べ物を避けること。これは知識だけで伝えられます。すぐに、村中に伝えてもらって構いません」


「もう一つは」


「薬です。虫が媒介する感染症の場合、初期に適切な薬を使うことで、重症化を防げる可能性が高い。ですが——」


ヤナガセが、少し言葉を切った。


「今、メイちゃん一人なら、転送窓で送れる量で足ります。でも、これから患者が増えたら——量産はできません」


クドウの声が、続いた。


「転送窓は手のひら大だ。一回で送れる量は限られている。電力にも限りがある。ソーラーと水力で動いているが、連続で使い続ければ、いつか足りなくなる」


ノアは、頭の中で考えた。


「一日に、何回くらい送れる」


「正確な計算はまだだが——数回が限界だと思う。それも、毎日続けられるわけじゃない」


数が足りない。


その言葉が、重く落ちてきた。


◇


「材料だけ、送ってもらえないか」


ノアが言った。


枠の向こうで、一瞬、沈黙が落ちた。


「材料を送って——僕が作る。ばあちゃんと一緒に」


ヤナガセが、少し考えるような表情をした。


「ノア君、それは簡単なことじゃない。素材から薬を調剤するのは、専門的な知識と技術が必要だ。量を間違えれば、効果がないだけでなく、危険になることもある」


「わかってる。でも——ばあちゃんには、薬の知識がある」


ばあちゃんが、静かに言った。


「私は、薬草の調合はできる。でも——先生の言う薬が、薬草でできるものなのかは、わからない」


「そこが問題です」


ヤナガセが言った。


「今回必要な薬は、いわゆる抗菌薬に近いものです。植物由来の成分で代用できる部分もありますが、効果の確実性という点では、こちらの薬には及びません」


「全部を、薬草で作れって言ってるわけじゃない」


ノアが言った。


「足りない分だけ。送れる量で足りる分は送ってもらって、足りない分を——僕たちで、なんとかする方法を考えたい」


ヤナガセが、ノアをじっと見た。


「君は、ハンナさんの知識を、信じているんだね」


「信じてる。それに——ばあちゃんが一人で考えるわけじゃない。先生が、教えてくれるなら」


ヤナガセが、少しの間、黙っていた。


それから、ゆっくりと言った。


「わかった。一つずつ、確認していこう。慎重に、だが——前に進む方法を探そう」


◇


「先生、本気ですか」


楓太が、横から小さく聞いた。


「素材からの調剤は、リスクが高いって、いつも言ってましたよね」


「リスクは、ある」


ヤナガセが、端末に向かいながら言った。


「だが——転送窓の制約は、現実だ。量産できない以上、何か別の手段を考えなければならない。完全に安全な道は、もうない」


工藤が、腕を組んだ。


「先生、これまでの自分たちで決めたルールが、また壁になりますね」


「ルールは、必要だから決めたものだ。だが——ルールを守ることが、目の前の命より大事になったら、それはルールの意味を間違えている」


美緒が、頷いた。


「素材で代用できる部分を、できるだけ広げましょう。ヤナガセ先生が監督して、ハンナさんとノアが、慎重に作っていく。それが、今できる最善の形だと思います」


工藤が、端末を叩きながら言った。


「俺は、転送の効率を上げる方法を考える。一回の転送で、もう少し量を増やせるかもしれない」


「お願いします」


ヤナガセが、頷いた。


「では、始めよう。ハンナさん、ノア君——一つずつ、確認していく」


◇


ヤナガセが、必要な材料を一つずつ説明した。


「まず、解熱と炎症を抑える効果のあるもの。村の薬草で、近いものはありますか」


ばあちゃんが、少し考えた。


「ヒリタ草の根が、熱を下げるのに使える。サルベ草は、炎症に効く」


「成分の傾向としては、近いと思います。ただ——効果の強さが足りない可能性があります。そこを補うために、いくつかの成分を、こちらから送ります」


ノアが、地面に絵を描くように、台所のテーブルに木の棒で図を描いた。


「ヒリタ草の根。サルベ草の葉。それと——」


「私が送るもの。粉末状のものを送ります。少量で効果が出るものなので、転送窓でも問題ありません」


「混ぜる割合は」


ヤナガセが、慎重に数字を伝えた。


「これより多いと、子どもには負担が大きくなる。少なすぎると、効果が出ない」


ばあちゃんが、その数字を繰り返した。


「ソラ、覚えてくれてるか」


「記録しています。何度でも確認できます」


ヤナガセが、もう一つ付け加えた。


「最初に作る量は、少なくしてください。確認のために。多く作って、間違っていたら——取り返しがつかない」


「わかった」


ノアは、緊張しながら答えた。


◇


材料が、転送窓から少しずつ届いた。


小さな袋に入った粉末。透明な小瓶に入った液体。それぞれに、ソラが説明を読み上げた。


ばあちゃんが、慣れた手で、薬草を刻んでいく。ノアは、その手元を見ながら、量を確認した。


「ヒリタ草の根、これくらいか」


「ソラ、量を確認してくれ」


「ヤナガセ先生の指示と一致しています」


ばあちゃんの手が、少しだけ震えていた。


「ばあちゃん、大丈夫か」


「大丈夫だよ。ただ——人の命に関わる薬を作るのは、いつになっても、緊張するものだね」


「僕も緊張してる」


「そうだろうね」


ばあちゃんが、小さく笑った。


「でも——緊張しなくなったら、それは怖いことだ。緊張しているうちは、ちゃんと気をつけられる」


ノアは、その言葉を、胸の中にしまった。


粉末を量って、薬草と混ぜていく。匂いが、台所に広がった。普段の薬草の匂いとは、少し違う匂いだった。


「ソラ、これでいいか」


「ヤナガセ先生、確認をお願いします」


しばらくして、ヤナガセの声が来た。


「色と、匂いの強さを教えてくれ」


ノアが説明した。ヤナガセが、何かを考えるような沈黙のあと、言った。


「いいと思う。それで——最初の薬が、出来上がった」


台所のテーブルの上に、小さな包みが一つ、できていた。


ばあちゃんが、それをじっと見つめた。


「これで——本当に、効くんだろうか」


「わからない。でも——確かめなければならない」


ヤナガセが、静かに言った。


「最初に投与するのは、メイちゃんでいいか」


ノアは、頷いた。


それから、すぐに思い出した。


メイの家に行く前に、まず確認しなければならないことがある。コルソのじいさんと、メイの両親に、これが何の薬で、どこから来たものなのかを——どう説明するか。


包みを手に取って、家を出ようとしたとき、外で誰かが走ってくる足音が聞こえた。


「ノア!」


ダグの声だった。


息を切らして、戸口に立っている。


「コルソのじいさんが——かなりひどい」


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