↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界少年と謎の物体と研究室の仲間たち〜森で拾った箱の向こうは現代日本でした〜  作者: gachapin2223


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/102

第24話 種を撒く

夜、台所のテーブルに箱を置いた。


ばあちゃんが、向かいの椅子に座った。今夜もソラとの話の時間だ。


「ソラ、今夜はスズカ草の採取時期から聞いていいか」


「はい。ハンナさん、よろしくお願いします」


「こちらこそ。どこから話せばいい?」


「スズカ草は、現在のサンプルが今の季節に採取されたものです。他の季節ではどうなりますか」


「スズカ草は、夏の終わりが一番香りが強くなる。葉が大きくなって、油分が増えるから——触ると手に匂いがつくくらいだよ」


「夏の終わり、ですか。今よりあとですね」


「うん。今の季節は、香りはあるけど、まだおとなしい」


「成分が変わると思いますか」


ばあちゃんが、少し考えた。


「変わると思う。今のうちに採ったものと、夏の終わりに採ったものとで、薬の効き方が違う気がしてた。確かめたことはなかったけれど」


「それが、向こうの分析でわかるかもしれませんね」


ノアがソラに言った。


「そうです。ハンナさんの経験と、分析の結果が合わされば、もっとはっきりします」


「じゃあ——夏の終わりに、もう一度送ればいいんだな」


「はい。採って送ってもらえると、比較ができます」


「わかった」


ばあちゃんが、湯呑みを包むように両手で持った。


「ソラ、一つ聞いていいかい」


「はい」


「向こうで、私の話したことはどういう形で残るんだい」


「音声の記録と、内容を整理したものの両方で保存しています。何十年分でも、残せます」


ばあちゃんが、少し黙った。


「そうか。……記録に残る、か」


「ハンナさんの知識は、とても大切なものです。記録しておけば、誰かの役に立てる日が来るかもしれない」


「私が死んでも、か」


ノアが「ばあちゃん」と言いかけた。でも、ばあちゃんは穏やかな顔をしていた。


「死ぬのは当然のことだよ、ノア」


「……うん」


「でも——残るものがあるなら、それはいいことだ」


ばあちゃんが、ソラに向かって言った。


「ソラ、よろしくね。私が話せるうちに、全部話しておきたい」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


ばあちゃんが、少し笑った。


「じゃあ、続けようか。スズカ草の次は、ヒリタ草の話をしよう。あれも、採取の仕方で大きく変わる」


「お願いします」


台所の灯りが、テーブルを照らしている。


外では虫が鳴いている。春から夏へと変わる、夜の音だ。


ばあちゃんが話し始めた。ソラが聞いていた。ノアも、一緒に聞いていた。


知識が、声になって、記録になっていく。それが——根を張るということなのかもしれない、とノアは思った。


◇


次の朝、種を撒いた。


ティナが早くから来ていて、もう土の準備を始めていた。


「早い」


「眠れなかった。楽しみで」


「種を撒くのが?」


「そう」


ノアは、昨夜ソラに確認した内容を頭の中で整理しながら、種の入った小さな袋を取り出した。


カブ。ニンジン。それからもう一種類、クドウが「これも試してみろ」と一言添えてきたもの——ソラが「葉を食べる植物です。苦みがある」と説明したもの。名前は教えてもらったが、ばあちゃんもティナも知らない野菜だった。


「こっちの世界に、ない植物かもしれない」


「じゃあ、名前がないね」


「育ってから、ばあちゃんに聞いてみる。似たものがあれば、それに近い名前をつければいいと思う」


「なければ?」


「そのとき考える」


ティナが、笑った。


間隔に気をつけながら、一粒ずつ穴を作って埋めていく。深さは指の第一関節まで——ソラが読み上げた説明の通りに。


全部埋め終えて、水をやった。


何もない土の表面になった。


「これで、いいんだよな」


「育ってみないとわからないけど——でも、ちゃんとやった」


ティナが、土を眺めながら言った。


「ちゃんとやったからって、うまくいくとは限らないけどね」


「そうだな」


「でも、ちゃんとやらなかったら、うまくいかない」


「……当たり前のことを言うな」


「当たり前のことが、一番大事なんだよ」


ティナが、立ち上がって土を払った。


その言葉が、なんとなく胸に残った。


当たり前のことを、当たり前にやり続ける。ばあちゃんがそうしてきたように。母がそうしていたように。


それが、根を張るということなのかもしれない。


◇


種を撒き終えた後、ティナとゆっくり歩きながら村の方へ戻っていった。


石畳の上に、朝の光が落ちている。


ふと、村の入口の方に目が行った。


「ティナ」


「うん?」


「あれ——」


村の入口の木の柵に、見慣れない馬が一頭、繋いであった。


村の馬じゃない。荷物の載っていない、旅馬の格好をしている。でも——行商人ではないようだった。


「誰か来てるのかな」


ティナが首をかしげた。


村長の家の方から、声がした。


知らない声だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。