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第8話 太古の大岩

太古の大岩は孤児院から十五キロほどのところにある。日帰り予定のため、カイルたちは朝早くから出発した。

「東の山岳地帯に薬草の代わりになるものを探しにいきます。ナル婆から何種類か候補になる薬草を聞きました」昨日の夕飯のときにカイルは、ラザロに話した。

「薬草か……あそこら辺は小山が多いし、まあ、深入りしなければ問題ないだろう……アルコールになる葉っぱも頼む」

「そんなもんあるわけないでしょ」

「毒草ひろってくんなよ~」ラザロは赤ら顔で言った。


エレナは、朝から機嫌がよかった。一方で、昨晩の夢からカイルは少し、げんなりしていた。エレナは、龍脈盤を気に入っているらしく、何度も確認しながら、太古の大岩へ向かった。

道中は煉瓦で舗装された街道がほとんどだった。沿道には、石積の道祖神が点々と立ち、供え物の干し果も置いてある。街道は、憲兵が見回りで歩いていた。憲兵によっては挨拶もしてくるし、大した危険も起こらなかった。

「観光で行くんじゃないよ」

「わかってるよ~。冒険ね♪」エレナは歌うように言った。

最近エレナは、ロザに歌を習っているらしい。

「ロザに歌を習ってるんだよね? どんな感じなの?」

ロザは、ガン爺と同じで、泥底村の中では古株の部類に入る。しかし、普段は無口でほとんどしゃべらなかった。

「焚火のときは驚いたね。あんなに歌がうまいとは。みんな魅了の魔法にでもかかっているのかと思ったよ」

その言葉にエレナは何かを思い出したようだ。

「あながち間違いでもないかも」

「ん?」

「魔力の声を歌に込めると魅了できるんだって。すごい人だと人を意のままに操ったり、殺めることもできるって」

「なにそれ、怖っ」

「ロザの家、代々そういう家系だったみたいなの」

「そういう家系って?」

「歌姫。歌でご飯食べてる人のこと。エンカリアだとそう呼ぶんだって」

「歌で食えるのか~」

「カイルの魔道具と一緒でしょ」

言われてみるとそうだった。

「……なんでそんな人がうちにいるんだろう」

エレナは黙った。

「聞いたことないから、わからない」

それきりロザの話はしなかった。かわりにエレナは歌の話をした。歌の練習は楽しいこと。子供たちに教えてあげたいこと。もっといっぱい覚えたいこと。

歩いていると遠くに大きな丸い石が見えてきた。

「あれ、太古の大岩じゃない」

「本当だ、きっとあれね」


太古の大岩は街道から外れて山なりになっている丘の頂上にあった。人三人分くらいの背の高さがある大岩だった。大岩の手前には簡易の石段が作られていて雑草も刈り取られていた。お供えものを置いていた跡があり、定期的に参拝しに来る人がいるようだった。

「カイル、すごく大きいね。神様でもいるのかな?」

大岩の背後は小山に囲まれていた。カイルに疑問が浮かんだ。

「うーん、なんか変だよね。周りの山は低いし近くに大きな岩山もない。誰かがここまで運んだとしてもどうやって運んだんだろう。魔法でもこんな大きなもの運べないだろうし」

「そう言われるとそうね。不思議」エレナが大岩に近づくために石段を上がった。上まで登り、エレナは大岩を両手で触った。

ズン、と腹に響く音がした。

次の瞬間、大地が跳ねた。

「きゃっ!」

エレナが驚きながら後ろに飛び跳ねたのがカイルにみえた。

「エレナ!」

手を前に上げて走りだした。それと同時に目まいがした。大きく揺れる大地と、照り付ける太陽。カイルは足元を取られてふらついた。

手を上げたカイルの影がゆらゆらと揺らめく。一瞬、自分の背筋に氷を当てられた気がした。

どこからか現れた黒い影が、音もなく、カイルの影に近づき、重なった。

カイルは意識が遠のき、その場で倒れた。

揺れは、それきり止んだ。

大岩の下から背後へ向かい、泥がゆっくりとあふれ流れだしていた。

二人はそのことに気が付いていなかった……


目が覚めたとき、エレナの顔が上にあった。

「よかった。大丈夫カイル? 頭でも打った?」

「……エレナ」

意識が戻ったカイルはエレナの顔をみながら、なにがあったか思い出した。

「う、うん、大丈夫。地震は?」体を半分起こしながらカイルは言った。

「すぐに収まったよ。ほんの一瞬だった。地震だったのかな?」

「わからない、なんだか急に目まいがして……」

エレナが大岩をさわったとたんに地震があった気がした……

「大丈夫?……今日はもう帰ろうか?」

「いや、大丈夫。今は何ともないから、行こうか?」

空は明るく、穏やかな場所なのに、この場から早く立ち去ったほうがいいとカイルは思い起き上がった。

「時間もないから行こうか?」

二人は大岩を後にして歩き始めた。

大岩の背後、小山の奥深く。遠くから、黒い目が二人を見ていた。


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