第18話 爆轟竹
弓を構える。精神を統一しながら弓を引く。的を絞った。全神経が弓矢へ伝わる。
「ここだ!」精神と体、弓矢が一体となり引かれた矢は、勢い良く放たれた。
矢は的から大きく外れた。
教会の裏庭にある弓の練習場所にカイルはいた。
「相変わらず、すげぇ才能だな、カイル」ベルトは呆れた声で言った。
「十本中十本ハズレ、どうやったらそうなる」
「こりゃ、だめだ」とラウタ
「惜しくもないのがちょっと……」と眼鏡のハンスが言った。
「カイル兄ちゃん、俺より下手だ」テッサクが言った。
三人が揃ってため息をついた。
「カイル兄ちゃん、すごい、すごーい」拍手しながらリリィだけが喜んだ。
――リリィ、お前はいい子だ。お前だけだ、俺の才能を分かってくれるのは。
「カイル、悪いことは言わない、動物相手なんだから、エレナちゃん連れてって、魔法で仕留めてもらえ」ベルトが言った。
「エレナは、止めてもついて来ますよ。少しでも役立つように練習してるだけです」カイルが答えた。
「カイル兄さん、南の森に行くんでしょ。私たちもつれて行ってください。この間のラザロとの話、こっそり聞いてましたよ」ハンスが言った。
「ハンスたちは、もう少し大きくなってからね。いくら南の森の危険が少ないっていっても、危険は危険だからね」
「ええ、いいじゃん。連れて行ってよ。エレナ姉ちゃんがいるなら大丈夫でしょ」ラウタが駄々をこねた。
――俺じゃダメなのか? っていうか、そもそも、俺、ほとんど南の森行ったことないんだよね……南の森について、全然知らないとも言えない。
「連れて行ってくれないなら、畑仕事サボってるのラザロに言っちゃうよ~」テッサクが言った。
「エレナが大切にしてた花瓶割ったの見てましたよ。ばらします」ハンスが眼鏡をクイッと上げた。
――むむ。悪知恵が働くようになってきたな。誰を見習った?
「なんだ、みんなこんなところで遊んでたの」エレナが騒ぎに気付いて裏庭に出てきた。
「みんなちゃんと畑仕事手伝ってくれないと、南の森に連れてってあげないよ」
「エレナ姉ちゃん、連れてってくれるの。ヤッター!」三人は喜んで仕事に戻った。
「エレナ、あの子たちには、まだ早いんじゃないか。危険かもしれない」カイルは知ったかぶりをしていた。
「え、あそこは、動物しかいないから大丈夫でしょ。一度も危険な目にあったことないよ。それに、ベルトさんにも付いてきてもらうし」
――エレナ、行ったことあったのか……ちょっと恥ずかしいな……
「おう、俺もついてくぜ」
――知らないのは、俺だけだった……
「ハーイ、一列に並んで!出発するよ」エレナが子供たちに掛け声をした。
「え~、面倒くせえよ」テッサクたちは文句を言いながら一列に並んだ。
ハンス、テッサク、ラウタ、リリィ、テオ……
――なぜテオが……
「ルン、ルン、ランラン、ルン、ランラン♪」エレナ、リリィ、テオは歌いながら歩き、ハンス、テッサク、ラウタは、弓を肩から下げていた。テッサク、ハンス、ラウタ、背の順で並んでいた。リリィは、カイルがあげた熊の木人形、テオは何故か釣り竿、木の桶を持っていた。その後ろに剣と酒をぶら下げたベルトが続き、最後に列から遅れて二輪の荷車を引くカイルがいた。荷車は、獲物を持ち帰るためのものだが、子供たちのバッグなどが乗せられていた。
ぜえ、ぜえ、カイルは、息が上がっていた。
「兄ちゃん、おせぇよ」テッサクが言い、「カイル、おそーい」テオが続けた。
「カイル、わりいな、俺、片腕しかないから」ベルトはニヤニヤして言った。
南の森についたとき、カイルはすでに疲れきっていた。
――くそ、あいつら、狩りで見返してやるぞ……
「よし、じゃあ、これから狩りの実践を始めるぞ」ベルトがみんなを集めて言った。
「弓の使い方と狩りのコツは、孤児院でみんなに教えたな。俺とカイル、テッサク、ラウタ、ハンスは一緒に行動。森を移動しながら誰が一番獲物を取れるか競争だ」ベルトは、勢いよく声を上げ続けた。
「今回の目的はシカだが、狩るものは何でもいい。獲物をみつけた奴が射る。取れたものを見比べて順位を決めよう」
「エレナとリリィ、テオは、ナメシ竹とカルナの葉を採取してくれ」エレナのほうを向いて言った。
「ハーイ」リリィとテオが元気よく言った。
「午後にこの場所で落ち合おう。じゃあ、出発だ」
森は、山肌近くにあり岩や起伏もあったため、五人は森を慎重に進んでいた。
「カイル兄ちゃん、なんで一人だけ竹槍もってるの?」テッサクが聞いた。
「うん? イノシシとかでたら、これで対処するんだよ。短剣は、この間なくしちゃったし」カイルは、手に弓、背に矢と竹槍をぶら下げていた。腰にはルーンを入れたバッグを着けていた。
「でもこれは、単なる竹槍じゃないんだ」カイルが熱くなり始めた。
「竹槍の先端の筒に火炎キノコの胞子が詰められているんだ。穂先に一定以上の力が加わると摩擦式の着火石が擦れて火花が飛んで、火炎キノコの胞子が大爆発するって仕組みさ」カイルは、東の洞窟での大爆発から爆発するものに興味を持っていた。
「名付けて『爆轟竹』。かっこいいだろう?」
「兄ちゃん、よくわかんねぇけどすげぇな、やっぱ兄ちゃんだ」テッサクが答えた。
「おいおい、ずいぶん物騒なもの作ってるな。っていうかイノシシ倒すのにそんなもんいるのか? まあ、でも魔法ボケしている連中よりは、全然いいぞ。お前にはその戦い方が合っている」先頭で話を聞いていたベルトが話した。
「リリィ! 川に入っちゃだめよ」エレナが叫んでいた。
リリィは森の川原の近くで何かを見つめていた。テオが横にいる。
「お姉ちゃん。変なのが沢山いるよ」
エレナはリリィのところまで近づいて行った。
「どうしたの?」とリリィの視線の先を覗いた。
「きゃっ」エレナは叫んだ。
たくさんの蛇の死骸が集まっていた。その蛇は目がすべてえぐり取られていた。
「いたな~」テオが近づき、ナイフを取り出して言った。
「ん? あそこにウサギがいる」テッサクが射る。見事に命中。
「シカだ」カイルが射る。大きく外れる。
「ほら、木の上、大鳥がいる」ハンスが射る。見事に命中。
「間違いない。シカだ」カイルが射る。かすりもしない。
「大木蛙だ」ラウタが手で捕まえた。
二時間が経過した。
「いたぞ、シカだ」カイルが小声でみんなに伝えた。
「兄ちゃん、俺らがやったほうが絶対うまくいくって」テッサクが言った。
「カイル兄さんの弓は、威力は抜群なんですが、精度がいまいちです。ここは私たちに任せてください」ハンスが持ち上げつつ言った。
「大丈夫、兄ちゃんに任せとけ。今度こそ上手くやる」カイルは根拠もなく答えた。
――ハァァ……
カイルは、精神を集中する。ただならぬオーラを放ち始める。狙いをシカに定める。
――今度こそ、俺はやる……
覚悟をきめたとき、腰のバッグにいたルーンが暴れ始めた。プルプルプル、バッグが震えた。
ビュッ、矢は勢いよく放たれた。大きく外れた。シカが矢に気付き逃げ出した。
「ああ、またダメだ」テッサクがため息をついた。
外れた矢は、大きく弧を描きながら遠くまで飛んでいき、地面に落ちた。と、そのとき、同時に大きな鳴き声がした。
ギイィィ……巨大な頭が森の奥から姿を現した。
「ルン、ルン、ランラン、ルン、ランラン♪」リリィは、川原の小岩の上に座り、両足を川に入れてバシャバシャと足を上下させていた。
テオは、死んでいた蛇を横に置き、ナイフで細かく切って釣り餌にしていた。持ってきた桶には、鮎が何匹か入っている。
エレナは、川の浅瀬で足を川につけて涼んでいた。ナメシ竹とカルナの葉は、採取し終わり、川原には、薬草を入れた籠が並べられていた。
「平和ねぇ、冷たいけど、気持ちいいな」エレナは言った。
森の木陰から黒い物体がうねうね動きながらエレナたちを見ていた。その黒い物体は中央に大きな目玉があり、その他にもたくさんの目が付いていた。
一番大きな目はエレナを見ていた。しばらく動かなかった。それから森へ消えていった。




