第17話 魔力タンク
ルーンは、ナメクジのようにうねうね動くかと思えば、呼ぶとプクプクッと言いながらピョンと跳ねてカイルの手の平に乗ってくる。間抜けな見た目をしていたが、そこが可愛い。エレナは、とてもお気に入りで可愛がっていた。
しかし、主人はカイルと思っているらしく、カイルの側を離れたがらなかった。仕方なくカイルは、腰ベルトに付けられるポーチの中にルーンを入れて移動していた。定期的に魔力を注入しないと動きが鈍くなった。やはり、魔道具なのだった。
ルーンの魔力チャージと憲兵団のポーション作りを考えると、いよいよ魔力タンクの開発を急がなければならなかった。カイルはガン爺に相談に行った。
ガン爺は、自分が住んでいる木造のあばら家で煙草を吹かし、酒を飲んでいた。白髪も髭も服も、煙草臭い。ローブは裾が泥で固まり、尖り帽子は形が崩れてよれていた。
「ガン爺、前に話した魔力タンクのことなんですが」とカイルは言いかけ周りをみた。
家の中には、ベッド、小さいテーブルと椅子、棚には自分で作った木の彫刻と酒が並んでいた。カイルは椅子に座ってガン爺と話していた。煙草が臭い。立ち上がり窓を開けた。
「それにしても酒と煙草以外何もないですね」
「うるさいわい。酒と煙草があれば生きていけるじゃろう」
「いや、それだけでは無理では……」
「それで? 魔力タンクだっけか、そんなもんはとっとと作れぃ」少し酒を飲んでいるようだった。
カイルは椅子に戻り、テーブルの上で両手を組んでのせた。
「それなんですが、魔力タンクの容器をどうすればいいか悩んでまして。薄い鉄が一番いいですが、特注品は高いですし、陶器は落として割れたときに問題が起きそうです」
「なるほど」
「残るは皮かなと思いますが、どんな皮がいいのか分からないですし、密閉性のあるものも作れるかどうか……防水性も心配です」
「ふーむ」ガン爺は煙草を手に考え始めた。
「できないことはないんじゃが、材料がいるな。なに、単純じゃよ、シカなどの動物の皮とナメシ竹、カルナの葉が必要じゃな」
「それでできるんですか?」
「うむ。動物の皮とナメシ竹を鍋にいれてドロドロに溶かす。カルナの葉で蝋を作って、箱の形に固める。穴を開けたいところは棒を刺しとくんじゃ」
「棒ですか?」
「後で穴になる。そのまま蝋型を鍋に漬けて、引き上げる。それを何度か繰り返すんじゃよ」
「何度かですか」
「厚さによる。五回か、六回か」
「……時間かかりますね」
「急ぐなら、失敗するのぅ」ガン爺は指で吊るす仕草をする。
「それから、外から熱をかけて固める。皮が固まったら、中の蝋を溶かして流し出す。あとは膜の魔法を張るだけじゃ」
カイルは何を言っているのか分からなかった。
――まあ、材料だけ揃えればガン爺が何とかしてくれそうだな。
「シカ以外は、どんな動物がいいですか?」
「牛、馬などじゃが、そうそう居らんて。一番いいのは蛇じゃが、たくさん捕まえないといけないので不向きじゃな」
「ナメシ竹?とカルナの葉?はどこで手に入るんですか?」
「ここら辺だと南の森に生えとる」
――南の森か、ラザロに取りに行く許可を貰わなくては……
ラザロは、食卓で椅子に座り、食卓に顔を横向きにつけていた。目が半分死んでいる。
「ラザロ、何かあったんですか?」ラザロを見つけたカイルが言った。
「さっきからずっとその状態」エレナが厨房から出てきて言った。
二人は、椅子に座ってラザロと向かい合った。ラザロがむくりと体を起こした。
「なんだ。お前らか」
「珍しく酔っぱらってないんですね」
「俺だって食欲がないときもある」
「酒が食事なんですか!」と言いながら冴えない顔のラザロを心配した。
「何があったんですか。心配だよ」エレナも同じだった。
「実は、ちょっと面倒くさいことになってな」
「面倒くさいことですか」
「教会の上の連中がここに視察しに来るんだよ」
「え……」カイルは少し驚いた。今まで、ヴァルナ教の人が孤児院に来たことは、一度もなかった。
「そんなこと初めてね。なんで今更」エレナが聞いた。
「それがさ、ヴァルナスペシャルのことが上の連中にバレてさ……」
「バレたっていうと?」カイルが聞く。
「ヴァルナスペシャルは、俺が作ったことになってる。俺の魔力でポーションを作って、ヴァルナ神に祈祷したら神聖な魔力が付いたってことにしてあるから」ラザロがため息をついた。
――ハハァン、何となく察しがついたぞ。
カイルは顔がニヤけた。
「今、ヴァルナスペシャルは、町で大人気だろう。それを聞いた教会の上の連中が騒ぎ始めてな。ヴァルナ神様の奇跡をこの目で見たい、って話になったらしくてよ……ルナフォール支部のトップがここに見に来るんだってさ」
「なんでバレたのかしら、顧客保護契約結んでるのに……あっ、酒場ね」エレナがギルドの話を思い出したようだ。ラザロは、以前酒場で自分が祈祷して作ったと話をばらまいていたのだった。
――ラザロ、自業自得だな。酔った勢いで適当なことを言ったつけが回ってきたってことね。それにしても、祈祷、神の奇跡か……いいことを思いついたぞ。
「どうしよ~」ラザロはまた顔をテーブルに押し付けた
「一つ、案があります」カイルが言った
「本当か!」ラザロは起き上がった。
「ただし、条件があります」
「なんだ」
「案は今度お話しますので、南の森に狩りに行く許可と大きな鍋を用意してください」
「大きな鍋? ああわかった」ラザロは答えた。
「貸し一つですよ、ラザロ」
こうしてカイルは、南の森に行く許可をもらった。
森の中、川原近くに地を這いずる黒く蠢く影がいた。影は実体をなしつつあり、より黒くブヨブヨした生物へと変化していた。
「……ツゥ……ツゥトットゥ……ツゥツゥ……」黒い物体は音を発し続けている。
やがて、その音につられたのか、川向こうの山から太くて長い巨大な生き物が川を渡り始めた。その生き物は、巨大な大蛇であった。
巨大な大蛇は、水を巻き上げて渡りきり、黒い物体と向かい合った……




