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第14話 ターナの血

「洞窟に行ったことを怒ってるんじゃない。なにも言わずに、行ったことを怒ってるんだ」

東の洞窟へ行った翌日、カイルはラザロに叱られていた。

「なんだ、カイル聞いているのか?」ラザロは、親代わりとして叱っていたが、話を真剣に聞いていないような感じのするカイルを見て拍子抜けしていた。

カイルは、シルフィアの話が頭から離れず、思い切ってラザロに話した。

「ラザロ、実は洞窟の奥で、シャドムという人に助けられました」

「シャドム?」

「シャドムは、自分を『闇のプリンス』と言っていました。そのあと、シルフィアという人の使い魔と話をしました」

「シルフィア……」ラザロは顎に手をやった。

「その人が、僕とエレナの故郷を知ってるって言ってたんです。それと、エレナの力が狙われてる、とも言っていました。ディスコルドに気付かれた……とか」

ラザロの表情が、驚き困惑したものに変わった。

「そうか……少し考えさせてくれ」ラザロはそう言って立ち上がった。


翌々日になりカイルはラザロの部屋に呼び出された。

ラザロの顔は憔悴していた。

「カイル、お前とエレナのことなんだけどな……もうそろそろ、本当のことを話すべきかと思ってな」

「本当のこと?」

「この間、シャドムとシルフィアという人の話をしてたな?」

「はい。何か知っているんですか?」

「いや、直接は知らないが、その二人は伝説上の人物だと思う」

「伝説上?」

「シルフィアは月の女神の名前だ。シャドムは知らないが、闇のプリンスは聞いたことがある。伝説だとその二人は千年前にディスコルドと闘ったとされている。ディスコルドは知っているな?」

カイルは少し考えた。ディスコルドの話は世界中の人が知っている話の一つだった。

「はい、一応。今でもネクサリアで厳重に封印されているという魔王の話でしたよね」

「そうだ、魔王とされているが、ディスコルドの正体を知っているものはいない。そして、その時の戦いに参加した神たちは、今も生きている」

「えぇ、本当ですか?」

「ああ、龍が実際に存在するように、神も存在する。滅多に会えないがな。シルフィアは、ルナフォール北西、月の聖域に住んでいる。何人も会った人がいる」

「シャドムのほうは?」

「シャドムは知らないが、闇のプリンスは知っている。ディスコルドとの戦いのとき、魔族を率いて参加したとある。その後、魔族に裏切られて戦いから離脱している。詳しいことを知りたいなら、ルナフォールの図書館にでも行ってくれ」ラザロはそう言い、間を置いた。

――シャドム、裏切られてたのか。どこか抜けてるしな。

「それで、エレナのことなんだが」

ラザロに戸惑いが見えた。

「エレナとお前は、東の大陸の龍泉郷というところの生まれだ」

カイルは何を言われたか分からなかった。

――生まれ? 俺、泥底村の生まれじゃないのか?

――龍泉郷? どこかで聞いたことがあるぞ……

「俺が昔、龍泉郷に行ったときにエレナとお前を託された……」

ラザロは自分の手を見た。震えていた。

「お前たちを託した人は、龍泉郷王女の親衛隊長だった人だ」

――親衛隊長?

「おそらく、エレナは、龍泉郷の王女の血を引いている」

「王女の血、ですか」

「俺も、よく分かってはいない……」

「龍泉郷は、ノルダールの手のものによって襲撃され滅びた。そのとき、王女を助けるよう頼まれた」

――王女の血、龍泉郷……ガン爺の話だ。

ラザロにまた何かためらいが見えた。

――なにか言いづらいことでもあるのか?

「エレナに浄化の力が現れたときに確信した」

「あの力は、龍泉郷の王家にしか現れん。『ターナの血』と呼ばれていた」

「ターナの血? ……何を言っているのか、分からないです」

ラザロが苦悶の表情になっていた。

「ターナの血は、浄化の力、としか分かっていない」

苦しそうなラザロをみて、カイルはそれ以上、聞くのを止めた。

「エレナにこのことを話してもいいですか?」

「ああ、かまわない」ラザロがうなずきながら言った。

「それと、カイル、この本は、親衛隊長から渡された本だ。お前に渡しておく」

カイルはラザロから一冊の本を渡された。

カイルは、思わず顔を上げた。以前、ラザロの部屋から持ち出し怒られた本だ。

――あれだけ怒っていたのに。

「……いいんですか」

「よくはない」ラザロはそれだけ言った。


その翌日、カイルはエレナに話す決心をした。夜になり、エレナは、カイルの部屋に遊びに来ていた。二人は床に座って、黒い魔石を見ながら東の洞窟の出来事を話していた。

カイルは、覚悟を決め、話し始めた。

「エレナ、話があるんだ」

「なに、急に」エレナは、魔石を置いて、カイルの顔を覗き込んだ。

「何か隠しているんでしょ。昨日から悩んでるのが顔に出てるわよ。わかりやすい」

「ハハ、ばれてたか。それだけ真剣な話なんだよ」手で頭を掻いた。

「エレナは、何でもお見通しだな」

そう言ったあと、カイルは真剣な表情でラザロの話を伝えた。


エレナは、途中で一度も口を挟まなかった。

話が終わり、エレナはしばらく黙っていた。

「ターナの血……」エレナは、魔石を手のひらで転がした。

「なんとなく分かっていたの……前にね、ガン爺から、その力は気をつけろって。みんながお前の力を狙うからって言われた」

――ガン爺、やっぱり伝えてたのか。

「改めて言われても、どうしたらいいのか分からない」

――確かにそうだよな。俺も分からないし。

「でも、私はこの力が好き。みんなを助けることができるから」

「それに、私がターナの血を引いていたとしても、私たちの親はラザロだから」

エレナは、カイルをまっすぐ見た。

「だから、何も変わらないよね」

「……そうだよな」カイルは同意した。

「カイルも、龍泉郷っていう所なんだよね」

「……らしい」

「誰の子か、聞いた?」

「分からないって」

「そう」エレナはそれ以上聞かなかった。

――聞かれなくてよかった。

エレナは両手を組み、フーっと言いながら腕を上げ背伸びをした。

「もし、私が危険な目にあうようなら、カイルが私を助けてよね」

エレナが笑った。

カイルは目をそらした。

――いつから、こんな顔で笑うようになったんだ。

「だから、いつも通りでいきましょう」エレナは言った。

「ああ、そうだな」カイルは答えた。

――今のままの俺でエレナが守れるのだろうか……

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