第11話 六本足のネズミ
その場を後にし、しばらく進むと分岐路のある正方形の部屋に着いた。
分岐は自分たちが来た道を含め四つに分かれていた。
「カイル見て、看板があるよ」
自分たちの来た道には[一]の番号が、隣の道が[二]、[三]となっていて、最後は番号がなかった。
「たぶん、番号のない道は入り口へ向かう通路でしょ……ということは順当に考えたら三が新しい道、二はかなり掘り進んでいるってことかな?」エレナが言った。
「一応、龍脈盤を見てみよう。地脈に近いほうが魔石はありそうだよね」
カイルは懐から龍脈盤を取り出し、蓋を開けた。針が、ゆっくりと回って止まった。緑の刻みが、かすかに光っている。
「西北の龍脈。方角は……こっちか」
外周の細かい目盛りが、規則正しく震えていた。
「地脈も読めてる。三の坑道だな」
二人は三の通路を進んだ。
通路を進んでいくと、通路の端に何か小さい丸いものが落ちていた。カイルはしゃがみ込みランタンを当ててみるとネズミの死骸らしきものだった。
「なんだこれ」
「なに? ネズミ?」エレナがのぞき込んでいった。
「足、多くない?」よく見ると足が六本あった。
「多い……気持ち悪い」
進んだ先にも、ネズミの死骸が落ちていた。どれも形が違っていた。さらに進むと大量のネズミの死骸があった。マスクをしていても腐敗臭が感じられる。その死骸の群れのなかで、一匹だけ動き出した。
「動いた! 生きてる」
そのネズミはジタバタしているが前に進めていない。足が無数にあり、ちゃんと前に進めないようだった。そのうちネズミは動かなくなった。ネズミの目は、黒の中に光が散りばめられていた。
――死んだのか? 魔素が強くなっている?
「エレナ、魔素が強くなっているかもしれない。マスクの布を交換しよう」
二層のマスクの一層を交換して前をみると奥で何か光が見えたような気がした。
「行こう」
「うん。やっぱり怖いね……」
「エレナは後ろから付いてきて」
少し開けた空間にでた。人の死体が転がっていた。
「死んでる……」
支柱の近くで何かが動いた。ランタンを上げるとうなだれた人がゆっくり歩いていた。
「人だ!」
カイルが駆け寄った。
「大丈夫ですか?」カイルは背後から肩に触れた。
男がゆっくり振り返った。
目が黒かった。その瞳の中は先ほどのネズミ同様、光が散りばめられていた。
「返せ……」振り返った男は紫の血を吐いて倒れた。
「うわっ!」カイルは尻もちをついた。それと同時にランタンを落とした。ランタンの灯りが消えた。
男の吐いた血が、ぬるりとズボンに広がった。男の体がカイルの下半身に被さった。必死に足を抜き出した。男は動かなかった。
――俺が触ったから? いや、違うはずだ。
男は片手に黒い魔石を持っていた。魔石は内側から無数の細かい光を放っていた。
「カイル、大丈夫?」暗闇の中、エレナが駆け寄ってきた。
カイルは一瞬言葉に詰まった後に続けた。
「急に倒れたんだ……大丈夫かって……」
「うん、見てたよ。カイルは何もしていないよ。この人、死んでるの?」
「これ、魔石じゃない? それにここの部屋少し明るいよ」
カイルは周りをみた。洞窟の奥から青白い光が溢れていた。
「この人は死んでいると思う」カイルは直感的に思い、そう言った。
「ヒール」魔法を唱えると淡い光が男に宿った。しかし、男は何も反応しなかった。
「助けられなくてごめんなさい」
エレナはそれきり何も言わなくなった。
カイルは、魔石をみて独り言を言った。
「これは、目的の魔石だ……でも……これは彼のものだ」
カイルはランタンを拾って立ち上がり灯りを点けた。周囲にほのかな灯りが広がった。ズボンに掛かった血は、紫色だった。
「カイル、見て、龍脈盤がぐるぐる回ってる……」
カイルは自分の龍脈盤をみた。カイルの龍脈盤も回っていた。
洞窟の奥はまだ青白い光を放っていた。




