↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/19

「歴史に刻まれた新たな存在」

ブックマークお願いします。


ゼルクロノスが歩みを進めようとした、その時だった。


目の前の空間に、変化が生じた。


今度は、線が現れたわけではない。空間が揺らいだわけでも、何らかの能力が発動したわけでもなかった。


ただ、そこに何者かが現れた。


ゼルクロノスは足を止めた。


「……誰だ?」


目の前に立つ存在は、ゼルクロノスの知らない人物だった。


初めて見る顔。初めて感じる気配。これまでの歴史にも、その存在を示す痕跡はなかったはずだ。


だが、ゼルクロノスはすぐに違和感を覚えた。


目の前の存在は、確かに今この瞬間に生まれた。


それなのに――。


この世界の歴史を振り返れば、すでにずっと前から存在していたことになっている。


矛盾していた。


誕生した瞬間と、歴史に存在していた時間。その二つが、何の問題もなく両立している。


まるで、最初からそうだったと世界そのものが認めているかのように。


「……なるほど。お前は、今ここで生まれた存在なのか」


ゼルクロノスが呟く。


「それでいて、歴史上はすでに存在していた。違うか?」


相手は答えなかった。


ただ、ゼルクロノスを見つめている。


その沈黙が、かえって違和感を強めた。


ゼルクロノスは、あらゆる運命を掌握できる。歴史に刻まれた事実を調べることも、存在の成り立ちを見極めることもできる。


しかし、目の前の存在について調べようとすると、奇妙な結果が返ってきた。


誕生したのは、つい先ほど。


一方で、歴史上の記録には、遥か以前から存在していたことが示されている。


どちらも間違いではない。


世界は、その矛盾を矛盾として扱っていなかった。


「誰が、お前を生み出した?」


ゼルクロノスが尋ねると、相手はようやく口を開いた。


「私を生み出した者は、この世界の外側にいる」


その言葉を聞いた瞬間、ゼルクロノスの表情が変わった。


「……やはり、そうか」


ゼスの言葉。景色に現れた奇妙な線。そして、目の前の存在。


それらが、一本の線でつながり始めていた。


この世界を外側から描いている者がいる。


そして、その存在は今、ゼルクロノスの目の前に新たな存在を生み出したのだ。


いや、単に生み出しただけではない。


誕生したばかりの存在を、歴史上は以前から存在していたことにした。


世界の中で起きる出来事を操作したのではない。世界が持つ歴史そのものに、最初からその存在が含まれていたことにしたのだ。


ゼルクロノスは、目の前の存在を見据えた。


「お前を生み出した者は、俺のことを知っているのか?」


「知っている」


「なら、なぜお前をここへ送った?」


相手は少しだけ間を置いて答えた。


「お前が、予想されていなかった動きをしたからだ」


ゼルクロノスは黙った。


予想されていなかった動き。


ゼスとの戦いを経て、ゼルクロノスは世界の外側を疑い始めた。絶対性の前提を超越する存在に勝利し、その先にあるものを知ろうとした。


そして、世界が何者かによって描かれている可能性に気づいた。


もし、その世界を描いている者が存在するのなら。


ゼルクロノスの行動は、その者にとっても予想外だったのかもしれない。


「……俺が世界の外側に気づいたことが、そんなに意外だったのか?」


「私には分からない。ただ、私を生み出した者は、お前の動きに反応した」


相手の声に感情はほとんどなかった。


「そして、私をこの場所に存在させた」


「今この瞬間に生み出し、歴史には以前から存在していたことにした。そういうことか」


「そうだ」


ゼルクロノスは、小さく笑った。


「面白いな」


世界を支配することと、世界の歴史そのものを描くことは違う。


ゼルクロノスは、その違いを理解し始めていた。


どれほどの能力を持っていても、世界の内側に存在する限り、歴史はすでに定められたものとして扱われる。


だが、外側から描く者は、その歴史そのものを作り出せる。


そして今、その者はゼルクロノスの前に新たな存在を送り込んだ。


「一つ聞かせろ」


ゼルクロノスは相手を見た。


「お前を生み出した者は、俺を止めたいのか?」


相手は、すぐには答えなかった。


その沈黙を、ゼルクロノスは見逃さなかった。


やがて、相手は静かに口を開く。


「分からない。ただ、お前がこれ以上進めば、今までとは違うことが起きる。それだけは確かだ」


ゼルクロノスは目を細めた。


止めたいのか。それとも、ただ様子を見たいのか。


まだ分からない。


だが、一つだけ確かなことがあった。


この世界を描いている者は、ゼルクロノスの存在を認識している。


そして、その行動に反応している。


「なら、伝えておけ」


ゼルクロノスは、目の前の存在に向かって告げた。


「俺は、まだ何も終わらせるつもりはない。世界の外側に何があるのか、この世界を誰が描いているのか。その答えを、自分の目で確かめる」


相手は何も言わなかった。


ただ、その場に立ち続けていた。


ゼルクロノスは、その存在を見つめながら考えた。


目の前の人物は、今生まれた。


しかし、歴史上は以前から存在していた。


その矛盾を生み出せる者がいる。


ならば、世界の歴史も、ゼルクロノスが歩んできた道も、すべて同じように作られたものなのだろうか。


その問いに、まだ答えはない。


だが、ゼルクロノスはもう、世界の外側をただの仮説として扱うことはできなかった。


自分の行動に反応する者がいる。自分の知らない場所から、世界そのものに手を加えられる者がいる。


そして、その存在は今、ゼルクロノスの目の前に新たな謎を送り込んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。