23. ふざけた酒場 UN CABARET FOLÂTRE
ブリュッセルからユックルへの途上
sur la route de bruxelles à uccle
脚韻ABBA
作家にして食道楽だったシャルル・モンスレ Charles Monselet とは仲が良かったのか、ごく短い詩ながら色々と弄っている。そして唐突ながら、この1篇を以てこの詩集は終わる。
貴下の好みは骸骨だとか
嫌われる紋章とかだと、
快楽にはスパイスをと、
(ささやかなオムレツですら!)
Vous qui raffolez des squelettes
Et des emblèmes détestés,
Pour épicer les voluptés,
(Fût-ce de simples omelettes!)
老ファラオ、モンスレに申す!
この案外な看板を前にして、
貴下を夢想。見そなはせ
お墓です、酒場です!
Vieux Pharaon, ô Monselet[1]!
Devant cette enseigne imprévue,
J’ai rêvé de vous: À la vue
Du Cimetière, Estaminet!
原註
[1] 悪意明白というものだ。モンスレ氏が、ピンクと陽気を狂おしいほど愛していると公言していることは、皆様御存知の通り。……とある日、モンスレ氏は、鳥に腹を裂かれた絞首刑囚について、こんな忌まわしい詩句を書いたとしてボードレール氏を非難した。
La malice est cousue de fil blanc; tout le monde sait que M. Monselet fait profession d’aimer à la rage le rose et le gai. — Un jour M. Monselet reprochait à M. Baudelaire d’avoir écrit ce vers abominable, à propos d’un pendu dont les oiseaux ont crevé le ventre:
重たげな腸が太ももを流れ落ち、
Ses intestins pesants lui coulaient sur les cuisses.
「しかし」と詩人は苛立ちながら言った。「私はそうするしかなかったのです。主題がそう求めていたのです。このイメージの代わりに、あなたは何を望んだのですか?」「バラの一輪!」とモンスレ氏は答えた。
«Mais, dit le poëte impatienté, je ne pouvais pas faire autrement. Le sujet voulait cela. Qu’auriez-vous préféré à cette image? — Une rose!» répondit M. Monselet.
とはいえ、アナクレオンぶった陽相の下に、時折、避けられない憂鬱が垣間見えることを見逃してはなるまい。最近、彼の短篇を読んだら、貧しい女性を拒絶したことを悔やみ、探し求め、結局見つからず、悲しみに暮れて眠りにつくという内容だった。この作品は、絶食中でさえも、非常に思いやりのある者によるものだ。
Cependant il ne faudrait pas croire que l’indispensable mélancolie ne perce pas de temps en temps sous ce vernis anacréontique. Nous avons vu récemment une petite composition de lui, où, se reprochant d’avoir rebuté une pauvresse, le poëte se met à sa recherche, et ne se couche que tout triste de ne l’avoir pu retrouver. Cette pièce est d’un homme vraiment sensible, même à jeun.
惜しむらくはモンスレ氏が、その叙情的な気質に、もっと身を任せてはくれなかったことで。その気質はあまりにも頻繁に、取り繕ったような陽気さで妨げられてしまったのだ。
(編集者注)
Regrettons que M. Monselet ne cède pas plus souvent à son tempérament lyrique, qu’une gaieté, tant soit peu artificielle, a trop souvent contrarié.
(Note de l’éditeur.)
訳注
『悪の華』とは異なり、この本に Fin.(終)の表記はない。原典ではこの後に、TABLE(目次)があり、最後に FIN DE LA TABLE. と書いてはある。
Monselet: Charles Monselet (30 April 1825, Nantes – 19 May 1888, Paris)は、作家で美食家。ボードレール(1821 - 1867)より4歳下で、より長生きしている。食通を気取りグルメ本を出し、グルメ雑誌も発行したが失敗。実際には質より量の大食漢だったらしい。しょっちゅうユゴー宅を訪れ、ボードレールとも親しかったらしく、この詩にも友人で遊ぶ詩人の気分が乗っている。自分が年上なのに「老ファラオ」とからかう辺り、自虐も入ってそうだが
À la vue: I love you のようにも聞こえるこの言葉は、看板の一部「よく見えます」であり、同時に(モンスレ含む)読者へ呼びかけたようにも見える。だとすれば、この小品を以て閉じられる『悪の華』世界の始まり、『読者諸君、』へ此処から繋がるという、ピンク・フロイドのアルバムのような円環構造を考えたのではないか……と考えてみたのだが。この詩自体には『読者諸君、』と呼応する要素が、他には脚韻しか見当たらないので保留
Estaminet: 題名の cabaret と同じく「酒場」であるが、此方は小さなカフェまたは軽食堂、あるいは宿屋を兼ねた存在。19世紀初頭、高級なカフェでは喫煙を禁じたが、エスタミネでは許された。それで第一次世界大戦までは、「エスタミネ」は飲食と喫煙ができる場所を意味したという。
anacréontique: 古代ギリシャの恋愛詩・饗宴詩人アナクレオン爺 Anakréôn に倣い、愛・酒・享楽を軽快に歌い上げる詩風
Note de l’éditeur: おそらく、書いたのはボードレール自身。本文よりずっと長く、つらつらと注釈を書き連ねている主眼は友人をからかうことにあり、I love you! と友人に叫んで慌てさせる遊び方が癖になっていたのではと思わせる




