60. フランキスカ讃歌
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FRANCISCÆ MEÆ LAUDES
その他のヒロイン詩群
全文ラテン語 3行1節 脚韻AAA
ダンテ『神曲』のテルツァ・リーマ?
新しき弦もて吾讃えむ、
新生の園に戯れ為さむ、
余人は入れぬ我が内心。
Novis te cantabo chordis,
O novelletum quod ludis
In solitudine cordis.
花輪奉りて拝むべし、
いとも優婉なる女性
罪は之に償はるべし!
Esto sertis implicata,
O femina delicata
Per quam solvuntur peccata !
慈悲深きレーテー同様、
汝がキスを貪らう
授かる磁力に引かれやう
Sicut beneficum Lethe,
Hauriam oscula de te,
Quæ imbuta es magnete.
悪徳の嵐吹き荒れしとき
なべて道塞がれしとき、
顕れましますは、神々、
Quum vitiorum tempestas
Turbabat omnes semitas,
Apparuisti, Deitas,
救いの星をさながらに
煌々と、難破船が天上に……
吾が心捧げまつる、汝が祭壇に!
Velut stella salutaris
In naufragiis amaris……
Suspendam cor tuis aris !
徳に満ちたる池、
永遠の若さの泉へ、
閉ざせる吾が唇に声!
Piscina plena virtutis,
Fons æternæ juventutis,
Labris vocem redde mutis !
汝は穢れし物を焼き、
荒れし道を平らかにし、
弱かりし者を強くし。
Quod erat spurcum, cremasti ;
Quod rudius, exæquasti ;
Quod debile, confirmasti.
飢へたる日の吾が宿り、
星なき夜の吾が燈火、
恒に在るべきに導き給ひ。
In fame mea taberna,
In nocte mea lucerna,
Recte me semper guberna.
乗せ給へ、強きを力に!
甘美なる風呂に、
心地よき香り!
Adde nunc vires viribus,
Dulce balneum suavibus
Unguentatum odoribus !
柳腰にぞ輝くべし、
さるほどに純潔の帯、
熾天使の洗礼受けし、
Meos circa lumbos mica,
O castitatis lorica,
Aqua tincta seraphica ;
宝石きらめく盃か、
塩味のパン、柔らかいお肉か、
天なる酒か、フランキスカ!
Patera gemmis corusca,
Panis salsus, mollis esca,
Divinum vinum, Francisca !
訳注
フランキスカ(francisca)は元来、フランク族が武器とした戦斧をいう。ナポレオン・ボナパルトのフランス領事館の紋章にも使われた(1799)。
ここでは女性の名。詩人が戦斧を意識したかは定かでない。
novelletum: Google翻訳はこれを「小説」と訳した。英訳・仏訳は「雌鹿」に作る。Wiktionary では語源を novellus (“new”) + -ētum (“grove”) とするから、これに従えば、何れでもない。また、語意として
(post-Classical) a place planted with young trees or vines, a nursery-garden
という。前半は「苗床」「果樹園」、nursery-garden は「幼稚園」に当たるから、「新エデンの園」というようにも読める。
Lethe: 冥府を流れるとされる忘却の川。川の水を呑んだ者は全てを忘れる。ゆえに転生前の魂は、これを呑んで前世の記憶を消去するという。
stella salutaris: 救い主イエスの母マリアは古来、海の星の聖母(Stella Maris)と呼ばれ、船乗りの信仰を集めてきた。ゆえに「救いの星」とは北極星であり、聖母マリアである。
Labris:
ラテン語「唇」
イザヤ書6章
5 その時わたしは言った、「わざわいなるかな、わたしは滅びるばかりだ。わたしは汚れたくちびるの者で、汚れたくちびるの民の中に住む者であるのに、わたしの目が万軍の主なる王を見たのだから」。
6 この時セラピムのひとりが火ばしをもって、祭壇の上から取った燃えている炭を手に携え、わたしのところに飛んできて、
7 わたしの口に触れて言った、「見よ、これがあなたのくちびるに触れたので、あなたの悪は除かれ、あなたの罪はゆるされた」。
lucerna:
ラテン語「ランプ」
イザヤ書9章
2 暗やみの中に歩んでいた民は大いなる光を見た。暗黒の地に住んでいた人々の上に光が照った。
詩篇18章
28 あなたはわたしのともしびをともし、わが神、主はわたしのやみを照されます。
29 まことに、わたしはあなたによって敵軍を打ち破り、わが神によって城壁をとび越えることができます。
Quod rudius, exæquasti ;詩篇143章
9 主よ、わたしをわが敵から助け出してください。わたしは避け所を得るためにあなたのもとにのがれました。
10 あなたのみむねを行うことを教えてください。あなたはわが神です。恵みふかい、みたまをもってわたしを平らかな道に導いてください。
11 主よ、み名のために、わたしを生かし、あなたの義によって、わたしを悩みから救い出してください。
12 また、あなたのいつくしみによって、わが敵を断ち、わがあだをことごとく滅ぼしてください。わたしはあなたのしもべです。




