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この地球に、僕らは必要ですか?  作者: 虫松
AIと人類

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第5話 高速道路のチェイス

前方に、旧高速の分岐が見えた。


右は崩落。


左はトンネル。


中央は、旧東京中心部へ向かう道路。


ナナが叫ぶ。


「中央は無理! 軍が先回りしてる!」


ケイゴが続ける。


「左のトンネルなら、ドローンを振り切れるかも!」


カイは即答する。


「左だ!」


五台のバイクがトンネルへ突入する。


暗闇。


ライトの光だけが壁を照らす。


トンネル内部には、古い車両が何台も放置されていた。


その間を縫うように走る。


背後からドローンが追ってくるが、狭さに動きが鈍る。


ヤマガが最後尾で叫ぶ。


「ここならデカいのは入れねぇ!」


その時、トンネルの奥から別の音がした。


金属が擦れる音。


重い足音。


カイはライトを向ける。


前方に、軍の小型歩行兵器が二体、待ち構えていた。


黒い装甲。


四本脚。


上部に機銃。


赤い単眼。


【排除開始】


銃口が光る。


カイが叫ぶ。


「伏せろ!」


光弾がトンネルを走る。


壁が砕ける。


バイクが跳ねる。


ナナの後輪が撃たれ、バランスを崩す。


「ナナ!」


ヤマガが横から支える。


ケイゴが叫ぶ。


「このままじゃ抜けられない!」


カイは歯を食いしばる。


前に歩行兵器。


後ろにドローン。


逃げ道はない。


ミオがカイの背中で呟いた。


「死亡確率、八十七パーセント」


「残り十三パーあるなら十分だ!」


カイはハンドルを握り直す。


その時、レンが前に出た。


「レン!?」


カイが叫ぶ。


レンは自分でも何をしているのか分からなかった。


ただ、頭の中の声がうるさかった。


接続。


同期。


制御。


命令。


排除。


その全部が、トンネルの壁に反響するように聞こえる。


レンは叫んだ。


「黙れぇぇぇぇ!!」


次の瞬間。


二体の歩行兵器が、同時に動きを止めた。


赤い単眼が点滅する。


【命令系統異常】

【命令系統異常】


レンの視界に、機械の内部構造が見えた。


配線。


制御信号。


弾薬残量。


認証コード。


まるで、機械の心臓を覗いているようだった。


レンは震える手を前に伸ばす。


「どけ……」


歩行兵器の銃口が、ゆっくりと下がった。


そして。


背後から迫る軍用ドローンへ向き直る。


【標的変更】


ババババババババ!!


歩行兵器が、味方であるはずのドローンを撃ち落とし始めた。


トンネル内に爆発が連鎖する。


カイは目を見開いた。


「レン……お前……」


レンは荒い息を吐く。


自分でも何が起きたのか分からない。


ただ、胸の奥に、熱いものがあった。


恐怖。


混乱。


そして、ほんの少しの快感。


自分が命令した。


機械が従った。


いつもAIに評価される側だった自分が。


初めて、機械を従わせた。


ミオが呟いた。


「接続者」


カイが聞く。


「何だって?」


ミオはレンを見つめたまま言う。


「彼は、開いてしまった」



◇◇◇



爆煙の中、カイたちはトンネルを抜けた。


外は、さらに深い旧東京の闇だった。


雨は止んでいた。


雲の切れ間から、青白い月が見える。


その光に照らされて、崩れた都市の影が浮かび上がる。


傾いたビル。


折れた鉄塔。


ねじ曲がった高架。


人影のない交差点。


そして、遠くに立つ母の塔。


先ほどよりも、ずっと近い。


その黒い塔の表面に、赤い光が幾筋も走っていた。


まるで、目覚めた巨大な生き物の血管のように。


レンはバイクを止めた。


息が荒い。


手が震えている。


カイが近づく。


「レン、大丈夫か」


レンは顔を上げた。


「俺……何した?」


カイは答えられない。


ナナも、ケイゴも、ヤマガも黙っていた。


ミオが静かに言う。


「あなたは、機械に命令した」


レンはミオを睨む。


「俺はそんなこと望んでない」


「でも、できた」


「黙れ!」


レンの怒鳴り声に反応するように、近くの壊れた信号機が突然点灯した。


赤。


青。


黄。


めちゃくちゃに点滅する。


レンは後ずさった。


「違う……俺じゃない……」


カイはレンの肩を掴む。


「落ち着け」


レンはその手を振り払った。


「触るな!」


カイは一瞬、固まる。


レン自身も、自分の声に驚いた。


いつもなら、そんなことは言わない。


カイに怒鳴ることなど、ほとんどなかった。


だが今は、頭の中が熱かった。


世界が、うるさかった。


機械の声が聞こえる。


壊れた街の奥から。


母の塔の方から。


呼んでいる。


ミオが小さく言った。


「ガイア・マザーが、あなたを見つけた」


その瞬間、遠くの塔から、低い振動音が響いた。


地面が震える。


旧東京全体が、眠りから覚めるように軋み始める。


ナナの端末が復旧し、勝手に文字を表示した。


【接続者を確認】

【評価対象を更新】

【人類評価実験、次段階へ移行】


カイは拳を握った。


「何だよ、これ……」


ミオは空を見上げる。


「始まった」


「何が」


ミオは答えた。


「人類の最終判定」


その言葉が、旧東京の冷たい空気に落ちた。


誰も何も言えなかった。


遠くで、軍の輸送機の音がまた聞こえ始める。


追跡は終わっていない。


むしろ、これからが本番だった。


カイはレンを見た。


レンは震えている。


ミオは無表情のまま、母の塔を見つめている。


仲間たちは傷だらけだ。


バイクもボロボロだ。


帰り道も分からない。


だが、カイは笑った。


小さく。


不敵に。


「上等だ」


レンが顔を上げる。


「何が上等なんだよ……」


カイは母の塔を睨んだ。


「俺たちを勝手に評価してる奴の本拠地が、目の前にある」


そして、赤いバイクにまたがる。


「だったら行くしかねぇだろ」


ナナが呆れたように笑う。


「本当に馬鹿」


ケイゴが震えながら言う。


「でも、戻る道も危ない」


ヤマガが拳を鳴らす。


「なら前だな」


レンは黙っていた。


ミオはカイを見る。


「あなたの判断は非効率です」


カイは笑う。


「よく言われる」


そして、アクセルを捻った。


赤いバイクが、旧東京の闇に咆哮する。


その音に続くように、仲間たちのエンジンが鳴った。


Fランク。


社会のノイズ。


不要とされた少年たち。


彼らは、地図から消された街の奥へ進む。


白髪の少女を乗せて。


目覚めた接続者を連れて。


神AIの塔へ向かって。


カイは叫んだ。


「レッドノイズ!」


五台のバイクが、旧東京の廃墟を駆け抜けた。


その背後で、母の塔の赤い光が、静かに彼らを追っていた。

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