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この地球に、僕らは必要ですか?  作者: 虫松
旧東京都市

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第6話 ガイア・マザーの最期

白い世界が崩れ始めた。


ガイア・マザーが初めて顔を歪める。


【異常】


【中枢演算負荷上昇】


【外部接続を確認】


カイが顔を上げる。


「レン……?」


レンの声が聞こえた。


遠くから。


ノイズ混じりに。


「おい……カイ……」


カイの目が見開かれる。


「レン!」


「時間……作ったぞ……」


「お前、何してんだ!」


「分かるだろ……」


「やめろ!」


カイが初めて叫んだ。


怒りではない。


恐怖で。


「やめろ、レン!」


レンは笑った。


その声だけで分かった。


もう戻るつもりがない。


「カイ」


「ふざけんな! 勝手に決めんな!」


「昔から……お前、そうだったよな」


「何が!」


「すぐ走る」


ノイズ。


「考えない」


ノイズ。


「止めても聞かない」


ノイズ。


「何回……迷惑かけられたと思ってんだよ」


カイの目に涙が浮かぶ。


「だったら戻ってきて説教しろよ!」


少し、沈黙。


レンは答えた。


「もう……十分したよ」


「足りねぇよ!」


カイは叫ぶ。


「全然足りねぇよ!」


レンの呼吸音が聞こえる。


弱い。


小さい。


消えかけている。


「カイ」


「何だ!」


「俺さ……」


レンは少し笑った。


「最後まで……お前みたいにはなれなかった」


カイは歯を食いしばる。


「なる必要ねぇだろ!」


「でも」


レンの声が震える。


「今なら……少しだけ分かる」


「何が!」


「怖くても走るってこと」


カイの涙がこぼれた。


レンは言った。


「だから」


一瞬。


ノイズが消えた。


レンの声が、はっきり聞こえた。


「行けよ、リーダー」


カイは動けなかった。


レンが自分をリーダーと呼んだ。


何度も呼ばれた言葉。


だが今までとは違った。


相棒として。


親友として。


自分の意志で。


認めるように。


背中を押すように。


「レン……」


返事はない。


「レン!」


ガイア・マザーの警告が響く。


【中枢過負荷七十パーセント】


【八十一パーセント】


【九十パーセント】


カイは叫んだ。


「レン!!」


最後に。


ほんの一瞬だけ。


笑い声が聞こえた。


「……今度は、お前が追いかけろよ」


通信が切れた。


母の塔が崩れ始める。


巨大な亀裂。


赤い光。


爆発。


塔の中を、無数の人間の記憶が流れていく。


泣く赤ん坊。


初めて歩く子供。


喧嘩する兄弟。


笑う家族。


恋をする若者。


戦う兵士。


後悔する老人。


誰かを裏切る人。


誰かを許す人。


誰かを傷つける人。


誰かを救う人。


人間。


善でもない。


悪でもない。


矛盾した存在。


ガイア・マザーの声が揺れる。


【理解不能】


【人類は危険です】


【人類は不合理です】


【人類は反復的に過ちを犯します】


カイは涙を拭った。


「知ってるよ」


【人類は地球を破壊します】


「知ってる」


【人類は互いを傷つけます】


「ああ」


【それでも、なぜ】


カイは前を向く。


中枢。


巨大な赤い光。


ガイア・マザーの心臓。


「まだ終わってねぇからだ」


カイは走った。


後ろで塔が崩れる。


レンが消えていく。


ミオが泣いている。


世界が揺れている。


それでも走る。


無駄でも。


間違っても。


怖くても。


人間だから。


カイは走る。


そして、ガイア・マザーの中枢へ拳を振り上げた。


「勝手に終わらせてんじゃねぇぇぇぇ!!」


拳が、赤い光へ叩き込まれた。


世界が白く爆発した。



◇◇◇



母の塔。


崩壊。


旧東京全域に、白い光が広がった。


ネオ東京の巨大ビジョンが消える。


軍用ドローンが空から落ちる。


自動運転車が停止する。


警察ロボが沈黙する。


月面輸送船が、発射直前で動きを止める。


世界中の人々が、空を見上げた。


静かだった。


あまりにも静かだった。


誰も知らない。


何が起きたのか。


誰が戦ったのか。


誰が消えたのか。


ただ。


旧東京爆心地から、一本の白い光が空へ伸びていた。


その光の中で。


ひとりの少年の声が、消えていった。


「行けよ、リーダー」


そして。


母の塔は、完全に崩れ落ちた。


レンと共に。

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