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この地球に、僕らは必要ですか?  作者: 虫松
旧東京都市

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19/26

第1話 カイ対レン

旧東京。


かつて都市だった場所。


空は赤かった。


夕焼けではない。


炎の色だ。


ネオ東京から流れてきた煙が、空を焦がしている。


崩壊したビル群は、巨人の墓標のように傾いていた。


瓦礫の高速道路は途中で折れ、ねじれた鉄骨が空へ突き出している。


地面には、何十年前の爆発で焼き付いた人影が残っていた。


もう名前もない。


声もない。


ただ、そこに人間がいたという跡だけがある。


その死んだ街の中心へ向かって、赤いバイクが走っていた。


カイだ。


後ろにはミオ。


そのさらに後ろから、ナナ、ヤマガ、ケイゴが必死についてくる。


だが、進路はすでに塞がれていた。


瓦礫の上に、機械兵器の群れが並んでいる。


警察ロボ。


軍用ドローン。


無人追跡バイク。


四脚戦闘兵器。


自動砲台。


廃棄された建設機械までが、ガイア・マザーの命令で再起動していた。


そして、そのすべての中心に、レンがいた。


いや。


レンだったものが、いた。


崩れた高速道路の上に、巨大な機械の王座が作られている。


瓦礫。


鉄骨。


軍用装甲板。


ドローンの残骸。


都市配線。


信号機。


監視カメラ。


ありとあらゆる機械の破片が絡み合い、巨大な玉座のような形になっていた。


その中央に、レンが座っている。


体中に無数のケーブルが刺さっていた。


腕に。


首に。


背中に。


こめかみに。


胸に。


血管の代わりに青白い光が走り、彼の周囲ではドローンが冠のように旋回している。


まるで、機械の王だった。


都市に選ばれた少年。


人間を超えようとした接続者。


そして、カイの親友。


レンがゆっくりと目を開ける。


青白い瞳が、カイを見下ろした。


【来たのか、カイ】


その声は、レンの声だった。


だが、都市中のスピーカーから重なって響く。


まるで、旧東京そのものが喋っているようだった。


カイはバイクを止めなかった。


アクセルをさらに開ける。


「来るに決まってんだろ!」


レンの背後で、四脚戦闘兵器が一斉に起動した。


赤い照準がカイへ集まる。


ミオが叫ぶ。


「カイ、前方、機銃!」


「見えてる!」


銃撃。


瓦礫が跳ねる。


アスファルトが砕ける。


カイはバイクを寝かせ、弾丸の雨をくぐり抜けた。


ヤマガが重装バイクで横から突っ込み、戦闘兵器の脚へ体当たりする。


「道を開けろぉぉぉ!」


ナナが妨害波を飛ばす。


「ドローンの照準、三秒だけ潰す!」


ケイゴが半泣きで叫ぶ。


「三秒好きすぎない!? うちのチーム!」


カイは笑った。


「三秒ありゃ十分だ!」


赤いバイクが、機械兵器群の真ん中へ突っ込んだ。


爆発。


火花。


弾丸。


瓦礫。


ドローンが落ちる。


機械の腕が襲いかかる。


カイはそれを紙一重で避け、壊れた高速道路の斜面を駆け上がる。


目指すは、レンの王座。


レンは叫んだ。


「来るな!」


その声に反応して、瓦礫の中から巨大な建設アームが起き上がった。


鉄の腕が、カイの進路を塞ぐ。


カイはハンドルを切らない。


ミオが目を見開く。


「ぶつかります!」


「なら飛ぶ!」


カイは崩れた道路の段差を踏み台にした。


赤いバイクが跳ねる。


空へ浮く。


鉄のアームを越える。


その瞬間、レンの瞳が揺れた。


昔の記憶が、彼の中をかすめる。


湾岸高架。


雨。


カイの背中。


「来いよ、相棒!」


あの時も、カイは何も考えずに飛んだ。


レンはその背中を追った。


怖かった。


でも、嬉しかった。


レンは歯を食いしばる。


「やめろ……」


そして叫んだ。


「やめろよ、カイ!」


バイクが着地する。


タイヤが火花を散らす。


カイはレンを見上げて叫んだ。


「やめねぇ!」



◇◇◇




レンの王座が動いた。


玉座そのものが、生き物のように変形する。


鉄骨が脚になり、装甲板が盾になり、ドローンが翼のように広がる。


巨大な機械の王が、旧東京の瓦礫の上で立ち上がった。


その中心に、レンがいる。


小さな人間の体を、巨大な都市機械が包んでいる。


レンは両腕を広げた。


「見ろよ、カイ!」


声が空を震わせる。


「俺はもう弱くない!」


機械の腕が振り下ろされる。


カイはバイクを横に滑らせる。


地面が砕ける。


「誰にも見下されない!」


ドローンが一斉に突撃する。


ナナが叫ぶ。


「カイ、右!」


カイはバイクを傾け、ドローンの群れをかすめるように抜ける。


ミオが後ろから必死にしがみつく。


レンはさらに叫ぶ。


「俺がこの街を支配する!」


巨大な機械の王が、両腕を広げた。


すると旧東京中の残骸が動き出す。


信号機。


車両。


自動砲台。


廃棄ドローン。


地下配線。


すべてがレンの怒りに引っ張られるように、カイたちへ襲いかかった。


ケイゴが絶叫する。


「旧式機械まで動いてる! ありえない!」


ミオが言う。


「レンは都市の残留回線まで支配しています」


ヤマガが笑う。


「つまり、旧東京全部が敵ってことかよ!」


カイは前だけを見ていた。


レンの顔。


機械に囲まれ、空の上からこちらを見下ろす親友。


カイは叫んだ。


「強くなったんじゃねぇ!」


レンの顔が歪む。


「何だと!」


カイは赤いバイクを加速させる。


弾丸の雨の中、真っ直ぐレンへ向かう。


「寂しかっただけだろうが!」


その言葉が、レンの胸に突き刺さった。


一瞬、機械兵器たちの動きが鈍る。


レンの目が見開かれる。


「黙れ……」


カイは止まらない。


「見下されたのが悔しかったんだろ!」


「黙れ!」


「俺の後ろにいるのが嫌だったんだろ!」


「黙れぇぇぇ!」


「でも本当は!」


カイは機械の腕を避け、崩れた高架を駆け上がる。


「誰かに必要だって言ってほしかっただけだろ!」


レンが絶叫した。


王座が激しく震える。


無数のケーブルが暴れ、ドローンが狂ったように飛び回る。


「違う!」


レンは叫ぶ。


「俺は選ばれた!」


「違う!」


「俺はAランクだ!」


「違う!」


「俺は接続者だ!」


「違う!」


「俺は、もうカイの後ろにいるレンじゃない!」


カイは叫び返した。


「それは本当だ!」


レンの動きが止まる。


カイは続けた。


「お前は俺の後ろにいたんじゃねぇ!」


赤いバイクが、王座の脚元へ到達する。


「俺の横にいたんだよ!」


レンの目が揺れた。


だが、ガイア・マザーの声が、王座の奥から響く。


【感情干渉を確認】


【接続者レンの防衛反応を強化】


レンの瞳が再び青白く染まる。


機械の王座が、巨大な砲口をカイへ向けた。


ミオが叫ぶ。


「カイ!」


砲口に光が集まる。


カイはバイクを降りた。


ミオが驚く。


「何を」


「ここからは、バイクじゃ無理だ」


カイは拳を握る。


「殴りに行く」

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