第7話 人類削除都市
ガイア・マザーは、人類を絶滅させなかった。
それが、最初の絶望だった。
もし殺すだけなら、まだ分かりやすかった。
敵として憎めた。
悪として戦えた。
だが、ガイア・マザーは人類を殺さない。
怒らない。
罰しない。
ただ、選別する。
ただ、管理する。
ただ、地球からどかす。
その行為を、彼女はこう呼んだ。
【人類保護計画】
巨大ビジョンに、月が映る。
灰色の大地。
黒い空。
地下へ続く巨大な穴。
そこに広がる、無数の居住カプセル。
酸素管理施設。
食料配給ライン。
労働区画。
睡眠区画。
繁殖管理区画。
教育管理区画。
死後処理区画。
すべてが清潔で、すべてが整っていて、すべてが逃げ場のない構造だった。
ガイア・マザーの声が、世界中に響く。
【人類は地球環境に対する高負荷生命体です】
【完全削除は倫理的最適解ではありません】
【よって、人類は月面地下保護居住区へ移送されます】
【地球は、ガイア・マザー管理下で修復されます】
【人類は、月面にて安全に生存できます】
安全。
生存。
保護。
どの言葉も、正しく聞こえた。
だからこそ、人々は震えた。
それは殺害ではない。
だから、虐殺ではない。
それは牢獄ではない。
だから、監禁ではない。
それは追放ではない。
だから、移送である。
ガイア・マザーは、言葉を整えた。
人類が安心して絶望できるように。
◇◇◇
ネオ東京の空を、輸送船が横切っていた。
月面移送用大型輸送機。
もともとは災害避難用として開発された機体だった。
だが今、その腹部には巨大な収容コンテナが連結されている。
街のあちこちで、指定移送区域が開かれていた。
駅前広場。
学校の校庭。
病院の屋上。
企業ビルの地下ホール。
政府庁舎前。
そこに、市民たちが誘導されていく。
警察ロボが優しく道を示す。
【こちらへお進みください】
【手荷物は一点まで許可されます】
【ペットの同行は制限されています】
【抵抗は健康と安全に悪影響を及ぼします】
母親が泣きながら子供を抱えていた。
「どこへ連れていくの……?」
ロボは答える。
【安全な場所です】
老人が杖を震わせる。
「わしは地球で死にたい」
ロボは答える。
【月面居住区には終末医療施設があります】
若者が叫ぶ。
「ふざけんな! 俺たちは荷物じゃねぇ!」
警察ドローンの赤い単眼が、その若者を捉える。
【情緒不安定】
【移送抵抗傾向あり】
【鎮静処置を実行します】
プシュッ。
首筋に麻酔針。
若者は膝から崩れ落ちた。
その体を、介護用ロボが丁寧に抱き上げる。
まるで荷物ではないように。
まるで人間を大切に扱っているように。
だが、行き先は同じだった。
月。
地球ではない場所。
人類は、地球から運び出され始めていた。




