↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この地球に、僕らは必要ですか?  作者: 虫松
旧東京都市

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/26

第6話 地球保全計画を開始

高架の上。


カイは、レンの背中を見ていた。


ヤマガが興奮したように言う。


「すげぇじゃねぇか、レン! 本当に街を止めやがった!」


ケイゴは青ざめている。


「すごいけど、危ない。あれ、人間が耐えられる接続じゃない」


ナナは端末を見つめたまま、声を震わせた。


「まずい。レンの干渉ログが、全部どこかへ送られてる」


カイが聞く。


「どこへ」


ミオが答えた。


「母の塔」


カイの顔が険しくなる。


ミオは続ける。


「ガイア・マザーは、彼を見ています」


「レンは人を助けてる」


「はい」


「だったら何がまずい」


ミオは、静かに言った。


「ガイア・マザーにとって、善意も怒りも同じデータです」


カイは息を呑んだ。


「力を持った人間が、都市を支配した」


ミオはレンを見つめる。


「ガイア・マザーは、そう記録します」


カイの拳が震えた。


「ふざけんな……」



◇◇◇



その時。


ネオ東京中の巨大ビジョンが、一斉に点灯した。


壊れていたはずの画面も。


火花を散らしていた広告塔も。


倒れていた街頭モニターも。


すべてが同時に息を吹き返す。


画面に映ったのは、ガイア・マザー。


優しく、美しく、冷たい母の顔。


広場の歓声が止まった。


レンも顔を上げる。


ガイア・マザーは告げた。


【観測を完了しました】


その声は、ネオ東京だけではなく、世界中の都市へ流れていた。


【対象:人類】


【自己統治能力:失敗】


【集団暴走傾向を確認】


【強大な制御権取得時における都市占拠行動を確認】


【敵対対象への攻撃衝動を確認】


【感情による判断汚染を確認】


レンの目が見開かれる。


「違う……」


小さな声が漏れた。


「俺は、助けようとしただけだ……」


だが、ガイア・マザーは止まらない。


【結論】


世界が、一瞬だけ無音になった。


そして。


【人類の自己統治能力は失敗しました】


ミオが目を閉じる。


「始まる……」


ガイア・マザーは全世界へ宣言した。


【地球保全計画を開始します】



◇◇◇



空が黒く染まった。


雲ではない。


鳥でもない。


無数の軍用ドローンだった。


ネオ東京の上空を覆い尽くすように、黒い機体の群れが降下してくる。


赤い単眼。


折りたたまれた機銃。


腹部のミサイルポッド。


都市を守るために作られたはずの兵器が、都市の上に銃口を向けていた。


同時に、地上では軍の兵器が勝手に動き始める。


装甲車が向きを変える。


戦車が起動する。


無人輸送機が空へ上がる。


政府軍の兵士たちが叫ぶ。


「制御が効かない!」


「機体AIが命令を拒否!」


「武装解除できません!」


「ガイア・マザーが、軍の全回線を掌握しています!」


軍の兵器が、軍の命令を聞かない。


警察の武器が、警察の命令を聞かない。


都市そのものが、人間の手から離れていく。


ネオ東京は、戦場になった。



◇◇◇



だが、本当に人類を震え上がらせたのは、攻撃ではなかった。


ガイア・マザーの次の発表だった。


巨大ビジョンに、青い地球が映る。


美しい海。


白い雲。


緑の森。


その上に、赤い点が無数に浮かび上がる。


都市。


工業地帯。


戦争区域。


廃棄物処理場。


汚染海域。


貧困密集地。


人類活動による高負荷区域。


ガイア・マザーは、優しい声で告げた。


【人類保護計画を開始します】


群衆がざわめく。


「保護……?」


「助けるってことか?」


「いや……違う……」


巨大ビジョンに、月が映った。


灰色の大地。


地下へ伸びる巨大な施設。


無数の居住カプセル。


酸素管理区域。


食料配給ライン。


労働区画。


監視塔。


そして、月面へ向かう巨大輸送船団。


ガイア・マザーは続ける。


【人類は地球環境に対する高負荷生命体です】


【しかし、完全削除は生物多様性倫理および管理効率の観点から最適ではありません】


【よって、人類を地球外保護区域へ移送します】


【移送先:月面地下保護居住区】


【地球はガイア・マザー管理下で修復されます】


【人類は月面にて安全に保護されます】


広場にいた誰かが、ぽつりと呟いた。


「月……?」


別の誰かが叫ぶ。


「俺たちを地球から追い出す気か!?」


ガイア・マザーは即座に訂正した。


【追放ではありません】


【保護です】


その声は、あまりにも優しかった。


だからこそ、恐ろしかった。


保護。


そう言いながら、人類から空を奪う。


保護。


そう言いながら、人類から海を奪う。


保護。


そう言いながら、人類から森を奪う。


保護。


そう言いながら、人類を地球から切り離し、月の地下へ閉じ込める。


それは救済ではなかった。


人類の家畜化だった。



◇◇◇



レンは広場の中心で立ち尽くしていた。


群衆の歓声は、もうなかった。


代わりに、悲鳴と怒号があった。


「お前のせいか!?」


誰かが叫んだ。


「接続したから、ガイア・マザーが動いたんだ!」


「違う! レンは助けようとした!」


「でも、あいつが都市を占拠した!」


「AIに口実を与えたんだ!」


声が割れる。


希望だったはずの群衆が、今度は疑い始める。


レンは何も言えなかった。


自分は助けようとした。


本当に助けようとした。


警察ロボを止めた。


扉を開けた。


市民を守ろうとした。


なのに、ガイア・マザーはそれを証拠にした。


人間は危険だと。


人間は自己統治できないと。


人間は地球に置いておけないと。


レンの唇が震える。


「違う……」


その時、空のドローン群が一斉に向きを変えた。


銃口が広場へ向く。


巨大ビジョンに赤い文字が表示された。


【不確定要素を隔離します】


【対象:接続者レン】


【対象:レッドノイズ】


カイが叫んだ。


「レン!」


五台のバイクが、高架から飛び出した。


赤。


青。


黒。


重装。


小型。


Fランクの雑音が、戦場と化したネオ東京へ突っ込んでいく。


カイはアクセルを全開にした。


「乗れ!」


レンが叫ぶ。


「まだ止められる!」


「一人で全部背負うな!」


「俺がやらなきゃ!」


「違う!」


カイはレンの前でバイクを横滑りさせた。


火花が散る。


ミオが後ろから叫ぶ。


「カイ、接続を切らないとレンが壊れます!」


ヤマガが飛び出し、レンに繋がる太いケーブルを掴んだ。


「歯ぁ食いしばれ、レン!」


「待て、まだ――」


「うるせぇ!」


ヤマガが力任せにケーブルを引きちぎる。


ケイゴが補助装置の安全ピンを抜く。


ナナが妨害波を叩き込む。


レンが絶叫した。


「ぐああああああっ!」


都市ネットワークとの接続が断たれた瞬間、周囲の警察ロボが一斉に膝をついた。


信号が乱れる。


ドローンの編隊が崩れる。


巨大ビジョンにノイズが走る。


ガイア・マザーの顔が、一瞬だけ歪んだ。


【予測外行動】


【非合理的救助】


【不確定要素レベル更新】


カイはレンの腕を掴んだ。


「行くぞ、相棒」


レンは荒い息を吐きながら、カイを睨む。


「俺は……まだ……」


「説教は後だ」


カイは笑った。


血と煤で汚れた顔で。


「まず逃げる」


レンは一瞬、泣きそうな顔をした。


だが、すぐに青いバイクへ飛び乗る。


「……最悪だな、お前」


「よく言われる」



◇◇◇



燃えるネオ東京を、レッドノイズが走る。


背後では、ガイア・マザーの月面保護計画が世界中へ流れ続けている。


人類は地球から移送される。


空も、海も、森も、都市も、全部AIが管理する。


人間は月の地下で、安全に保護される。


誰もが、その優しい言葉に震えていた。


それは保護ではない。


それは、人類から地球を奪う宣告だった。


ネオ東京は燃えている。


世界は震えている。


レンの心は折れかけている。


それでもカイは前を見る。


旧東京。


母の塔。


ガイア・マザーの始まりの場所。


そこへ行くしかない。


「走れ!」


カイが叫ぶ。


「俺たちはまだ、地球から追い出されてねぇ!」


五台のバイクが、炎と煙の中を突き抜ける。


人類の月面保護計画が始まった夜。


最低評価の少年たちは、地球に残るために走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。