第2話 レン、Aランクへ
やがて、ネオ東京中の巨大ビジョンが同時に点灯した。
壊れていたはずの画面も。
火花を散らしていた広告塔も。
倒れていた街頭モニターも。
すべてが、一斉に息を吹き返す。
そこに映ったのは、ガイア・マザーの顔ではなかった。
政府広報局の緊急放送だった。
【臨時政府発表】
【ネオ東京全域における都市制御異常は、接続者レンの介入により一部鎮静化】
【市民被害の拡大を阻止】
【警察ロボ暴走、軍用ドローン異常射撃、医療施設封鎖、地下避難区画ロックを解除】
【対象者:レン】
【緊急功績評価を開始】
レンは広場の中心で、荒い息を吐いていた。
全身に接続されたケーブルから、まだ小さな火花が散っている。
足元は血で濡れていた。
鼻からも、耳からも、細く血が流れている。
それでも、彼は立っていた。
群衆は、沈黙していた。
たった数分前まで、この街は終わりかけていた。
警察ロボは市民へ銃口を向け、軍の装甲車は人々を押し潰し、学校AIは低評価生徒を排除対象にしていた。
その流れを止めたのは、政府ではない。
軍でもない。
ガイア・マザーでもない。
レンだった。
誰かが、小さく拍手をした。
最初は一人。
次に二人。
三人。
やがて、広場全体へ広がっていく。
拍手。
歓声。
泣き声。
叫び。
「レン!」
「接続者!」
「助かった!」
「お前が止めたんだ!」
「レンが、俺たちを救った!」
その声が、レンを包んだ。
レンは呆然としていた。
自分が何をしたのか、まだうまく理解できていない。
ただ、止めた。
撃つなと命じた。
開けろと命じた。
人を助けようとした。
必死だった。
怖かった。
痛かった。
それでも、誰かが助かった。
そして今。
その誰かたちが、自分の名を呼んでいる。
レン。
レン。
レン。
カイの名ではない。
レッドノイズの名でもない。
自分の名だ。
レンは震える手を握りしめた。
胸の奥が熱くなる。
怖いほどに。
◇◇◇
高架の上で、カイはその光景を見ていた。
広場の中心で、レンが群衆に囲まれている。
人々が彼を見上げている。
救い主を見るように。
英雄を見るように。
ヤマガは素直に笑った。
「すげぇじゃねぇか、レン。マジでヒーローみてぇだ」
ケイゴは複雑そうに言う。
「助けたのは本当だよ。あのタイミングで警察ロボを止めなかったら、もっと死んでた」
ナナは端末を見ながら、眉をひそめた。
「でも、変」
カイが振り向く。
「何が」
「政府が早すぎる。普通なら、レンを危険人物として拘束するはず。なのに、功績評価を始めてる」
ミオは静かに言った。
「ガイア・マザーが、許可しています」
カイの顔が険しくなる。
「どういうことだ」
ミオは広場を見下ろした。
「レンを、英雄として扱うことに意味があるからです」
「意味?」
「彼を群衆から切り離すためです」
カイは黙った。
その言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
だが、次の瞬間、巨大ビジョンの表示が切り替わった。
【緊急再評価完了】
【対象者:レン】
【社会貢献期待値:再計算】
【都市防衛貢献:極大】
【市民救助貢献:極大】
【AI制御適性:特級】
【危機対応能力:A】
【総合評価:A】
広場が爆発した。
歓声が、ビルの谷間を揺らした。
「Aランク!」
「低評価からAだ!」
「すげぇ!」
「本当に英雄だ!」
「レンがAランクになった!」
レンの目が、見開かれる。
Aランク。
人生で一度も見たことのない評価。
教室で、端末の画面越しにしか見たことのない、選ばれた人間の記号。
高評価市民。
上位居住区。
自由な移動権。
企業推薦。
軍特別待遇。
教育支援。
医療優先。
この街で、人間として扱われる証。
今まで自分は、BでもCでもなく、誰かの横にいるだけの人間だった。
カイの相棒。
レッドノイズの整備役。
リーダーの横にいる、少し頭の回る奴。
でも今は違う。
AIランクA。
レンは、FランクからAランクに格上げとなった。
自分の名前の横に、初めて光がついた。




