夏休みの田舎町にて。
海が見える町だった。
漁業が盛んではあるものの後継者不足に悩む、若者は年頃になれば都会に出ていくような典型的な過疎が進んだ田舎の町。
高校生の大和は夏休みを利用してたった一人、祖父母が住むこの町に遊びに来たのだ。
「よく来たね。電車、疲れたろ。」
優しく深いしわを刻みながら朗らかに微笑む祖母が、玄関先で出迎えてくれる。
「平気。じいちゃんは?」
「組合の集まりで、公民館よお。」
「ふーん。あ、これ。お土産。」
新幹線の出発時刻間近、駅の中にある店で慌てて購入した土産の品を祖母に手渡した。祖母は大げさなほど喜んで、仏壇の前に置く。それを見越して買ったのは、焼き菓子だった。
「さて、今夜は天ぷらにしようかね。」
「やった!ばあちゃんのかき揚げ、大好き。」
仏壇に手を合わせた後、祖母と二人で庭にある菜園でナスを採った。ナスは家庭菜園の物とは思えないほど立派で、艶々としてよく実っている。ついでに採ったトマトを丸かじりすると、温くとも瑞々しい果汁が口の中に溢れた。トマトのほんの少しの生臭さと、清々しい酸味がすっきりとするようだった。
夕方近くになると、ようやく祖父が公民館から帰ってきた。
「おう。」
口数少なめに、でも歓迎してくれているのがわかる声色に大和も「おう」と応える。
「お前、酒は?」
日本酒の瓶を棚から出しながら、祖父が大和に問う。
「僕、まだ高校生だよ。じいちゃん。」
「俺がお前ぐらいのときは、もう飲んでたけどな。」
無茶言うよ、と大和が笑うと、祖父もにやりと笑った。
「飲んでみるか?」
「こら!全く、ろくでもないじいさんだね。」
台所に立って調理をしていた祖母が、祖父に向かってぴしゃりと怒った。
「大丈夫だよ、ばあちゃん。飲まないから。」
「大和の方が大人じゃないか。」
やれやれとばかりに溜め息を吐いて、祖母は再び二人に背を向けて台所に立つ。程なくして、包丁のリズミカルな音が響いた。
ふわりと味噌汁の出汁の香りが鼻孔をくすぐる。優しい夕飯に至る時間が流れていた。
祖父がテレビの電源をつけて、夜7時のニュースが始まった。世界情勢、気候変動、日本の政治、地域の祭りの話題が持ち上がる。
「つまらんニュースばかりだな。大和、番組変えていーぞ。」
「へーい。」
テレビのリモコンを手に、ポチポチとチャンネルを変えていく。クイズ番組に落ち着いた頃、祖母が台所で「あれえ」と声を上げた。
「ばあちゃん、どしたん。」
大和が振り返って見ると、祖母が申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「めんつゆを買い忘れたわ。」
天ぷらを食すときに、めんつゆは欠かせない。上品に塩、だけでは大和には物足りなかった。
だが、近所の商店はとっくに閉まっている。田舎の閉店時間は異様に早い。
「大和、葵ちゃんとこ行って借りてきて。」
「はいよ。」




