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※不備を見つけた際は誤字報告受付まで。
適当で良いよ、多分ね。
「で、シャシャ3ケルセクって訳ね。面白いじゃん?」
「面白がってる場合じゃ無いわ。この人をアグレッサーとして使えるようにしないといけないのよ?」
本人の前で実質使えない宣言は手厳しい。
まぁ、最初から分かっていた事ではある。
むしろ、一応知っているから覚悟ができるシャシャ隊で良かったかもしれない。
しかし、そんな事を考えていられたのは5分前までだった。
今の私は轟音の只中に居る。
あぁ、それと怒号の只中だ。
「遅い!どこ見て飛んでんの?前を見ろ!前を!」
「既に5回もここで死んでるわね。集中しなさい」
「私の反射では無理ですよこれ」
「はぁ?反応してからじゃ遅いんだよ!先を読んで飛べ!出来ないならもっと死ね!」
あまり考えたくないが、この5分で分かったことがある。
これ、ジャガットは幸せ者だったな。
間違いなくそうだ。
まさか開始してから30分後に水をかけて起こされるとは思わなかった。
限界まで擦り減った神経に耐えられず、気絶していたらしい。
覚えているのは、とんでもなく精度の高い確殺を永遠に投げてくる相手にマージさせ続けられた事か。
しかし、起こされただけで終わる訳もなかった。
小隊長は忙しいのだ。つまり、事前にアグレッサー部隊と行える訓練時間も限られる。
かつて辛かった記憶の筆頭である新人の頃が生易しかったと、既に即答できる。
まだ30分だと言うのに。
しかし同時に、身に着けば確実に伸びる事は理解出来た。
明確な高みを理解する事がどれほど重要か、身を投じてよく分かったからだ。
それと、先ほど相手にしていたのは、どうやらシーラの飛行データらしい。
つまり、彼女はあの動きを実際に行えるということになるのだが . . .
それ以上は考えたくもない話だ。
いや、考えた所で何にもならないか。
その後、数日間は空き時間が有ればシーラのデータと戦闘を行う日々が続いた。
そして、私の身体は確実に呑まれていた。
居ても立っても、気が付けば防御機動を取ろうとしている。
ハッとした時にはブレイク済み。
前から何か現れれば、バンザイを覚悟。
起きていようが、寝ていようが関係ない。
焼き付けられたあの光景に、何度も身体が動き続ける。
しかし、何度やっても結果は変わらず。
最初の交差で即死判定だ。
何がいけないのか?それを考え続ける。
パターンはあるのか?
癖は?
タイミングは?
どれも、経験則だ。
彼女らは毎回言う。反射ではダメなのだと。
しかし、人間は外からの出来事に対してその殆どを反射に任せているし、経験則は反射の蓄積だ。
それを捨てて考えていては、反射にすら劣る。
結局答えは見つからず。
今日は実際に飛んで相手をするとの事だった。
「リヴァー1からシャシャ2 いつでもどうぞ」
「了解 じゃあ先ずは簡単な確認から リヴァー1エレメント維持」
「了解」
横並びの状態から、速度を落として後ろに下がる。
所定の位置関係となった途端、シャシャ2は軽く主翼を振ってからブレイクした。
離されないように喰らいつく。
細かく切り返していた次の瞬間には、ノズルを締め上げてくぐもった破裂音を残し、一気に加速して雲の端を触れるように周る。
躊躇なく雲を突き抜けた先で急上昇すれば、まるでGなど関係ないと防御機動を繰り返して高度を下げて行く。
稼働角限界まで引き出された制御面の動きは、それが玩具か何かだと錯覚する程に動き回っている。
少しでも遅れれば、瞬く間に旋回径から弾き出されてしまう。
軽く身を振るようなロール癖を入れる機体の動き。
風に巻かれているような軽さで繰り返される機動。
彼女の言う、簡単な確認がこれであるなら、私は叫びたい。
どこが簡単なんですかぁー!
目の前の機が、水平飛行に戻った。
全身から噴き出した汗、上がり切った呼吸、遠のく機体の音。
手放されそうな意識は、指先が震えているのを辛うじて理解した。
り . . . きこ####てく―――
何か聞こえる。
天使が迎えに来たのか?
全てが白い世界に埋もれて行く。
目の前にあった筈の機体は、いつの間にか白く輝く星となる。
――?―――!―!
そんなに騒がなくたって良いじゃないか。
この白い星は、お喋りが好きなのか?
――1!―――せく!
はぁ〜。まったく、どいつもこいつも困ったものだ。
お喋りしている暇は無いというのに。
「イコレット!死ぬ為に飛んでるの?!飛べないなら死ね!!」
それは酷くないか?
私だって生きる為に飛んでいるんだぞ。
だから今だって、急降下してる機体を水平に戻している。
急降下だと?高度計は!
ダメだ、見えない!何で白いんだよ!
見えなくても桿を引くしかないだろ!
戻れ!戻れ!戻れ!
エアブレーキ入れろ、スロットルも落とせ!
優しく引き始めろよ、ゆっくりだからな!
いいか?落ち着いて、ゆーっくり引くんだ。
いくぞ? . . . 今だ!
押し付けられる身体だけを頼りに操縦桿を引く。
遥か遠くから、警告音が戻ってくる。
身体の押し付けが強くなるに従って、煩い警告音はその間隔を延ばし、ついに黙った。
不思議な事に、今の私はスッキリだ。
晴天の空そのものの様な気分だ。
空の彼方まで私であり、私は空の彼方である。
そう感じる。
これが . . . 空の、息遣いか?
私に足りないものなのか?
しばらくして、震えている身体に気がついた。
震えていると理解したのを皮切りに、次々と感覚が戻ってくる。
機体状況、高度、速度、問題なし。
データリンク、通信機、異常なし。
順に機体を確認していると、右後方から新たなエンジン音を響かせながら、機体が真横に現れる。
その機体の方へ振り向くと、キャノピー越しの逆光で遮られ、よく見えなかった。
「シャシャ2からリヴァー1 聞こえますか?コールサインを復唱してください」
「リヴァー1」
「よかった . . . 今日は切り上げます 帰れますか?」
それは、これで終わるということか?
時間もない。余裕もない。飛ぶ技術もない。
それなのに、私は簡単な確認で終わりだと?
予定すら完遂させられず、途中で?
死にかけただけで、終わりにして帰ると?
ダメだ!
それでは変わらない。
また同じ事になるだけで、何も成長しない。
このまま次は、本当に死ぬかもしれないままだ!
「ネガティブ 続けます 私はまだ死んでいません」
「本気?自分が死にかけたの分かってるの?」
当然だ。
今の私は、これ以上無いくらい鮮明な気持ちで望んでいる。
やっと分かったのだ。彼女らの飛び方を。反射でも思考でもない飛び方を、やり方を。
「やっと入口に立てたんです 試させてください」
「ダメよ 排除できる危険は取れない」
軍人なら最もだ。
でもこれは、軍人になる為ではない。
「その危険を排除してアグレッサーになったんですか?」
「それは . . . 」
意地の悪い質問なのは分かっている。
それでも、私に必要なのは分かってくれる筈だ。
「 . . . ガシャン!」
何かを思いっきり叩いた様な音だけが返ってくる。
その後の沈黙は重苦しく、突き刺す様に尖った空気がこの場を支配するのに十分だった。
「いいわ 予定通り相手をしてあげる 好きな状況を決めなさい」
その代わり、死んでも知らないから。
そう言って離れて行く彼女の機体は、暗い影を覆うほど、白く輝いていた。




