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※不備を見つけた際は誤字報告受付まで。
適当で良いよ、多分ね。
「了解 距離20で反転ね」
私は、訓練に使われていたデータと同じ状況をお願いした。
データではなく、彼女の本当の動きを、本物を見たい気持ちからだ。
データリンクで距離を見ながら離れる。
17、18、19、
反転して、正面にシャシャ2を捉える。
深く息を吸った。
瞬く間に距離は縮み、雲の間から反射光を視認する。
キラキラと反射させるのは、軽くロールを入れるその飛び方からなのか。
右に左に、誘うように揺らす。
直ぐに交差の手前でブレイクして旋回に入る。
機体状況を知らせる表示がG制限を警告する。
顔を向ける余裕はない。強く押し付けられる中、目線だけを動かす。
直接見れる角度ではない。
機体性能は同じなのだ。
しかし、旋回率も旋回角も負けている。
データリンクを頼りに限界まで曲げていたのに、シャシャ2の機体が視界に入った時、既にその機首はこちらを向いて、旋回径の内側に入っていた。
機首を下に、軸をずらして回避に入れる。
限界まで桿を引いて内側に逃げ込む。
しかし、逃がしてはくれなかった。
視界の中央で捉え続けていたのに、反応出来ないほど自然に機体が動く。
殆どコブラ機動と変わらないように見える程の捻りを加えた高迎角で、そのまま軸を合わせて機首を完全にこちらに向けたまま、内側に入り込む私の後ろに機体を押し出した。
反応するまもなく、真後ろに入られたが、私も切り返しを入れる。
しかし、その切り返しは無駄だとRWRが即座に反応し、パネルに撃墜判定が表示される。
キル判定はIIRでの撃墜だった。
分かっていた事だ。入り口に立てた自信を持ったところで、勝てる訳がない。
しかし、少しは変わると思っていた。
実際には、結果は変わらなかった。
最初の交差のタイミングで死ななかったのは、形だけでも相手になるように見逃されたからだ。
後ろに入られる時、Gunキルされなかったのはその後の私の反応を見る為だろう。
見惚れるような機動、通り抜ける機体の唸り、データには無い殺気。
これが私の求めていた先にあるのか?
本当に入り口に立てたのか?
考えれば考えるほど、分からなくなった。
あの感覚が、一体私の何処にあるのか。
5日が経った。
相変わらずデータには即死させられているが、変わった事がある。
本物のシーラの機動が頭から離れない事だ。
息を呑む間も許さないあの機動。
上面が白い機体に入れられた、ネオンパープルのラインの一つ一つまで鮮明に見えるあの機動。
惚れてしまった。と言えば少し語弊がある。
しかし、魅入られているという意味では同じだろう。
あの動き、あの自然さ、それに対する理解こそが私に足りない。
私は自ら時間を用意して、自機に関する全ての資料を見返した。
教本や図面、試験記録から性能評価まで様々に。
まるで新人のような気分だが、やっていることは同じなので当然か。
そして、いくつか経験則も交えて比較し、ある事を理解した。
シーラの機動が自然に見える理由だ。
彼女の飛び方は、どの瞬間を切り取っても機体の限界を超えていない事が分かった。
機体が壊れずに飛んでいるなら当たり前ではある。
ただ、壊れないことと、その中で無理をしているかは別になる。
彼女の飛び方は、その無理が限りなく存在しない。
どの瞬間を切り取って見ても、彼女の機動はその機動のその瞬間のその最適値に異常な程近い値になっているらしい。
これが同じ機体でありながら、単純な旋回でも差が生まれた理由だろう。
つまり、この値をその場で感じ、合わせられる事が最低条件になる。
そして、その値はその場凌ぎの反射で引く事はほぼ無いと言える。
だから彼女らは反射で飛ぶなと言うのだろう。
分かってしまえば、人間は何とかなる。
具体的に数値で知る必要はない。
何度も試して、経験則で大まかな位置を知ることで、合わせることも出来るだろう。
その時の感覚に従うだけで、他の部分も勝手に揃ってくるはずだ。
「貴様らよく聞け。今から丁度1時間前にサーガジス大陸西南端に位置する港湾都市、ニアホルカの制圧を目指して、沿岸地域へ強襲上陸が行われた。
部隊は正統サーガジス連邦からの抵抗を受けたものの、この都市を包囲。
待機していた後続部隊の支援を受けながら現在占領を行なっている」
スクリーンには、ニアホルカの衛星画像と、いくつかの部隊が交戦しているデータリンク状況が映し出されている。
一見すると押し負けている様に見えるが、立て籠もる敵の重火力を釣り出して、後方の部隊で処理している様だ。
「現地の指揮官は、3日の間にここを橋頭堡とし、南端を東進すると言っている。
これに合わせ、大陸西南沖300キロの地点で制海任務中のハージャ・イーリガ連邦共和国から派遣された航空母艦2隻が支援に当たる事を表明した。
総司令部は、二週間の間に主力部隊によってサーガジス大陸南西を制圧せよと言っている。
現状の作戦では、ここにいる者は残り1月以内に掌握した前線基地へ投入される。
準備を怠るな。話は以上だ」
大佐が降壇した後、指揮官がいくつかの部隊を呼び付けている。
彼らは先行して大陸北東に移動し、即応状態で待機になるそうだ。
思っていたよりも、時間は無いらしい。優秀な指揮官を褒めるべきか、憎むべきか。
シャシャ隊との飛行訓練は、数回が限度だろう。
その間に、隊を鍛えられる様に何としてもなる必要がある。
その上で隊を鍛えなくてはいけない。
私には、呑気に座っている暇は無いみたいだ。
「シャシャ2からシャシャ3 ふふっやっぱりリヴァー1の方がしっくりくるわね ケルセク聞こえますか?
開始まで残り2分です」
「2分了解」
スターリードからの慣れないデータリンクに苦戦してはいるが、2分あれば大丈夫だ。
敵はリヴァー隊の3機に加え、増援として他隊の3機が合流する。
リヴァー隊は既に捕捉済みで、他隊の位置は不明。
データリンクからの情報は行動計画と一致している。
「シャシャ1から全機 2のウォールを維持」
「2了解」
「3」
隊を横に広げて当たるつもりの様だ。
機体を大きく左に逸らし、4キロ離れる。
正面から当たるシャシャ1には、全ての初期圧が向く形になる。
それを押し除ける前提の配置が実力と自信の表れか。
「また相手する前に離脱機が出たりしないよね?」
「あれは私の運が悪かっただけです 毎回起きたら困りますよ」
「シーラ 今回は互いの機体に制限無しよ 気をつけなさい」
「シャシャ2了解」
やれる事はやってきた。限られた時間で出来る限りは熟した。
完璧からは程遠いが、確実にマシになったと胸を張って言える。
結局、シーラのデータには一度も勝てなかったが . . .
あいつらの指標になれる様、出来る限りを尽くした。そうだろう?
「スターリードからシャシャ隊 リヴァー隊との交戦を許可する」
「シャシャ1了解 交戦開始」
私の成果を見せてやろう。
その代わり、リヴァー隊の成果を見せてくれ。




