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※不備を見つけた際は誤字報告受付まで。
適当で良いよ、多分ね。
小隊長に任命されてから、数日が過ぎた。
私自身が、数日で小隊長らしくなった気は全くしない。
強いて言えば、増えた職務だけが昇進した実感だった。
今日は、他基地から異動して来る最後の一人が合流する予定となっている。
彼が到着次第、訓練飛行を行う事を今朝も確認した。
担当の整備班は既に合流済みで、各自機体のチェックを行うように指示してあるし、問題はない筈。
. . . だよな?
私も格納庫に行きたい所ではあるが、また大佐に呼び出され、今度は訓練飛行の内容を調整しなくてはいけなかった。
他の小隊との調整も兼ねているので、行かない訳にもいかず、昼食は返上された訳だ。
仕方ない。後でスナックでも買って食べよう。
私は今、大佐から解放された。
あの部屋は危険だった。主に、私の胃に対してだ。
なぜベテラン中のベテランのような隊長らの飛行案や意見を全て私に聞くんですか、大佐?
私の方が聞きたいんですけど?
そう言える訳もなく、実戦前に精神負荷を適度に与えつつ、帰って来れるような内容を提示しろなんて、無茶な話を長々とぶつけられ続けた私は、新米の小隊長であってアドバイザーじゃないんだけどな . . .
適当に自販機で、スナックとぶどうのジュースを買って胃に投じる。
私の胃は過労で死にそうだが、働いてもらわないと私が空腹で死ぬ。
何となく冷蔵庫の中のワインを思い出して、ぶどうジュースにしたのは何かの縁かもしれない。
カロリーだけは十分なスナックと、冷蔵庫の中から呪って来ているに違いないワインの亡霊を屠った後、格納庫に向かう。
外に出て、走っていくかと思った矢先、格納庫方向に用事のありそうな牽引車が居た。
「ちょっと待ってくれ!D-5の方に行くのか?そうなら乗せてくれ!」
「D-7だが、道中だから良いぞ!乗ってけ!代金はジュース1本奢りな!」
「分かった。どれでも良いのか?」
「おうよ!」
交渉成立。さっと戻って適当に買ってから、走って向かう。
後席に飛び乗ってから、代金を差し出す。
受け取ったドライバーが頷いてから、牽引車が発車した。
そこまで早くない景色の流れの中、轟音を立てて滑走路から飛び立つ機体たちを見送る。
時刻と機種的に、あれはジュト隊だろう。
右手の方、少し離れた位置に停めてあるトラックは、レールを伸ばして待機している。
模擬の射出訓練のようだ。
不意に反対方向から音がして振り返ると、盛大にひっくり返されたバレットUAVが転がっていた。
恐らく最近入った新人だろうか?
横で砲身の清掃を行っていたであろう作業員からどやされている。
ほぼ変わり映えしない基地だというのに、何となく騒がしいような気がするのは、控える任務に向けた緊張感から来るのだろう。
そういう今もほら、ヘリボーンの訓練を終えたパイロットらが、取っ組み合いになっている。
横に居る誰か、仲裁に入ってやれ。
牽引車が格納庫の前で停車した。
番号を確認する。
D-5。私の目的地だ。
「よーし、D-5だな?着いたぞ」
「あぁ、ありがとう」
「なーに、噂の少佐に奢らせたんだ、良いってもんよ!」
席から降りた私は、思わず聞き返さずには居られなかった。
噂の少佐ってなんだ?私は有名人か何かなのか?
「噂の少佐?」
「知らないのか?現代では珍しく撃墜されたことのある、最近昇進して少佐になった奴が居る。いろんな奴が言いまわってるぞ?あんたのことだろ?」
言うまでもなく、この基地に撃墜されたことがある最近少佐になった人物は私しか居ない。
その噂は間違いなく、私の事だろう。
はぁ~。まったく、どいつもこいつも飽きない事だ。
「私のことで違いない。聞く限りでは」
「その感じだと、気にしてるな?まぁ、少佐さんよ。気にするな!俺は戦闘機乗りじゃねーから撃墜云々は関係ないがな、噂を聞く限りじゃ、憧れの的みたいなもんよ。
誰も蔑んでそう呼んでんじゃねぇ。それだけは確かさ」
頑張れよ!
そう言って牽引車を走らせ、去っていく。
私はそれを見送りながら、ここ数日は増えた職務に追われて周りに気が向いていなかったなと思い返す。
小隊長として、もっと周りを見る必要があるな。そう心に留めた。
格納庫に入ると、中はかなり騒がしかった。工具や機材の音なら普通のことなのだが、どうやら何か揉めているらしい。
外側に居た整備班の一人が、気が付いて声をかけて来る。
「少佐、機体の整備は終わりました。確認を」
「分かった。それは良いとして、この騒ぎは?」
「それは . . . 」
何やらとても言い出し難いと言った様子で、彼は思案してしまったので、直接聞くことにした。
意図的に足音を立てて歩きながら、咳払いをする。
「これは何の騒ぎだ?整備は終わったのか?報告は来ていないが」
「少佐!?えーっと、整備の方は終わっています。報告は、格納庫に来るという事でしたので、その時で良いかと向かわせていませんでした。勝手な判断、申し訳ありません。騒ぎは . . . 。騒ぎ、という程の事ではありません!」
騒ぎの中心に居た彼女、整備班長が答える。
しかし、こいつら . . .
全員して騒ぎの内容は隠す気なのか?猶更、何を騒ぐ必要があったというのか。
「報告の件は良い。機体の確認は今から行う。準備してくれ」
「了解しました」
何となくさっきのドライバーの顔が脳裏を過る。
鎌をかけてみるか。
「あぁ、それと撃墜 . . . 」
撃墜と響いた瞬間、空気が凍るとでも言うべき雰囲気を感じる。
そして何人かが目を逸らした。どうやら当たりらしい。
はぁ~。まったく、どいつもこいつも . . .
「それと、撃墜マークの件だが、ペイントは終わってるか?」
「え?はい、えぇ。出来てますよ。かなり目立ちますが、許可は出ました」
「そうか」
許可が出ない事を願っていたが、無理だったか。
そもそも、大佐から決めるように言われていたし、絶対に通される。そんな気は薄々していた。
さて、どれほど目立つか見てやろう。
自機を見て回る。
塗装は直されてある為、見た目は新品そのものと言える輝きだ。
そして、一番最後に確認したかったが、これは確かに目立つ。
このマーク、一番最初に目に入るじゃないか!
背中側のインテークに描かれた、逆さの髑髏。その脳天に位置する場所に弾痕が一つ。
機首に描かれている国籍マークよりも、気持ち目立っている。
もっと小さく用意して良いだろうに。
あの大佐、絶対悪気ある。私はそう確信した。
それはさておき、チェックリストに従って順に確認して回る。
エンジンノズルから、左回り。一周回って最後にもう一度、複雑な3軸の推力偏向部分を確認し、チェックを入れる。
いつの間にか、隊員が1人、機体を確認しに来ていた。
彼は若くして小隊長の経験もあるし、私より小隊長向きな経歴の持ち主だ。
私の機体の担当者を労ってから、隊員が確認を終えるのを待つ。
待っている間に、呼び出し端末が鳴った。
爆音の呼び出しに応じると、最後の隊員が到着したとのことだった。
直ぐに隊員全員をA-LR-15に集合させるよう伝え、端末を切る。
確認をしていた隊員も、私の話が聞こえたらしい。
A-LR-15ですね?と、私に確認してから格納庫を出て行った。
しかし、私は直ぐに向かわない。
秘密裏にやらなくてはいけない事があるからだ。
整備班を呼びつけ、隊員を機体から遠ざけている今の内に、その話を始めたのだった。




