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金欠なのでやむを得ず

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 警備兵に賊を引き渡すと、朝になったら詰所へ来るよう告げられた。当然ながら、当事者である二人には事情聴取が行われる。


 日が昇るまで時間はあったが、結局ユリィは一睡もできなかった。充分な睡眠が取れていないまま、二人は詰所へと向かう事になる。


 事情聴取は個別に行われるため、二人は別々の部屋へと通された。


「昨晩は災難だったな」


 担当の警備兵が部屋に入ってくる。


「うん…」


 疲労と眠気が一気に押し寄せ、ユリィは気怠そうに答えた。


「では、現場で何があったのか、順を追って話してもらおう」


 ユリィは質問に答えながら、昨夜の出来事を説明する。


「ほう…。賊達とは素手で戦ったのか。魔導士なのに、魔法を使わなかったのか?」


「まっ…、そうだね」


 警備兵は書類に視線を落とし、冒険者カードの写しを確認する。


「なるほど!下手に魔法を放って建物を壊さないように配慮したのか。それはいい心がけだが無理は良くない。今回はたまたまうまく行ったと思いなさい」


 事情を知らないせいで、今回もまた勘違いをされる。訂正するのも面倒で、ユリィは黙って頷いた。


「それでだな。君が倒した賊達なんだが…」


 その言葉と同時に、警備兵の表情が引き締まる。


「死んだ」


「…え?」


 一瞬、意味が理解できなかった。


「どっ、どいつが?」


「全員だ」


 ユリィは耳を疑った。自分が倒した賊、その全員が死亡しているという。


「……」


 言葉が出ない。


−加減はしたのに…−


 血の気が引く感覚が襲う。状況的には正当防衛が成立するだろう。だが、ユリィには相手の命を奪うつもりなど、毛頭なかった。


−加護を付与してもらったせいか?−


 身体能力が増強されたせいで、致命傷を与えてしまったのか。圧倒的な戦力差があっても覆させられる戦法。それが、仇になった。


 思い返せば、加護を受けて戦う感覚にはどこか高揚感があった。その感覚に身を委ねた結果が、この事態を招いてしまったのか。


「落ち着きたまえ」


 錯乱しかけたユリィの肩を、警備兵が軽く叩いた。


「俺、人を殺してしまったんだろ…」


 震える声でそう漏らす。


「いや、君が賊達を死に至らしめたのではない」


「でもアヤンは悪くな…、え?」


 予想外の言葉に、ユリィは間の抜けた声を上げた。


「死んだ賊達の身体には、全員紋様が刻まれていた」


 警備兵は淡々と告げる。


「即死魔法の刻印だ。施した術者によって殺されたと見ている。もっとも、詳しい者に確認してもらわないと断定はできないがな」


 少なくとも、死因がユリィの攻撃ではないことは分かった。だが、胸を撫で下ろすより先に、予想外の展開に思考が追いついていなかった。


「どうして、誘拐目的で忍び込んだ賊にそんなものが…」


「目下捜査中だ」


 警備兵も同じ疑問を抱いているようだった。


 呪殺については学院の座学で学んだことがある。対象が術者から離れていても発動できる上級魔法。


 だが、これは裏を返せばこうなる。賊達は、上級魔法を扱える術者となんらかの接点がある。もし賊の構成員にその使い手が所属しているとしたら、相当な規模の組織であることになる。


「ところで、あいつらって大っきい組織に所属しているの?」


「そんな事はない。この辺を荒らしまわっている、盗賊団の一つだ」


 その答えで、ますます辻褄が合わなくなった。大規模な組織であれば口封じのために呪殺を施す理由も考えられる。だが、ただの盗賊団にそんな真似ができるとは思えない。


−ゆきずりの誘拐だと思っていたけど…。背後に何かがいるのか!?−


 不安が、静かに胸の奥に沈んでいった。



 ユリィが事情聴取から解放された頃、アヤンも終わっていた。


「やっと終わったね」


「ええ…、大変でした」


「色々聞かれたよ」


「事細かに説明させられましたね。いつ頃、建物のどの位置のどの方角で、何故その行動をしたのか」


 アヤンはため息を吐く。

「魔導士のユリィさんに補助魔法をかけた理由が、『素手で戦うため』だと説明したら、話がややこしくなってしまって…」


「やっぱり、理解してもらえないんだ」


 二人が詰め所を出る頃には、すでに日が暮れていた。


「もうこんな時間か…。今日の移動は、ナシだな」


 体力的にも時間的にも、その判断が妥当だ。だが、一日足止めを食らうということは、一日分の旅費が消えることになる。限られた資金で旅を続けている二人にとっては、死活問題になってしまう。


 しばらく歩き、宿の前へと戻った二人は唖然となった。入り口は閉ざされ、扉には貼り紙がされている。


「臨時休業…」


 事件の現場となり、建物も破損している。休業は当然だった。


「仕方ない。ここの次に安い宿を探そう」



 二人は遅れを取り戻そうと先を急いだ。しかし、立ち寄った地方都市のサイカで、再び予定を狂わす事態に遭遇する。近道として通り抜ける予定だったコイマ山が、現在通行制限がされているという告知が出ていた。今この山を越えるには、山林を治める貴族から許可を得なければならない。


「そんな…」


 肩を落とすユリィ。


「落ち込まないでください。ちょっと飲み物を買ってきますね」


 近くの露店へ買い出しに行ったアヤンは、そこで理由を聞いた。


 この地域は隣国との国境に面している。そのため、近辺の山々が間者に利用されている危険性を指摘されていた。もし山道を利用した間者によって有事へのきっかけを作れれば、領主は責任を問われることになる。そうした事態を防ぐため、通行制限が敷かれたのだという。


 当然ながら、一介の冒険者であるユリィに通行許可が下りる可能性はない。迂回しか方法はなかったが、それでは旅費が途中で尽きてしまう。


 ユリィは落胆した。だが、落ち込んでいても状況は変わらない。旅費が足りないのなら、取れる手段は一つしかない。


 ユリィは、申し訳なさそうにアヤンへと声をかけた。


「ねえアヤン、今のままだと旅費が足りなくなる。そこで何だけど…」


 王都と比べれば小規模な街ではあるが、サイカにはギルドの出張所がある。冒険者の情報は王都の本部と共有されているため、ここでもクエストの受注が可能だった。


「冒険者の資格があるのなら、クエストで旅費を稼げますね」


「悪いね、手間かけさせて」


「そんなこと思ってません!では、クエストを探しにギルドへ行きましょう」


 気を利かせているだけかもしれないが、アヤンは不満を言うことはなかった。二人はすぐにギルドへと向かい、掲示板に張り出された依頼書を見て回った。


「とりあえず、手頃なモンスター討伐を探そう」


「それが良いですね」


 クエストの報酬は難易度に比例する。難易度が上がれば危険度だけでなく、所要時間や必要経費も増える。報酬額に目がくらみ、身の丈に合わない依頼を選べば、命に関わるばかりか赤字になる危険性すらある。ここは欲張らず、地道に稼ぐ方が結果的に近道だ。


 ふと、掲示板の一角に貼られた『魔獣使いの捕縛』が目に留まった。ユリィは提示された報酬額を見て、目を疑った。


−これだけあれば、王都から馬車で十往復できる…−


 だが、これは初級冒険者が関われるようなクエストではない。ユリィは視線を逸らし、改めて手頃なクエストを探した。


「これなら、いけそうだ」


 ユリィが選んだのは、街周辺の森に生息する魔獣の討伐依頼。提示された数を討伐すれば、五日分相当の旅費を稼ぐことができる。


 二人はすぐに受付へと向かい、このクエストを受注した。



「うりゃぁ!!!」


 ユリィの蹴りを受けた魔獣は、一撃で絶命した。動かなくなったのを確認すると、ユリィは討伐を証明する魔獣の牙をもぎ取る。これを規定数ギルドに提出すれば、報酬がもらえる仕組みだ。


「森の奥に行けば、まだいそうだな」


「数が多くなったら、囲まれる心配はありませんか?」


「そこまで深入りはしないよ」


 そう言って先へ進むユリィの背を、アヤンが追った。


 この近辺に生息する魔獣は、初級冒険者でも充分対処できるものばかりだ。今回の討伐対象もその範囲に収まっている。そのため、加護を使う必要はなかった。やがて規定数を討伐し終え、二人は街へ戻ることにした。


「今日は、私の出番がありませんでしたね」


 アヤンの声が申し訳なさそうに聞こえる。


「き…気にしなくていいよ。そもそも俺たちのランクじゃ、この程度のクエストが妥当だし」


 それは紛れもない事実だった。以前のように、他大陸から持ち込まれた魔獣でも現れない限り、加護を必要とする場面はない。


 討伐報告のため街へ引き返す二人は、けもの道を抜け、やがて森を切り開いて作られた広い道へ辿と出た。街へはここを道なりに進めば良い。


「もうすぐ街だな」


 到着したら一息つこう。などと考えた、その時だった。


 叫び声が耳に入った。ほぼ同時に野獣の咆哮が森に響く。


「魔獣に襲われているのか?」


「助けに行きましょう」


「下手に関わったら、こっちまで危険な目に遭うかもしれない。それでも行くの?」


 見ず知らずの人間を助けるために、自身の命を危険に晒す義理はない。しかし、その理屈で見て見ぬふりをするような性格では、アヤンはなかった。


「ユリィさんがいれば、きっと大丈夫です」


 その言葉に、ユリィは小さく笑った。アヤンの力を、ユリィ自身も信頼している。二人でなら、きっと何とかなる。


「…急ごう」


 二人は顔を合わせ、声のした方向へと駆け出した。


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