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感謝される落ちこぼれ

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 魔獣の群れの足元には、無数の死体が転がっていた。

 彼らは隊商に雇われた護衛。

 突如現れた魔獣から襲撃を受け、次々と血祭りにあげられた。


「くそぉ…」


 生き残った護衛の一人が、剣を握る手を震わせながらぼやいた。

 普段であれば、馬車について行くだけの楽な仕事。

 だが今日ばかりは、そうではなかった。


 切先の向こうには魔獣。

 血のように紅い目を向け、荒い鼻息を立てている。


 その眼光が一層強まる。

 前足が地面に深く食い込んだ。


「くっ…、来る!」


 護衛は咄嗟に身構える。

 直後、魔獣は飛びかかり、馬乗りになった。


「ひいっ!」


 血飛沫が上がる。

 仲間は目を逸らす。

 そして、横目で喰い散らかされる様を見届けた。


 見捨てたのには理由がある。

 近くで襲われた仲間を助けに入った奴がいた。

 だがそのまま道連れになった。


 だから誰も助けようとしない。


 襲撃を受けたこの隊商は、大商会の輸送部門。

 出立の際は野盗などに備え、護衛を随行させるようにしている。


 しかし今、その一団が全滅に瀕している。

 包囲され、逃げ出ようとした者はことごとく狩られた。

 非戦闘員である隊員までも犠牲になっている。


 この隊を率いる隊長は、馬車の陰に身を潜め健在だった。


「ううっ、また一人やられた…」


 過去に危険な目に遭ったことは、何度もあった。

 しかし、今日ほど死に瀕したことはない。


 襲撃直後は、貨物の心配をする余裕があった。

 今はもうそれどころではない。


 発見されぬよう身を縮め、嵐が過ぎるのを待つ。


 そこへ、息を切らした護衛が転がり込んできた。


「おい、もっと詰めろ!」


 護衛は完全に戦意を失っている。

 避難場所を求め、場所を譲るよう迫る。


「バカ!ここに来るな!!」


「他に移動する時間なんてない!」


「お前、護衛だろ!隠れてないで戦え!!」


「よく見ろ!どうこうできる相手じゃない!!」


「分かっている!でも、こっちは金を払っているんだぞ!!」


 声量を抑えながら、必死に言い争う二人。


 そんな中、湿った息遣いが耳に届く。

 二人は一瞬固まる。


 身の毛がよだつその声。

 咽せるような獣臭が鼻腔を刺激する。


「……」


 恐る恐る、二人がその方向へと視線を向ける。


 そこには、荷馬車の陰を覗き込む魔獣の顔があった。



「情報屋に聞いた通りだな。随分と大掛かりな隊商だ」


「こりゃ情報料を差し引いても、結構な稼ぎになるぞ」


「これだけありゃ、やられた分を補充できるな」


 道を塞ぐ様に立つ三人組の野盗が、惨劇を遠巻きに眺めていた。

 同時に荷台の数を数える。

 そこから得られる収益を想像すると、笑いが込み上げてきた。


「こっちだ、アヤン!早く!!」


「はい!急いでいます!!」


 背後から聞こえた声に、三人が振り返える。


「誰か来たのか…って、まさか!」


「お前は!」


「何でここに…」


 声の主には見覚えがあった。三人は青ざめる。


 一方、野盗の姿を目にしたユリィも、思わず足を止める。


「あれ?あんたらって確か…」


 少し遅れて、息を切らしたアヤンが追いついた。


「はあ…、やっと追いつきました」


 呼吸を整え終えたアヤンが、目の前にいる三人組の存在に気づく。


「…あら?この方たちって…」


 互いに、見覚えがあることを認識し合う。


「魔獣使いだな」


「ですね」


 騒ぎを聞いて駆けつけたユリィとアヤン。

 向かった先で、返り討ちにした三人組と遭遇。

 その向こうでは、隊商を襲う魔獣の姿が見える。


「つまり、そういうことか…」


 ユリィは状況を理解した。


 一方、三人は慌てふためいている。


「何であの魔導士がここにいる!!」


 腰を抜かし座り込む。


「ユリィさん。魔獣はこの人たちの言うことを聞くはずですよね?」


「そうだな」


「やめさせるよう、頼みましょう」


「ああ」


 交渉に入ろうと向き合う。

 そのユリィは指を鳴らしていた。



 アヤンの加護を受けたユリィは、十匹以上いた魔獣を難なく撃退した。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


 一命を取り留めた隊商たちが、次々と礼を述べる。


「お礼ならアヤンに言ってくれ。助けようって言い出したのは、この娘だし」


 その言葉に従い、一団が深々と頭を下げる。


「そっ、そんな…お気遣いなく。皆さんが無事で何よりです」


 気恥ずかしくなったアヤンは、慌てて手を振った。


 そのやり取りの最中、事後処理を終えた生き残りの護衛が戻って来た。


「あいつら拘束しやしたぜ、隊長さん」


「ああ…、ご苦労だった」


 ぶっきらぼうな口調。

 一方、隊長は目を合わせられずにいる。

 二人の間に、重い空気が漂っている。


「さっきは悪かった。追い返そうとして…」


「いえ。こっちこそ、雇われているのに任務を放棄しようとした。申し訳ございません」


 護衛の声音に謝意は感じられない。


 二人とも、死を覚悟していた。

 その直後、魔獣の動きが止まった。

 ユリィが魔獣使いを締め上げ、命令を撤回させていた。


 一旦は降伏した。

 しかし、隙を突いてユリィを襲うよう指示を下す。

 結果、魔獣を全て失った。


「でも、あんたには感謝している」


 護衛がそう告げると、一団が揃って頭を下げた。


「ところでだけど、一つ聞いてもいいか?」


「ん?」


「あんたって、武闘家だよな…。なんで魔導士の格好をしているんだ?」


 それを皮切りに、隊長も続いた。


「それは私も思っていた」


 周囲からも同意の声が上がる。


「最初は魔導士かと思ったぞ」


「そうだ!この格好の意味が分からない」


「動きにくくないのか?」


 皆が同じ違和感を抱いていた。

 ユリィの戦い方と衣装が合っていないと。


「ええっと…、俺は武道家じゃなくて魔導士だ」


「……?」


「魔導学院だってちゃんと卒業している」


 一同の頭上に浮かんだ疑問符。

 それは消える気配がない。

 どうやら今回も、理解してもらえなかった。



 ユリィとアヤンは、隊商の馬車で街まで送り届けられた。

 だがここで解散とはならない。

 野盗を引き渡すため、警備兵の詰め所へ同行しなくてはならない。


 隊長が被害報告に向かう。

 しばらくすると、警備兵が現れ下手人を連行した。


 警備兵から捜査協力を要請される。

 助けに入ったユリィとアヤンもその対象。


 一行は詰め所内に通され、やがて二人の番が回ってきた。


「魔獣に襲撃されていた隊商を、君らが救った…と。間違いないね?」


 担当の警備兵は報告書に目を落としながら問いかけた。


「はい、間違いありません」


「正確には俺が戦って、アヤンに補助をしてもらった」


「なるほど、お嬢さんは術士だったね」


 警備兵は感心しながら頷く。


「魔獣は人間とは比べ物にならない力を持つ。防御魔法を施したのは、懸命だ」


「えっ?あの…」


 一般的には正しい認識だが、実際はそうではない。

 アヤンが訂正しようと口を開いたが、警備兵は構わず話を続けた。


「報告によると、倒した魔獣は他大陸から持ち込まれた高ランク。二人とも学院を卒業したばかりらしいが、どんな魔法を使ったのだ?」


「魔法を使ったのはアヤンだけなんだけど…」


「私の意図を分かっていないね。魔獣の死体には爆発で吹き飛ばされた跡があると報告がある。魔導士の君が使った魔法の種類が何か、それを聞いている」


「アヤンの補助のおかげで攻撃したら爆発が起きて…」


「つまり、補助魔法で君の魔力を強化したのか」


「いや、そうじゃなくて…」


 二人は説明に苦労した。

 アヤンの魔法は精霊術であることは理解された。

 だが、魔導士が武術で戦ったという展開が、簡単には通じてくれない。


「それから君達が捕まえた野盗だが…」


 警備兵は別の書類を取り出した。


「ギルドが捕縛クエストを発注していた」


「そうだったの?そういや、高額報酬のは見たな。…他にもあった?」


「いえ、それだけだったと思います」


「これだけだったよね…」


 二人の意見は一致した。

 確かに記憶がない。


「あのぉ。もしかしたらですけど…」


「うん…、そのもしかして」


 二人はようやく気づいた。

 成り行きで捕まえた野盗が、その高額報酬のクエストだった。


「君たち…。本当に気づかなかったのか」


 二人のやりとりを見て警備兵が呆れた。


「受注せずに倒したってことは、報酬はなし…」


 ユリィは頭を抱えた。

 初級冒険者である自分には無縁だと決めつけ、気にも留めていなかった。


 見返りを求めて助けたわけではない。

 だが、申請していたら高額な報酬を手に入った。

 そう考えると、悔しさが込み上げる。


「まあ、落ち着きたまえ」


 落胆するユリィの肩を、警備兵が叩き伝えた。


「証明書を発行しておく。ギルドに提出すれば、事後報告でも報酬は支払ってもらえる」

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