宿代をケチる落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
「バカな!?」
爆炎と共に魔獣の肉片が飛び散る。
その光景に、野盗達は言葉を失った。
「あの魔導士何者だ!?」
野盗の周囲には、巨大な風穴を開けられた魔獣の屍が転がる。
その向こう側には、紅い光を放つユリィの姿がある。
アヤンからのパーティ申請。
ユリィはそれを承認した。
アヤンのパーティメンバーに。
予想外の展開だった。
しかも、今回は詐欺ではない。
だが、同時に複雑な気分になってもいた。
(女の子から誘うなんて、不用心だ)
確かに、誘拐犯から身を挺して救った。
だが、それだけで行動を共にするのは軽率過ぎる。
アヤンは年頃の娘。
簡単に男を信用するのは危険。
ユリィはそんな自問を振り払えずにいた。
「どうかしましたか?」
アヤンが不思議そうな表情で覗き込む。
ユリィの内心など知るよしもなさそうだった。
王都を発った二人は、順調に街道を進んでいた。
やがて、道が二手に分かれている地点に差し掛かかる。
ユリィは出発前に用意していた道順を記したメモを取り出す。
それを確認した。
「この分かれ道だな。向かうのはこっちだ」
ユリィが選んだのは、道幅の狭い方だった。
その先には鬱蒼とした山林が広がっている。
「人通りが少なくて、なんだか寂しそうですね」
「そうだけど、こっちの方が早く着く」
二人が進む道は、山林を横切るように敷設されている。
地形の関係で道幅は狭く、高低差も激しい。
足場も決して良いとは言えない。
一方、街道は馬車がすれ違えるほど広い。
しかし平坦な地形に造られたため、山林を大きく迂回する構造になっている。
結果として、山林を通り抜けた方が移動時間は短くい。
旅費も節約できる。
ユリィはその利点を取った。
だが、こちらには地形以外の欠点もある。
それは魔獣や山賊などに遭遇する危険性。
街道より遥かに高い。
しかし、それを承知した上でこちらを選ぶ人は多い。
「遭ったらその時に考えればいい、なんて思ってはいたけれど…」
二人は三人組の野盗と出くわした。
この国では見慣れない服装。
頭にはターバン、胴体にはクルタと呼ばれる布を巻いている。
男達は武器をチラつかせている。
間違いなく物盗りだ。
「ユリィさん、あそこ…。森の奥に何かいませんか?」
男達の背後から、何かが迫っている。
「…魔獣だ」
荒々しい鼻息が、こちらまで届いている。
口からは巨大な牙が突き出し、幹よりも太い腕の先には小刀のような太い爪が生えている。
「それにしても、デカすぎないか?」
ユリィの言う通り。
熊よりも一回り以上大きく、野盗達を見下ろすように立っていた。
学院の戦闘実習で戦ったことがある。
しかしその時の魔獣は、オオカミ程度の大きさ。
明らかに規格外だ。
「学院で王国内に生息する魔獣について学びましたが、あのようなのはいなかったと思います」
「俺も知らない。あんなのがいたら、忘れるはずがない。ところで…」
ユリィはある違和感に気づく。
「アイツら気づいていないのか?」
「平然としていますね…、あっ!」
アヤンの目が大きく開かれる。
「ちょっと、奥を見てください!!」
野盗達の背後。
新たな魔獣が姿を現した。
その数は十体以上。
全てが、王国内にいないはずの種類だ。
「あんたらぁ〜〜!」
ユリィは叫び手を振る。
「後ろぉ〜〜!!」
魔獣が迫っていることを警告する。
しかし、三人とも反応することはない。
「あの人達…、本当に気づいていないのですか?」
魔獣らが動きを止める。
野盗と横並び。
整列しているようにも思える。
三人が、それに気づいていないはずがない。
それでも臆する気配が全くない。
(なんかおかしい…)
魔獣の一体が野盗へと顔をすり寄せる。
野盗は家畜を宥めるように、その鼻を撫でた。
「懐いている!?」
「あの人達…。もしかしたら、魔獣使いではないでしょうか」
「魔獣使い?」
聞き覚えはあった。
魔獣を操り戦わせる。
その時、野盗がとある仕草を見せる。
魔獣らが一斉に頭を上げる。
そこから鋭い視線が放たれた。
(あいつらが指示したのか!?)
その答え合わせはすぐに始まった。
「あの女を連れて帰ればいいんだな」
「そうだ。邪魔な魔導士の男は殺せ」
「女を巻き込まないように気をつけろ」
そのやり取り。
ユリィは聞き逃さなかった。
「連れて帰る…。あいつらも、アヤン攫おうとしているのか!?」
物盗りだけでなく、人攫いでもあった。
またしてもアヤンが狙われている。
再び降りかかる災難。
恵まれた容姿を持って生まれた者の宿命なのか。
(させるか!)
ユリィは全力で阻止しようと意気込む。
直後、全身の骨を震わせるような唸り声が鼓膜を揺らす。
魔獣たちは涎を垂らしながら、前脚で地面をかいている。
「ユリィさん…。あれほどの魔獣だと上級冒険に相当する実力が必要です」
アヤンは、不安げな表情が浮かんでいる。
「確かに、それくらいじゃないと対処できないな」
王国内には存在しない魔獣。
恐らく、魔獣使いが他大陸から持ち込んだのだろう。
獰猛な風貌に圧倒的な筋肉量。
あの攻撃を受ければ、並の人間なら一撃で即死だ。
「あんなのに遭遇したら、逃げる以外助にかる道はない」
ユリィは淡々と答えた。
「それは、リッチの時にも思った。でも、アヤンのおかげで何とかできた」
「……」
「今回も、アヤンの加護があれば勝てる!」
それは気休めではない。
ユリィは確信を宿した目で、アヤンを見つめていた。
「任せてください!」
その思いは、確かに伝わった。
気を取り直したアヤンは一歩前に出て、詠唱の構えを取る。
「あの魔導士、何をしているんだ!?」
爆炎を上げながら倒される魔獣の姿に、野盗達は唖然となった。
「魔獣が、一撃で粉砕されている!」
「しかも素手で戦っているぞ!あいつ、魔導士だろ!?」
「それが一番意味わかんねえ!!」
魔導士の装いをしたユリィが、武術で魔獣を駆逐し。
この光景は、三人の理解を苦しめた。
「ユリィさん!くれぐれも無理しないでくださいね!!」
「ああ!アヤンこそ、俺の後から離れるな!!」
加護を得ているおかげで、今回もユリィが優勢だ。
だがユリィは、意識的にアヤンとの距離を一定に保っていた。
野盗達の一番の狙いはアヤン。
アヤンは戦闘力が皆無。
守るためには、むやみに前へは出られない。
ユリィは慎重に動いた。
その一方、野盗達は完全に冷静さを失っていた。
「俺たちの魔獣がぁ!!」
「状況的には、自分の身の心配だろ!」
「お前ら!落ち着け!!」
「じゃあ、なんか方法があるのか!?」
「…一応ある。最終手段だ」
「最終手段って…。あれだけの魔獣を買い集めるのに、どれだけ金がかかったと思っている!?」
「今はそんなこと言っている場合か!!」
一瞬、言い争いになる。
話はすぐについた。
男の一人が、とある指示を送る。
「グオオォォォ!!!」
一斉に雄叫びが上がる。
直後、ユリィへと襲いかかる。
「ユリィさん!!」
人間を遥かに凌駕する脚力。
魔獣らは、瞬きする間もなくユリィの眼前にまで迫る。
「てやぁ!!」
次々と爆音が山林に響き渡る。
少し遅れて、ドサドサと肉片が地面に落ちる音がした。
魔獣が束になろうと、加護を得たユリィには脅威にならない。
アヤンの心配は完全に杞憂だった。
「さすがはユリィさん。うわっ、煙たい…」
倒された魔獣の周囲から、攻撃に伴い発生した煙が立ち込める。
濃い煙が、二人の視界を覆い隠した。
「ゲホゲホ。くそ、煙であいつらが見えない」
下手に動けず、しばらくの間こう着状態が続く。
やがて煙が晴れ始める。
ユリィは目を凝らし、三人の姿を探した。
「…あれ?あいつら、どこに行った」
近くに潜んでいる気配はない。
だが、かすかに物音が聞こえる。
山林を駆け抜けていく足音のようだ。
「逃げたようですね」
姿が見当たらない。
それが答えだろう。
これが奴らの最終手段。
一斉に攻撃を命じたのは、このための時間稼ぎだった。
「逃げてくれた方が、正直助かる」
先を急いでいる。
手を引いてくれたのは好都合だ。
「今ので随分と足止めされましたか…」
「あっ…、言われてみれば」
「日が暮れる前に、森を出られますか?」
「いや、急がないと間に合わない!」
この山道に、宿泊できる施設はない。
日が暮れると、山中で野宿することになる。
それだけは避けたい。
二人は顔を見合わせ、早足に山道を進んで行った。
その後は問題が起きることもなく、無事に森を抜ける。
夕刻には宿場町に辿り着いた。
野宿は絶対にしない。
これはアヤンへの配慮だ。
そうならないよう、綿密に行程を組んだ。
宿を探すため町の大通りを歩いた。
王都と比べると、遥かに規模は小さい。
それでも旅に必要な物なら、充分揃えられそうだ。
宿場町だけもあって宿の数も多い。
手持ちの少ない二人は贅沢ができない。
その中にある、最も安い宿を探すことにした。
「この宿が、一番安いようですね」
アヤンが見つけた宿。
看板に謳い文句にして書かれていた。
建物が貧相過ぎる。
そこからは真実味がある。
「大丈夫か…?」
しかし選り好みできる余裕はない。
「ここにしましょ」
気を遣ったのか、アヤンは賛同してくれた。
「じゃあ、入るよ」
ユリィが扉に手を掛ける。
なかなか開かない。
立て付けが悪いのか。
「開きそうですか?」
「うん、あとちょっとで…」
力をこめると、ようやく開く。
「お待たせ」
「ご苦労さまでした…」
二人が宿へと入る。
内装もまた、外観に負けず質素を極めていた。
営業中と思えないほど薄暗い空間。
入口右手に受付、中央に客室へ続く階段、左手には食堂の表示がある。
受付に向かうと、カウンターの向こうに小汚い男。
主人のようだ。
「何だ、客か」
そう言った男は、気だるそうに肘を付いている。
接客業とは思えない態度。
「すみません。宿泊料を聞きたいのですが」
「ここに書いてあるだろ」
不機嫌そうに指を差す。
その先には、料金表が掲げられていた。
目の前にある物に気づかずに尋ねる客が多いのだろうか。
理由はどうであれ、ここまで露骨な態度だと、逆に感心する。
料金表に目をやった。
確かに、最安値という謳い文句に偽りはないようだ。
「じゃあ、二部屋用意して」
「料金は先払いだ。出しな」
ぶっきらぼうに手を突き出す。
気分が悪い。
宿代を渡す。
立ち上がり、棚から鍵を取り出す。
投げ出すようにカウンターへ置いた。
(このジジイ…、手渡しぐらいしろよ)
その間は無言。
その後は目を合わそうともしない。
安いからとはいえ、この態度の悪さは度を過ぎている。
怒鳴りつけてやりたい。
その気持ちを必死に抑え、鍵についた札で部屋番号を確認した。
「どっちも二階。両隣だ」
一刻も早くここを離れたい。
足早にアヤンを二階へと促した。
階段も廊下も、状態はかなり悪い。
歩く度に軋み、床が抜け流のではないかと不安になる。
通り過ぎた部屋の中からは、咳き込む声が聞こえた。
壁は薄い木板一枚だけなのか。
防音性は期待できそうにない。
(ここまで酷いとは…)
ユリィはそっとアヤンの方へ目をやる。
罪悪感が湧いた。
若い女性にこの宿は酷だ。
懐事情は厳しい。
だとしても、多少はまともな宿を選ぶべきだった。
「なあアヤン、明日からの泊まる宿は…」
「私は、気にしていませんよ」
アヤンに無理をしている様子はない。
たとえそれが本心であっても、受け入れられない。
そんな葛藤を抱えたまま、二人は部屋の前に辿り着いた。
「この部屋のようですね」
アヤンの持つ鍵札と扉の番号は一致している。
「夕食が出るって。荷物置いたら、食堂に行こうよ」
「はい!朝から歩き通しでしたから、楽しみです」
そう約束を交わし、二人はそれぞれの部屋へと入って行った。
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