精霊の加護
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
轟音が響き渡り、遅れて爆風が大通りを薙いだ。巻き上げられた白いモヤが視界を覆い、周囲にいた野次馬達はそれを吸い込み、咳き込みながら避難する。
やがてモヤが薄れていく。爆心地には、人影があった。
−無事…なのか?−
リッチの放った魔法は、炎系の中でも上位に位置するものだ。直撃していれば業火に包まれ、骨ごと焼き尽くされていたはず。それなのに、姿は残り外傷もない。つまり、生きている。
「ユリィさん!!」
声のした方を見ると、物陰からアヤンが顔を覗かせていた。咄嗟に隠れたおかげで、無事だったようだ。
「さっきの光…、アヤンの補助魔法!?」
術士が扱う補助魔法には、魔法耐性を高めるものがある。効力は術者の魔力に比例し、強ければ魔法そのものを無効化することも可能だ。しかし、先ほど起きた現象、それを考えれば明らかに違う。
「氷属性を、付与しました!」
−こおり…属性を、付与?−
すぐには理解できず、まずは状況を整理した。アヤンは属性の付与をした。それは氷…、つまり炎の反属性。焼けるように熱いモヤは水蒸気。氷が炎を中和した結果、発生したものだ。
「儂の魔法を、打ち消しただと!?」
リッチの声に、明らかな同様が滲んでいた。すでに仕留めたと思っていた相手が、目の前に立っている。その事実が、想定外だった。
「ならば、これはどうだ!?」
リッチが詠唱を始めると、周囲の空気が一変する。掲げる手が黄色く輝き、稲光を帯びている。
「この現象は…、雷魔法か!」
ユリィは息を呑んだ。雷系魔法は発動から着弾までが極端に速い。視認してから避けるなど、常人の脚力ではほぼ不可能だ。その瞬間、ユリィの全身を今度は淡い緑色の光が包み込んだ。
「次はなんだ!?」
「それより、早く逃げてください!」
アヤンの指示に従う。直後、リッチが魔法を解き放った。本来なら避けられるはずのない一撃。しかし、ユリィの身体は、軽々と雷撃の軌道を外れていた。
「体が…軽い。アヤン、これは?」
「風の加護です!」
風系の付与魔法・俊敏性を飛躍的に高めるその効果で、全身が羽のように軽く感じられた。だからこそ、あの雷を避けられたのだ。
「またしても…なぜじゃ!」
リッチは目を疑う。その焦りを映した瞳に、迫り来るユリィの姿が映った。
「どりゃぁ!!」
拳がリッチに叩き込まれる。咄嗟に両腕で防がれものの、そのまま吹き飛ばされた。
「うぐぐぐぐぅ…」
壁に叩きつけられ、苦悶の声を上げるリッチ。本来なら効果のない攻撃だが、付与によって属性を帯びたことで、確かな手応えがあった。
「これなら…、なんとかなるかも!」
一度は勝ち目を失い、生を諦めていた。そのユリィに活路が生まれた。とは言え、決定打はまだない。ユリィは慎重に相手の出方を伺う。
「くっ…。この小僧に、手加減は無用のようじゃ」
呟いた直後、リッチの姿が視界から消える。
「な!?」
ユリィは周囲を見渡し、気配を探った。
「こっちじゃよ」
声と同時に、背後にリッチが現れていた。振り向くと、手を掲げ魔法を放とうとする姿が映る。
即座に回避行動へ。俊足の恩恵で、辛うじて直撃を免れた。
「転移魔法まで使えるのか…」
こちらも高位に分類される魔法。上級魔導士でさえ、使い手が限られている。
「娘を巻き込まぬ位置に立てた。これなら、遠慮はいらぬ」
リッチの目的は、アヤンを連れ去ること。そのために、アヤンを手中に収めれる位置へと陣取ったのだ。
「させるか!!」
ユリィはアヤンを取り戻すため、駆け出す。だが、その進路の地面に、赤い文字が浮かんでいた事に気づき、思わず足を止めた。
「うわっ!!」
目の前から炎が吹き出す。間一髪避けられたが、肌が焼けるような感覚が走った。あと一歩踏み出していれば、その餌食になっていた。
「くくく…、この先は通さん」
リッチが仕掛けたのは、侵入者を地面から噴き上がる炎で焼き尽くす罠魔法。
「このまま娘を連れ去り逃げることは可能じゃ。だが小僧…、貴様だけは許せぬ」
低く、憎悪を滲ませた声。
「どんな手を使ってでも、殺す」
転移魔法を使えば、容易に離脱できる。しかし、リッチにそのつもりは毛頭ない。生前、魔導士として高みを目指し、貪欲に魔力を求めた。昇華させるには時間が足りない、それに抗うためアンデットに身を落とした。そんな彼が、若造相手に背を向けるなど、決して許さなかった。
再びリッチが詠唱を始めると、足元に真っ赤な魔法陣が現れた。これは強大な魔法特有の魔法陣。
「確かあの魔法は…」
ユリィは息を呑む。授業で教師が手本として見せたものと似てはいる。だが、規模がまるで違う。
「あの規模だと…街ごと焼き尽くしてしまう!!」
これは、前方一帯へと火炎を噴き出す魔法。リッチが放とうとしているのは、その中の最上位に位置するもの。直撃すれば、今度こそ消し炭になる。
「そうだ!アヤン、氷の加護があれば罠を防げない?」
「あの魔法は高度な防壁としての性質も併せ持っています。氷の加護だけでは、厳しいのではないのかと…」
名案だと思ったが、現実的ではなかった。
「逃げても…巻き添えになる」
再び追い詰められるユリィ。止められなければ、街ごと巻き添えだ。必死に思考を巡らせる。
−炎の壁さえ、越えられたら…–
あの罠を突破しなければ、リッチには近づけない。
「越えることができたら…、いいのか」
ひとつの策が、脳裏に閃いた。ユリィは数歩下がり、深く息を吸う。そして、勢いよく駆け出した。
「ユリィさん!!」
アヤンの叫びと同時に、地面から炎が噴き上がる。だがユリィは、それを飛び越えた。
風の加護により跳躍力が増している。とは言え、足先が焦げそうなほどの、まさに紙一重だった。
「ああっ…」
アヤンは、安堵のあまり声を上げる。ユリィは無事に着地した。
「アヤン!」
その視線の先。アヤンを隠すようにリッチがいる。
「氷の加護をかけてくれ!!」
「氷の…加護ですか?」
「早く!!」
説明している暇はない。アヤンは即座に詠唱を始め、ユリィの全身を青い光が包み込んだ。
「ありがとう。よし、行くぞ!」
ユリィは、迷いなく魔法陣の中へ飛び込んだ。
「ユリィさん!何を!?」
リッチの足元の魔法陣からは、漏れ出す魔力が灼熱となって溢れ出ている。生身の人間なら、近づけば焼き尽くされる。だが、氷の加護がユリィを守っていた。
「!?」
詠唱中のリッチが異変に気づき、目を疑う。灼熱と化した魔法陣は、人が入れる状態ではない。それなのに、人の姿が確かにある。
−バカな!?–
詠唱を止めることはできない。対処もできない。その間にも侵入者は確実に距離を詰めてくる。赤く染まる炎の先には、見覚えのある顔。
魔法陣内部に満ちる魔力が炎となり、ユリィを襲う。それを氷の加護で相殺させる。これが狙いだった。
やがて、リッチの眼前へ。
「うまくいくかなぁ…」
両掌からは、太陽のように輝く炎の塊が形成されている。ユリィは、その両手首を強く掴んだ。
「な、なにをする!?」
あと少しで完成するはずだったが、詠唱は中断される。
「喰らえ!!」
ユリィは全身の力を込め、その火球をリッチの胸元へと押し付けた。
「ぐぐっ…」
次の瞬間。制御を失った魔法が暴発した。
天へと突き上げられた巨大な火柱。それを目撃した王都の人々は、一斉にざわめき立った。
そして、その発生源…・そこには、上半身の大部分を焼き飛ばされたリッチの亡骸を掴み上げるユリィの姿があった。
「ユリィさん!」
アヤンが、息を切らし駆け寄って来る。
「…やった、かなぁ」
ユリィは、焼け残った胴体へと視線を向ける。
「あちぃっ!!」
燃えかすになったリッチの腕が突如熱を帯び出し、ユリィは反射的に離す。気を抜いたアヤンが、加護を解除したせいだ。
ボロッ
木像の燃えかすのようになった胴体が地面に落ち、そのまま砕け、砂のように崩れ去る。焼け残ったローブだけが、風に煽られ宙を舞い、やがてどこかへ飛んでいった。
「…終わった、か」
脅威は完全に去った。ユリィは、気が抜けたように大きく息を吐く。
全ては目論見通りだった。リッチが放とうとしていたのは、一方向へ炎を吐き出す殲滅魔法。ユリィその向きを無理やり変え、被害を最小限に抑えた。
もっとも、氷の加護が耐え切れるかどうかは、完全なかけだった。
結果的に、賭けには勝った。
「無茶しすぎです!」
「それは…否定しない」
自覚はあった。ユリィは素直に叱責を受け入れる。
「でも…助かりました」
「アヤンのいたおかげだよ」
「そんな…、私は支援しただけです」
互いに謙遜し合う二人。だが、この勝利が二人の連携によって掴み取られたものであることは、紛れもない事実だった。
「ところでさ。アヤンが使った魔法って、精霊術だよね?」
魔法職には、大きく二つの系統がある。攻撃魔法を主体とする魔導士。そして、回復や補助を得意とする術士だ。
術士の扱う魔法は、さらに二通種類に分けられる。
一つは、当人の魔力を用いて発動される方法。効力は魔力量にされ、魔導士の魔法と同様に魔力が高いほど強力になる。
もう一つが『精霊術』。
精霊を呼び出し、その属性を加護として付与する。付与された属性が相手の弱点であれば、戦闘は優位に傾く。さらに、精霊術には属性毎の補助効果がある。風の精霊による俊敏性の向上もその一例だ。
だが、精霊術を積極的に習得しようとする者は少ない。
弱点を見極める分析能力が求められ、重要で使い勝手の悪い。それ以上に敬遠される最大の理由が、精霊との相性である。
魔力にも天性の優劣はあるが、本人の努力次第で伸ばすことは可能。しかし、精霊との相性は生まれ持った適性によって決まる。適正の低い者はすぐに限界が訪れる。そのため学院でも、触り程度しか教えられていないのが現状だった。
読んでくださってありがとうございます!
面白い・続きが気になると思って頂けたらブックマーク登録お願いします!
広告の下側にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると励みになります。
感想やレビューもいただけたら嬉しいです。




