圧倒される落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
「俺って脳筋なんだ」
ユリィの返答に、アヤンは一瞬きょとんとした。
「ええっと…、それは戦士系みたいに肉弾戦の方が得意、という意味ですか?」
「そういう意味」
キッパリと答える
「……魔法職の方にも、そういう人がおられるのですね」
アヤンは何とも言えない表情を浮かべる。
予想はしていた。
だが、そのような反応をされると複雑な気分になる。
「こう見えても、一応魔導学院は卒業している」
念のため、魔導士と名乗れる最低限の経歴はあることを伝えた。
「私も、少し前に聖堂学院を卒業した術士です。ところで、見た感じが冒険者のようですけど」
「最近やりたい事が見つかってさ。それで王都を出る事にした。その準備で、さっき冒険者登録を済ませたばかり」
「そうだったんですか!実は、私も今日冒険者登録したんです」
思わぬ共通点。
「同じ日に…?」
「はい!遠出する目的ができたので」
やはり、服装の印象通りアヤンは術士だった。
聖堂学院は、聖職者や術士を育てる教育機関。
卒業したばかりなら、ユリィと同い年になる。
新人冒険者。
そうなると、先ほどの誘拐騒ぎも理由は分かる。
ユリィは金銭の強奪が目的だったが、アヤンはおそらく人身売買。
そう考えたのは、アヤンの容姿。
聖堂学院でも目立っていただろう、と思えるほど整った顔立ち。
それほどの美少女であれば、高値で取引される。
それで標的にされたのであろう。
「冒険者登録したってことは、仕事がらみじゃないってことか」
「まあ…、そうなりますね」
「聖堂学院を出たら、教会関連の施設に就職する人が多いって聞いたけど。その仕事に就いていないの?」
その問いに、アヤンはわずかに言葉を詰まらせた。
「ええっと、それはですね…」
彼女は視線を泳がせ、少しだけ言い淀んだ。
その時。
「あっちにいるぞ!!」
怒号が響き、会話は遮られた。
話し込んでいる間に、ゴロツキ達は既にここまで迫っていた。
しかも数が違う。
増援が加わり、先ほどの何倍もの人数が大通りに溢れている。
「女も一緒だね」
その声と共に、一人の女性が現れた。
妖艶な姿をした若い女性。
一瞬、団員の誰かの愛人かと思った。
だが、彼女から漂う雰囲気は明らかに違う。
ゴロツキ達の表情が変わった。
自然と左右に分かれ、女の通り道が作られる。
「あの女の人…」
アヤンの声が、わずかに震える。
「知っているの?」
「ギルドで、私に声を掛けてきた人です」
「なるほど。女同士なら警戒も薄れるな」
やはり、同様の手口だった。
一方、女はアヤンを拘束していた男の前で足を止めた。
「お前」
「なっ…、なんでしょうか?」
「あの娘を、雑に扱ったらしいな」
「えっと…、結果的にはそうなりやした」
バキッ
返答を聞くや否や、女の裏拳が男の顔面を打ち抜いた。
男は悲鳴も上げられず、鼻を押さえ蹲る。
指の隙間から血が溢れ出た。
「依頼者の指示を、忘れたのか?」
女の声は低く、冷たい。
この場を仕切っているのが誰なのか、一目で分かる光景だった。
ゴロツキを束ねる女、只者ではない。
ユリィは自然と身構えた。
「おい、あんた」
「…何?」
面倒な展開になる。
そう考えたユリィは、無意識に杖を握りしめていた。
「そんなに硬くなるな。私はチエム団の団長、ケイシ」
「……」
「あんたを仲間に迎えたい」
「へっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
(落とし前をつけられる)
そうとばかり思っていた。
「あんた、面白い奴だな。魔導士なのに、腕っぷしが強い」
「そういう事になるけど…、悪い?」
「バカにしたつもりはない。私はあんたを気に入った」
ケイシの狙いは分かった。
返り討ちにしたユリィを、自分の手駒にしようとしている。
「断る。俺にはやりたいことがある」
「やりたいことって…冒険者か?」
格好から、そう判断したようだ。
「あんた、よく考えな。それがどれだけ不安定な職業か」
確かに、ケイシの言うことは正論だった。
冒険者とは日雇いと大して変わりない。
高収入を得られるのは、ごく一部だ。
「引退しても、活かせられる職業は傭兵か護衛くらいしかない」
動機に関しては、それではない。
目標は魔闘家になること。
しかし、実現しても冒険者とほぼ変わらないことも確か。
「あんたなら、すぐに上に立てる。だから私の下で働け!」
得意げな表情で、説得するケイシ。
極論に聞こえるが、説得力はあった。
「なんと言っても、私にはこれから大きな支援が…」
「お頭っ!喋りすぎですぞ!!」
手下が慌てて止めに入ると、饒舌だったケイシが口籠った。
「おっと、今のは聞かなかった事にしてくれ」
一瞬気まずそうな表情を見せた。
だが、すぐに何事もなかったかのように、話を進めた。
「とにかく、私達についた方が得だ。そう思うだろ?」
「……」
ユリィは黙っていた。
それでも、ケイシ話を続ける。
「私につく気になったのなら、その娘をこっちに渡せ」
声色が氷のように冷える。
表情もさっきとは違う。
だが、それがユリィの腹を決めさせた。
「あんたの仲間にはならない。それから、アヤンは絶対に渡さない」
迷いなく、強い口調で言い切る。
「バカか、あんた!その娘を助けたのは、巻き込まれたせいだろ!?赤の他人のために命を張るなんて、意味が分からない!!」
残酷だが、理屈としては正しい。
ユリィとアヤンは、今日まで何の接点もなかった。
しかし、ユリィはその結論には至らなかった。
「ユリィさん…」
不安げに見上げるアヤンに、ユリィは無言で応えた。
その目には、揺るぎない意志が宿っている。
この選択に、間違いはない。
「ふん、そうかい」
それを合図に、手下が二人を取り囲んだ。
「じゃあ、腕づくに出るしかないね」
期待はしていなかったが、黙って解放はしてくれなかった。
「ところでだけど…」
「ああ?」
「こんな人通りが多い場所で騒ぎなんか起こしたら、警備兵が来るよ」
「だからなんだ。来る前に終わらせばいい」
物分かりはかなり悪い。
戦いは避けられそうにない。
だが、幸い今のところ誰も武器は抜いていない。
「行け!」
ケイシの怒号と同時に、手下の一人がユリィに飛び掛かる。
バコッ
男の攻撃を避けた直後、ユリィが杖を振り落とす。
まともに受けた男はその場で倒れ込む。
武器には間合いがある。
素手相手なら、こちらの方が圧倒的に有利だ。
ユリィは迫り来る手下供を、順に叩き伏せていく。
「お前ら!一人相手に、いつまで手間取っている!?」
苛立ったケイシが檄を飛ばす。
だが、ユリィと正面に渡り合える手下は一人もいなかった。
一方、優位に見えるユリィには懸念があった。
背後にはアヤンがいる。
そのため全力が出せない。
守りながらの戦いでは、動きに制限がかかる。
「ここから早く、抜け出さないと…」
それが最善策。
アヤンと共に離脱する、そのための血路を開くタイミングを探る。
突如、怒号が響く。
振り返ると、ガラの悪そうな男たちが見える。
(増援か!?)
ユリィは身構える。
すると、その中の一人が一喝した。
「テメエら…、俺たちのシマで何やっていやがる」
ドスの利いた声に、チエム団の手下達の動きが止まる。
そして残りの男達が取り囲んだ。
「ヌエ団のジョレニか」
ケイシが舌打ちする。
「この通りで何かがあれば、俺たちが来る。それくらい分かってるだろ?」
ジョレニの口調は冷静。
だが、その目からは強烈な怒りが満ちている。
ヌエ団。
この通り一帯をナワバリにする、荒くれ者の集まり。
既存の店舗を脅かさないための調整や、揉め事の仲裁が生業。
そして対価としてみかじめ料を徴収する。
非合法の自警団が、警備兵よりも先に辿り着いた。
「すぐ終わらせる。見逃しな」
「ああ!?そんなバカげた要求に、従うと本気で思ってんのか!!」
「思ってないのなら、考えを変えな」
「舐めてんのか!?」
強気と言うより、完全に相手を逆撫でしている。
血の気の多い連中が、これで黙っているはずがない。
「そういや最近、色々やらかしているらしいな。一回、痛めつけてやるか」
この言葉が号令となった。
両陣営が一斉に構え、一触即発の空気が張り詰める。
だが、ユリィはこれを好機と考えた。
(このまま乱戦になれば、逃げ出す隙ができる)
両者が飛び込もうとした、その瞬間。
その場を横切る者が現れた。
「何を手こずっている?」
それはローブ姿の男だった。
深く被ったフードの奥は見えない。
しわがれた声。
ローブから覗く、骨のように痩せ細った手と腕。
その様子から老人であることは推測できる。
「すまない。この魔導士に邪魔されて」
「言い訳はいい。あとは儂がやる」
ケイシの態度からして、立位は老人の方が上。
実際、手下は誰一人動こうとしない。
老人はゆっくりと、ユリィへ向かって歩を進めた。
「おい、ジジイ!」
割って入ったのはジョレニだった。
水を差しただけでなく、存在をまるで見ていない。
怒り狂ったジョレニは、荒々しく老人の肩を掴む。
「なに、首突っ込んでやがる。失せやがれ」
元からいかめしい容貌が、さらに歪む。
しかし老人に臆する気配はない。
平然と手を払い、逆に腕を掴んだ。
「黙っておれば、放っておいてやったものを」
その手から、強烈な閃光が走った。
バチィッー!!
至近距離で叩き込まれた電流が、ジョレニの全身を貫く。
不快な焦げ臭い匂いと白煙を上げながら、地面に叩き伏せられた。
「だっ…団長!!」
血相を変え、団員達が駆け寄る。
「お前達から先に始末する」
老人が、再び手をかざした。
次の瞬間、悲鳴が上がる。
電撃が連鎖するように放たれ、団員達が次々と倒れていった。
「ひどい…」
惨状を目の当たりにし、アヤンは顔を背けた。
「おい!」
ユリィは、唖然と立ち尽くすケイシのもとへ詰め寄る。
「やりすぎだぞ!!」
「こっ…ここまでやるとは思わなかったんだ!」
「仲間だろ!?やめさせろ!」
「違う!仲間じゃない!!」
「じゃあ誰なんだ!?」
「あっ…あの娘を攫えと言ってきた」
「何のためにそんな要求を!?」
「知らねえよ!上玉だからじゃねえか」
「理由を聞いてないのか!?」
「この世界では、深く問わないのが礼儀だ!」
アヤンには価値に関しては、頷ける。
だが、理由は知らされていない。
「なんで、あんなヤバいやつと取引した!?」
「それは…うまくやれたら王都の裏社会を牛耳れるよう手を貸す、そういう話をされた」
「さっき言いかけていたのは、それか」
「こっ…これ以上あんたに教える筋合いはない。じゃあな!」
余計なことを口走ったせいか、ケイシ一方的に話を切り上げ、背を向けた。
「待てよ!」
ユリィは咄嗟に手を伸ばし、ケイシの襟首を掴む。
ビリッ
ユリィは固まる。
勢い余って、服を裂いてしまった。
「なっ…何すんだ!!」
「ごっ、ごめん…」
逃げ去るケイシを、追うことができずにいた。
これは不可抗力。
だが許される行為ではない。
気まずさに立ち尽くすユリィ。
だが、その背中が一瞬目に留まる。
(背中に…模様?)
刺青のようにも見えたが、ハッキリとは分からない。
ユリィがそれに気を取られる中、耳をつんざく轟音が響いた。
ユリィはハッと我に返る。
「そうだ…、あっちをなんとかしないと!」
老人は、戦意を失い逃走を試みた団員へと火球が放っていた。
爆炎が立ち上がり、周囲は阿鼻叫喚となる。
「あの魔導士…、やることが無茶苦茶だな」
一団を完全に蹂躙し終えると、老人はゆっくりとアヤンのへ向き直った。
咄嗟に、ユリィはアヤンの前に立ちはだかる。
しかし、先ほどのような余裕は、もうない。
扱う魔法を見ればわかる。
相手は上級魔導士。
ユリィの膝が震える。
いつの間にか杖を握る手に技からが入りすぎ、手に爪の跡がついていた。
「ユリィさん…」
「心配するな。必ず…ここから逃す」
口ではそう言った。
だが、方法は思い付いていない。
老人がその状況を配慮するわけがなく、時間と共に距離が縮まる。
ユリィは行動に出た。
「くらえ!!」
駆け出し、渾身の力を込めた突きを放つ。
「なっ!?」
目を疑った。
助走までつけた一撃を、老人は片手で受け止めていた。
枯れ枝のような腕のどこに、これ程の膂力があるのか。
理解が追いつかない。
「ユリィさん!魔法を使おうとしています!!」
アヤンの叫びと同時に、老人の手が赤く輝いた。
反射的にユリィは杖から手を離し後退。
直後、杖は炎に包まれた。
「避けよったか」
全身から冷や汗が噴き出す。
さっきまで握っていた杖は、文字の通りの消し炭だった。
反応が遅ければ、自分もそうなっていた。
「うっ…」
分かってはいた、相手が圧倒していると。
ユリィに絶望感が襲う。
「うぬ?」
その時、老人が後方から羽交い締めにされた。
「ジジイ…」
「お主…、生きておったか」
そこにいたのは、ジョレニだった。
「あっ…あれくらいで俺が殺せると思っていたのか」
気丈に振る舞ってはいるが、全身には痛々しい火傷の痕。
息は荒く、気力でしがみついている。
「愚かな。伏しておけば、やり過ごせたものを」
「黙れ…。おっ、俺の大事な手下を…、きっ、傷つけるとはどういう了見だ」
「有象無象は早々に退場してもらいたかったからじゃ」
「なっ!?俺らが有象無象…」
完全な侮辱。
半死半生であることを、忘れる程の怒りが起きる。
「おい!まずは、そのツラを見せてから言え!!」
ジョレニは、力任せに老人からフードを引き剥がした。
「なっ!?」
露になった老人の容貌に、周囲が驚愕する。
枯れ木の皮のような皮膚。
深く窪んだ眼窩。
皮膚に包まれたしゃれこうべ、そう形容するしかない顔。
生きた人間には思えない風貌だった。
「こいつ…リッチか!?」
学院で学んだ知識が蘇る。
強大な魔力を求め、寿命の概念を捨てた魔導士の成れの果て。
「なんだ…、この不気味なジジイは?」
リッチと視線が交わった、その瞬間。
言葉にならない恐怖が、全身を貫いた。瞳はない。
だが深淵からは、突き刺さるような何が向けられている。
それは殺意。
渡世人になって以来、修羅場には幾度も遭遇した。
だが今日ほど、恐れたことはない。
「儂の素顔を見た以上、生かしては返さん」
リッチは背に手を回した。
ジョレニを軽々と掴み上げ、放り投げた。
ジョレニはすでに満身創痍。
声を上げることもなく、そのまま動かなかった。
「消し炭にするのは容易いが、娘に被害が及ばぬようにせねば」
リッチの手のひらから火球を生まれる。
時間と共に膨れ上がり、見るからに強大な熱量を放っている。
ジョレニに向けて狙いを定めた。
「やめろ!!」
怒声と同時に、ユリィの手からは火炎魔法が放たれる。
「…やれやれ」
リッチは振り向き、魔法を放つ。
ジョレニを襲う予定だった火球。
二つの魔法がぶつかり合う。
直後、ユリィの魔法があっさりとかき消される。
それは蛇が蛙を飲み込むかのようだった。
「来る!」
そのままユリィへと迫る。
「くうっ!」
紙一重でかわすと、背後から爆炎が炸裂した。
見世棚が吹き飛び、破片が宙を舞う。
(俺の魔法じゃ話にならない…)
突きつけられた自身の実力。
今日ほど、才能がない事を悔やんだ事はない。
リッチに有効なのは魔法か、属性付与された武器のみ。
つまり、ユリィに撃つ手が無くなった。
(殺される)
頭をよぎる結末は、それしかなかった。
逃げることも考えた。
だが、その前に魔法の餌食になるだろう。
(仮に逃げられたとしても…)
アヤンを置いていくことになる。
しかし、今は他人の心配をできる状況ではない。
(いや、それ以前の問題か)
ユリィは現実を受け入れた。
「まずは小僧から始末するか」
無情にも標的を変えたリッチは、次なる魔法の詠唱を始めた。
やはり助からない。
自覚はしていたが、絶望に押し潰され視界が暗く染まる。
直後無情にもリッチからは魔法が放たれた。
(さっきより、はるかに強い!あれが届いたら…)
ユリィは完全に死を受け入れていた。
だが、その極限の中で、ふと違和感に気づいた。
(腕が、光っている!?)
一瞬、錯覚かと思った。
しかしそれは確かに、ユリィ自身の両腕から発せられている。
青白い光が脈を打つように揺らめき、徐々にその輝きを増していく。
(何が…起きている!?)
直後、火球が眼前にまで迫っていることに気づく。
混乱し意識が奪われていた間に、このような事態へ。
ユリィは反射的に、両腕で身体を庇った。
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