知恵を絞り出す落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
報告書にはルハの名があった。
(行方が分からない…)
その一文が妙に引っかかった。
(逃げたんじゃないのか…?)
状況的にはそれで説明がつく。
だが、そう結論づけられなかった。
ユリィは仲間を見回す。
皆が怪訝そうな顔をしていた。
ルハはただの団員ではない。
その正体は二重間者。
リンポの手下ではあるが、実際はキョウラ団側の人間だ。
落とし前をつけなければならない。
だが気づいた頃には姿を消していた。
サアズの元、そこが潜伏場所だと考えていた。
しかし、キョウラ団の中からも抜け出していた。
さらに、気になる記述がある。
「カタギと思われる男…」
あのような場所にいれば目立ってしまう。
それで覚えていたのか。
いや、こちらも単純に片付けられない。
(あの場所にいた外部の人間…)
ユリィの頭に一人の男が思い浮かぶ。
「カリニャか!?」
「俺もそう考えている」
目撃された日、サアズの元に身を寄せていたのは確実。
二人が接触していても不思議ではない。
「何のために…」
単に雑談をしていた。
いや、そんなはずがない。
「お前」
「何?」
「ルハと同時にカリニャも行方が分かっていない」
ガサの際、コジリを通して警備兵に捜索させた。
だが、該当する人物は見つかっていない。
「じゃあ、ルハがカリニャを連れ去ったのか?」
「今日のお前は冴えてるな」
小馬鹿にしたような言い方。
ユリィはムッとなる。
「でも、どうやって?」
「ルハの正体はなんだ」
「間者だよね」
「つまり、奴は襲撃の計画を知り得る立場だ」
「確かにそうだ」
「その情報を流した。サアズではなく魔導士に」
「ええっ!?」
それは無理がある。
一同はそう感じた。
「何でそうなるの?」
ならず者と魔導士。
接点があるとは思えない。
「奴が三重間者だとしたら、可能性はある」
「まっ、魔導士の間者!?」
魔導士側から送り込まれた間者であれば、辻褄は合う。
だが突飛過ぎる内容だ。
「そんなことあるかなぁ…」
そう考えたのはユリィだけではない。
皆がいぶかしげな表情をした。
「マーチュは最後に誰の名前を出した?」
「ルキ…、神殿を襲った奴の親玉か!!」
「つまり、魔導士たちは同じ奴から送り込まれた」
「でも、それはルキと繋がっている根拠にはならないよ」
可能性がないとは言えない。
どちらかというと話が飛躍している。
「いや、あると思うよ」
ケイシは賛同した。
「奴らは私らみたいな人間を手駒にしたがる」
実際に利用された。
その言葉には重みがある。
「そうか!ビーツ団も同じだ!!」
共通点にユリィは気づく。
カリアンを送り込み、神殿を襲撃させた。
「言われてみれば…。私をさらおうとした人たちも、そうでした」
アヤンを襲った野盗や盗賊。
奴らも捕縛後全員が死亡している。
遺体には呪いの紋が施されていた。
「これも俺の推測だが、ルハがサアズを殺した」
「それもルハが…。でも、どうやって?」
「暗黒魔法を使った形跡があっただろ」
「そうだったね」
その言葉でケイシが反応する。
「カチルの旦那!もしかして…」
同時にユリィも悟る。
「奴はそれを使えるのか!?」
そんな事があり得るのか。
だが、否定もできない。
「ああ」
カチルは軽く頷く。
「ルハが暗黒使いなら、可能だ」
それは推測の域を出ない。
しかし、あの場所には暗黒使いがいた。
「待て、続きがまだある」
リンポは読み進めた。
「魔導士を搬送していた御者の話によると、直前にサアズから指示があった」
「それは俺も聞き出した。カリニャの代わりに魔導士を乗せた」
「通りの先にいる四人組を拾い上げろと」
「通りの先、だと…」
四人の魔導士はそこで乗せられた。
「その辺りは奴らの縄張りの境だ」
リンポが解説を入れる。
「つまり、魔導士たちは建物の外にいた」
「そういうことになるね」
「言い換えれば、魔導士は建物の中へは入っていない」
「そっ、そうか!」
ユリィに言いたいことが伝わった。
「ルハは仲間を手引きしたわけじゃないんだ」
「そうだ。ということは?」
「取り巻きが殺害された現場、そこにはルハしかいなかった」
「手口は暗黒魔法。では、どうなる?」
「ルハが暗黒使いなら成り立つ」
ユリィもそう結論づけた。
カチルの言う通り、そう考えれば筋が通る。
この街に暗黒使いがいる。
それはいまだに信じ難い。
「ねえ、カチル」
話しかけてきたナギの表情は暗い。
「どうした?」
「暗黒使いって、神殿にいたあれと同じでしょ?」
「そうだ」
「そんなのと私たち戦えるの?」
その疑問はもっともだ。
あの時は聖属性を扱えるヤサカがいた。
さらに、カリアンは自ら手を引いてくれた。
「ルハがどれほどの使い手かは見当がつかない」
国際協定で禁止されている魔法。
扱いが難しいだけでなく、その威力は他の魔法を圧倒している。
「油断をしてはいけない相手か」
「そうだ。今日は話が通じるな」
「それくらい俺でも分かる!」
再び小馬鹿したが、今回は笑っていない。
「ちょっと、あんたら」
「どうした?」
ケイシの顔に焦りが見える。
「神殿で何があったのかは知らない。その暗黒使いってのがカリニャを連れ去ったんだな?」
「状況的にはな」
「そいつは下手に手を出すべきじゃない、そうだな」
「ああ」
「だとしたらカリニャを追えないじゃないか!!」
ケイシの言う通りだ。
父親の仇であるカリニャ。
ようやく居場所を見つけたが、それを見失おうとしている。
皆が黙り込む。
下手には動けない。
(一体何のために…)
その疑問を持つのはユリィだけではない。
「ちょっとよろしいですか?」
アヤンが手を上げた。
「どうしたんだ」
「カリニャさんが襲撃の手引きをしたと、考えておられるのですよね」
「そうだね」
「でもそれって、推測の域を出ていませんよね?」
言われてみればそうである。
それは推測の域を出ない。
「…まあ、確信はない」
襲撃にカリニャが不審な行動をしていた。
それを根拠に出た結論だ。
「私は違うと思います」
「何が違うんだ?」
「標的です」
「標的って、神殿じゃないと言いたいのか?」
「はい、カリニャさんが狙われていたのだと思います」
「なっ…、カリニャが標的だったと?」
それは話を根底から覆す内容。
大胆な発想だが一理ある。
「アヤンちゃんの考え、ないこともないけど…」
「嬢ちゃん、なぜそう思う?」
「襲撃前に部屋を爆破したと聞きましたが、その目的は賊さんから逃げるためだと思うのです」
「そうなのか…」
「亡くなったと思わさせるのは神殿ではなく、敵さんにです」
現場は封鎖されていたため見てはいない。
聞いた話では部屋は跡形もなく吹き飛び、巻き込まれた研究者の中には身元不明の遺体もあったという。
「どう思う、カチル?」
「考えられなくもないな…」
ヤサカは最低限の情報しか話さない。
そのせいで、カリニャが手引きしたと考えてしまっただけなのか。
この街に来た目的。
それもずれていた。
神殿から持ち出した何かを売ろうとしている。
それを根拠に転売屋のリンポと接触した。
「ヤサカ様は、重要な何かを隠していると思います」
アヤンの推測を前提にするなら、話を一から整理し直す必要がある。
カリニャが持ち出した何かを取り戻す。
一方、アヤンは無属性を習得できる素質がある。
その何かが無属性の習得に関係がある。
指令に従えば習得に必要な何かが手に入る。
そう考え、今まで動いていた。
「確かに爺さんは詳細を一切語らなかった。そのせいで話の流れから目的を推測するしかなかった」
「そうよね。手引きしたのなら連れ去るのはおかしいわ」
「ああ。むしろ保護する」
本来の目的は聞かされていない。
それは、アヤンの推測を否定する要素がないことになる。
「なあ、アヤン。もしかしたら爺さんはカリニャがこの街に来た本当の目的を分かっていたんじゃないのか?」
「私も…そうじゃないかと思います」
状況的にはあり得る。
ヤサカは王国の暗部に関わっている。
同時の表に出ない情報を得られる立場でもある。
追っ手は街の前で見張りをしていた。
言い換えれば、街の中を探索しようとしなかった。
それは目的に気づいていたからとも考えられる。
「なあ、旦那。どういう経緯でルハを雇い入れたんだ?」
「詐欺をしてこの街に流れついたと言って俺に訪ねて来た」
「何をしでかしたのか聞いたのか?」
「過去は詮索しない」
キッパリとリンポは言い放つ。
「なるほどね」
「それがこの世界の掟だ」
「詐欺師なら人を騙すことに長けている。間者として適任だな」
「ああ、しばらく様子見もした。信頼に値すると判断した」
「だがすでに別の間者だったのか」
「不覚だ。キョウラ団の間者が先だったか、それもまだ分からねえ」
ルハの身元は分かっていない。
弁が立っていたおかげで、両方の組織に入り込むことができたようだ。
ルハは必要以上に自分を語らなかった。
それがリンポの気質にも合っていた。
この世界では、余計なことを喋る人間ほど信用されない。
突如、扉を叩く音が響く。
「親分、失礼しやす!」
入って来たのはジョオだった。
「どうした?」
「へい、さっきコノンミが帰って来やして」
「ソウジュウに行ってた、あいつか」
「その帰り道で、変な死に方をした奴らがいて騒ぎになっていたそうです」
「変な…だと」
「ええ。全身が不気味に黒ずんでいたそうです」
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