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国家権力に翻弄される落ちこぼれ

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 一行はヤサカの指示に従い、シナリニへと向かうことになった。


 本部からは、チイヒとコーフの二人に同行を命じられた。

 ユリィたちを監視するためであることは明らかだ。


「最悪だ」


「そうですね」


 厄介ごとには何度も巻き込まれた。


 だが、今回は国の暗部に触れるような事態。

 本来であれば王都に連行される。


 良くて軟禁。

 最悪牢獄送り。

 なんらかの形で拘束を受けることになる。


 幸か不幸か。

 ヤサカの小間使いとして動くことを条件に、ひとまず猶予を与えられている。


「それにしても、あの爺さんってすごい人なんだな」


「なんだ、急に?」


「だって、王政府に手を回せられるんでしょ」


 温情というより、都合よく使われている感はある。

 それに関しては癪だが、拘束されずに済んだことについては多少感謝もあった。


「お前、あの神殿を見てどう思う?」


 カチルが意味ありげに問う。


「どうって…」


 神殿へと目をやる。


「随分と立派な建物だよね」


「そうだ」


 カチルも目をやる。


「地方都市には不釣り合いなほどにな」


「たっ…確かに」


 そう考えると不思議に思える。

 立派過ぎる。

 カチルの言う通り場違いだ。


「どうしてこんな物を建てられたと思う?」


「う〜ん」


 ユリィは考えを巡らせる。


「地元の有力者からの寄付?」


「その程度じゃ建てられない」


「領地からの収入が多いから?」


「違うな」


 カチルはキッパリと言い切った。


「そもそもの話だ。精霊術士に特化した術士は、術士の中でも母数が少ない」


「…そうだったね」


「その養成機関があんな規模の建物を所有している。どう思う?」


「どお…って。う〜ん、言われてみればおかしい」


 カチルに指摘されて、初めて気づいた。


 王都の聖堂ほどではないが、規模は相当大きい。

 内外には施された豪勢な装飾。

 そんな場違いな建物が、地方都市に造られた。


「術士自ら稼いだわけでもない」


「それは無理だろうね」


「しかし、あるところなら用意ができる」


「あるところって…?」


「王政府だ」


「王政府!?」


 予想外の答え。

 それを聞いても、理由までは分からない。


「なんで…」


 自力で解けそうにはない。


「あそこには暗黒魔法の研究施設があるからだ」


「……なるほど!」


「もっとも、ヤサカの爺さんは認めていないがな」


 暗黒魔法の研究には、国家規模の後ろ盾が必要だと聞かされた。

 王政府が主導で行われた研究なら資金は潤沢。

 ここまで豪勢な建物の存在も説明がつく。


 さらには地下施設の存在。

 あれほどのものを造るには莫大な費用が必要。


 おそらく研究施設は地下にある。

 事件直後、地下への通路は封鎖されていた。

 そこは神殿内の者でも限られた人物しか入ることが許されていない場所だった。


「あの神殿は研究の隠れ蓑として造られたと考えて間違い無いだろう。そこにカナマヤ家の当主が神殿長に就任して、今の体制になった」


「そこまで闇深い建物だったのか」


 もっともこれは推測。

 しかし、状況を考えれば現実味はある。


「なんと…。ナバの神殿にはそのような役割があったのですね」


「ア…、アヤン」


 アヤンは見るからに落ち込んでいた。

 神殿は精霊術を昇華させるための目的地。

 そのため特別な想いを抱いていた。


「あの爺さんは、王国の暗部に深く関わっている施設の代表者だ。だとしたら、王政府に便宜を図れる人脈があっても不思議じゃない」


「拘束されずに済んだのは、爺さんのおかげか」


 不満はあるが、そう考えるとヤサカに頭が上がらない。


「で…。いつまで監視下に置かれるのですかな、調査官殿?」


 カチルの言葉には、敬語ながら皮肉が込められていた。


「それを決める権限は…私にはありません」


 チイヒはそう答えるしかなかった。


 命じられた業務をこなしているだけ。

 それでも後ろめたさは消えない。

 思わず目を伏せる。


 どうにかできるのなら、どうにかしてあげたい。

 チイヒはユリィへ視線を向けた。


「ねえ、ユリィ君」


 声をかけ近づく。


「何?」


「確かに新人の私には何の力もない。でも父は司法関係に顔が利くの。もしかしたら何とかなるかもしれないから掛け合ってみるわ」


 不意に、ユリィの足が止まる。


「それに私も功績を上げられたら、もっと発言力のある地位に就けるかもしれない。だから…、希望は捨てないで」


「何とか、できるの?」


「ええ!使える手段は全て使うわ。私に任せて!!」


 チイヒは胸を叩いた。

 それが届いたのか、ユリィの口元に僅かな笑みが見浮かぶ。


「役人さん、少し進展したんじゃない?」


 意味ありげにナギが言った。


「なっ、何を言っているんですか!?わっ、私は学院の先輩として理不尽な目に遭った後輩をなんとかしてあげようとしているだけです!!」


「へぇ〜」


「そっ、そうです!他意はありません!!」


「頑張りなさいね。あと、私の知る限りアヤンちゃんとは本当に何もないみたいだわ」


「なんでそこでお嬢さんの名前が出てくるのですか!!」


「え…?」


 突然名前を出され、アヤンは戸惑った顔をした。


 一方、横にいたカチルはうんざりしたようにため息をついた。


「騒がしいな」


 確かに、今はそのような話で盛り上がっている場合ではない。


「それにしても、タシノキ無しで向かうのは不安だな」


 その意見には皆、思うところがあった。


 一時は意識不明にまで陥ったタシノキの容態は、かなり回復している。

 だが当分は安静が必要なため、今回は不参加となった。


「大丈夫、俺とアヤンで何とかする」


「そいういう意味で言ったわけはない」


「え?」


 どうやらカチルの言いたいことは別にあるようだ。


「力押しで切り抜けるなら、それでもいい。俺が言いたいのは、司令塔になる人物が必要だという事だ」


「アイツがその役割なのか?単に強引な奴だと思うけど。俺を野盗討伐に引き込んだ時もそうだったし」


「確かに、あいつは向こう見ずなところもある。だが人を率いる能力は相当なものだ」


「自主的についていく人もいたね」


「それに、これから向かうような場所でも、アイツなら話し合いで解決させられるかもしれない」


「話なんて聞かないような連中の溜まり場で?」


「アイツにはそれができてしまう」


 冒険者には荒くれ者が多い。

 だが上に立つには単に強いだけでは務まらないと聞いたことがある。


 ユリィ自身も強引に引き入れられて始まった関係ではある。

 だが今では、仲間としてついて行きたくなる何かがある。



 王国の掃き溜めと揶揄される街、シナリニ。


 王政府の管轄下にはあるものの、その統治が機能しているのはごく一部の地域だけ。

 残りの大半は、文字通りの無法地帯。


 元々は日雇い労働者を対象にした宿や飲食店が立ち並ぶ街だった。

 しかし次第に王国中から職を失った者たちが集まり、治安は急速に悪化。

 やがて盗品の取引場や犯罪者の潜伏先として知られるようになる。


 安全な場所はほとんどない。

 駐在する警備兵ですら、警邏は必ず複数人で行う。


 それでも治安維持には消極的で、大通り以外を外れれば事件が起きても警備兵の耳には届かない。

 届かないということは、事件にさえならない。


 そんな街の大通りから外れた小径を、一人の女が歩いていた。

 王都では違法になるような建て増しの建造物が、両側に押し寄せるように並んでいる。

 当然だが、ここは女が一人で歩く場所ではない。


「おい、姉ちゃん」


 声をかける男がいた。


「……」


 女は無視した。

 だが女の都合に合わしはしない。

 次々と男たちが群がり、気づけば行く手を塞ぐように取り囲まれていた。


 集まった男達は皆、清潔という言葉からは程遠い風体をしている。

 女はフードを深く被り顔を隠していたが、体格と背丈で女であることはすぐに分かった。


 男の一人が強引にフードを引き剥がす。


「おおっ!!」


 その瞬間、周囲の男たちは歓声が上がった。

 思っていた以上の上物だったからだ。


「ひひっ」


「今日はツイてるな」


 顔も知らない女の後をつけていた。

 この連中は女であれば誰でもいい。


「いつまで無視する気だ?」


「……」


「あんたみたいな若い女を、放っておくわけがないだろ」


「ひょっとして、相手にしてもらうのが目的じゃないのか?」


 男の利己的な発想に、周囲の男たちが下品な笑い声を上げる。

 実際、この街で女が一人で歩くのは自殺行為だ。

 男は返答をまたず、肩へと手を伸ばした。


「うがっ!!」


 肩に触れる寸前、男の腕が捻り挙げられた。

 誰もが予測していない展開に、男たちは一斉に身構える。


 女が一瞥した。


「うっ……」


 男たちは悟った。

 力でどうにかできる相手ではないと。


「おい」


 女は腕を捻り上げた男に声をかけた。


「な…、なんだ」


「バハカタを知っているか?」



 喧嘩慣れした男達でさえ、この女には底知れぬ恐怖を感じていた。

 抵抗する気など起きない。

 男たちは素直に要求に従い、ある建物へ案内した。


 そこはこの区画を仕切る男の住まいだった。

 粗末な造りで、歩くたびに床板がきしむ。

 陽が差し込まない場所に建っているため、室内は薄暗い。


 しばらくすると、奥から男が出てきた。

 例に漏れず人相は悪い。

 だが女は臆する様子もなかった。


「あんたか。女一人でこの街に乗り込んできた物好きは」


「……」


「気を悪くしたか?」


 男は軽く笑う。


「安心しな。あんたが女だからって舐めているわけではない」


「そうかい」


「で…、あんたが探しているバハカタだが」


 女の耳がぴくりとなる。


「本来は別の名だろ?」


 女は沈黙で答える。


「よく、その名を調べ上げたな」


「ああ、伝手を使ってな」


「顔が利くんだな。じゃあ経緯も分かっているんだろ?」


「ああ。奴はこの街で正式にバハタカになる」


「ほほう」


 男は顎を軽くさする。


「で、奴はシナリニにいるんだな?」


「…確かに」


 男はそう言いいながら一歩前に出た。


「奴はここにいる」


 隠す気配もなく答える。

 同時に部下たちが慌てる。


「親分!口が軽すぎやせんか!?」


「そうですぜ!!」


 女の態度が目に余ったのか、遂に声を上げる。


「だいたい、こんな得体の知らない女に!」


「そうだ!お前は何者なんだ!?」


 部下たちの視線が一斉に向けられる。


「ケイシだ。自己紹介が遅れた」


「いや、遅すぎる!」


「言われなくても名乗るのが礼儀だ!!」


「それは悪かった」


 下衆な男らに明かす気はなかった。

 だが、協力的な態度を見せられては、そうはいかない。

 ケイシは手下の叱責に対し素直に詫びた。


「じゃあ、次は俺が紹介する番だ」


「……」


「俺はリンポ。別の街の道具屋では引き取ってもらえない訳ありの品を買い取り、希望者がいればそれらを流している」


「転売屋か。立派な商売だな」


 口ぶりから、アコギな商売であることが伝わる。

 この辺りは流れ込んだ盗品を捌く者たちが集まる場所。

 それらを仕切っているのが、この男だ。


「ところで、王都の裏組織にもあんたと同じ名を聞いたことがある」


「……」


「おい、返事しろ!」


 手下が捲し立てる。


「そうだ、私で間違いない。この街まで伝わっていたのは光栄だ」


「女が団長だと聞いていたが、やはりあんただったか」


「ああ。知っての通り、少し前までチムビ団を仕切っていた」



 ユリィたちの視界に、シナリニの街が見えてきた。

 聞いた通り、街を封じ込めるように柵が築かれている。


「あともう少しで着くな」


「そうね。それにしても酷いわ」


 チイヒは街を遠目で見ながら眉をひそめた。


「王都でも治安が悪い場所があるけど、これほどではないわ」


「きれいな世界しか見ずに育った役人殿には、衝撃的ですかな?」


 再び向けられたカチルの皮肉。

 チイヒは無言で返した。


「そうだ、探すのってどんな奴だっけ?」


「似顔絵を見ただろ」


「顔は覚えている。名前は何だった?」


「カリニャだ。ちゃんと覚えておけ」

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