旅が詰みかける落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
今回の討伐で報酬の対象になっていたのは、頭領のリッチャに加え、シマナレを含む六人の幹部。
リッチャは死亡したが、それ以外は全員生け捕りにされている。
生き残った野盗たちは捕らえられ、事件後に駆けつけた警備兵によって街の詰所へと護送され、留置された。
しかし今朝、異変が起きた。
誰一人起きようとしなかった。
不審に思った看守が確認すると、全員の呼吸と脈が止まっていた。
留置所直ちに封鎖され、捜査が始まった。
検死によって死亡は確認された。
だが、誰一人とて死因を特定することはできなかった。
「これって…」
報告を聞いたユリィは青ざめた。
「同じことがまた起きたの?」
チイヒの問いに、ユリィは黙って頷く。
部屋の空気が重く沈む。
「とりあえずヤサカ様に詳細を聞きに行きましょう」
ヤサカの元へ辿り着くと、二人はこれまでに体験した類似の事件について話した。
「呪いの仕業で、そのようなことが。そなた、警備兵に伝えるのじゃ」
同じ手口であれば、呪いの紋様があるはずだ。
ヤサカは確認するよう使いを走らせた。
「あと、賊の方たちには誰かの依頼で動いていたらしいです」
「同じ人物が黒幕ということかの?」
「多分…。あっ、あのカリアンっていう暗黒使いも、アヤンの事で何か言っていた!」
「そっ、そういえばそんな事を言っていましたね」
「……」
ヤサカが黙り込んだ
その時ふいに見せた表情は、何かを知っているようにも見える。
チイヒはそれを見逃さなかった。
「ヤサカ様、何かご存知なのではありませんか?」
「……」
「何か知っているのか!?」
「知っていることを教えてください!」
二人は詰め寄ったが、ヤサカが口を開くことはなかった。
「そういや、王都でアヤンを攫おうとした奴らはどうなったんだろう」
「王都でって、何があったの?」
「女の団長が仕切っているゴロツキ集団に襲われた」
「それチエム団じゃ…。あの一件にユリィ君が関わっていたのね!」
「あっ、…うん」
ユリィは慌てた。
警察関係の仕事に就いているチイヒの前で、この話題を出すのは軽率だった。
「心配しないで。これは私の胸にしまっておくから」
「そっ…それは問題なのでは!?」
報告しなければ表には出ない。
だが、やっていることは単なる握り潰し。
コーフは責めた。
しかし、聞こえていないかのように話を続けた。
「大きな騒動だったから、あの日の事は覚えているわ。その後に構成員が不審死したなんて事件は聞いてないのは確かよ。」
「あの時は起きなかったのか」
「ちなみにヌエ団の団長は重体だったけど、一命は取り留めたわ」
「酷い目に遭わされていたな。無事でよかった」
「だとしたら、ただの誘拐だったのかしら」
「いや、外部の人間が指揮していた。そいつは仲介人みたいな言い方をしていたな」
「それって死んだ魔導士?捕らえた手下が言っていた奴ね」
「じゃっ、じゃあこの人が逃げた少年…。報告するべきです!」
「ユリィ君は巻き込まれただけ。それなのに捜査とはいえ、犯罪者のように取り調べられるのって可哀想だと思わない?」
「真面目な顔して何言っているんですか!」
強引な理屈で、またしてもコーフの忠告を跳ね除ける。
「こんなことして、本当にいいの?」
「いいの」
「そうなの…。ところで、手下から魔導士のことは聞き出せたの?」
「残念ながら何も知らなかったわ。団長は普段以上に慎重で、後ろ盾以外の情報は教えなかったみたいなの」
「その団長はどうなったんだ?」
「手下を置いてどこかに消えたみたい。王都中を捜索したけど見つからなかったから、もう王都にはいない可能性が高いわ」
「チイヒさん!捜査内容を外部に漏らしちゃダメですよ!!」
業務上知り得た内容を、部外者に口外することは禁止されている。
生真面目で知られるチイヒだが、この場ではその原則が崩れていた。
「失礼、ちょっとよいかの?」
突如ヤサカが割り込んで来た。
「どうしたんだ爺さん」
「予定では事情聴取が終わったら、お主らに頼みごとをしようと思っておった」
「頼みって?」
「行ってほしい場所があるのじゃ」
「その前に別の用事言ってたじゃねえか。あれどうなっているんだ?」
「無属性のことかの?それと関係ある内容じゃ」
「無属性ですって!?」
その言葉にチイヒとコーフの二人は声を上げた。
「無属性ってあれよね?」
「確か…賢者と呼ばれる高名な存在でも、扱えたのは数える程度と言われています」
「そんなに凄いの?」
「まあ、学院では教えてくれなかったわね」
チイヒは肩を軽くすくめた。
「無属性は名前の通り、どの属性にも該当しない純粋な魔素だけで構成された魔法よ」
「それは聞いた。でも属性があった方が、弱点を突けるから有利なんじゃないのか?」
「その戦い方は確かに理にかなっているわ。でも無属性は弱点がない敵にも効果があるの」
「そういう理屈になるのか。無敵だな」
「でも最大の強みはそこじゃないわ」
「他にもあるの?」
「魔法の原動力、それが不純物のない魔素ってところよ」
「何がどう凄いんだ?」
「純度が高いほど伝導率が高いと聞いたことあるでしょ?」
「魔法もそうなの?」
「魔法は術者の魔力で魔素を集めて発動させるものなの。炎魔法は空気中に漂う炎の魔素を取り込む」
「それは習った」
「魔素の量は地形の影響も受ける。水の多い場所では炎より水系魔法が発動させやすい」
「それも習った」
「でも無属性は違うの。どんな地形でも魔素を集められるわ」
「属性を取り除いた魔素だけを取り出すってこと?」
「その通りよ。魔力の量と集められる魔素は比例する。でも地形の影響で変動する。だけど無属性はそれを一切受けないの」
「便利だなぁ」
「それだけじゃないわ。純粋な魔素だから属性同士の干渉も起きない。結果として威力も高くなるの」
「凄い…。それをアヤンが習得するのか」
「えっ、このお嬢さんに素質があるの!?」
チイヒが驚きの声を上げた。
「えっと…、間違いとかじゃないですか?」
突然話題の中心にされ、アヤンは困惑したように言った。
その時、ヤサカはわざとらしく咳払いをする。
一同はハッとして口を閉ざした。
「では本題に入るぞ。あの襲撃事件の前から怪しい人物がこの神殿にいた」
「怪しい人物…。その状況下にいたとなると内通者か!?」
「その可能性はある。襲撃前から頻繁に建物を徘徊したり、外へ出かけたりしておったから。そこで秘密裏に監視させていた」
「まあ怪しいな。襲撃の時は何してんたんだ?」
「前日の夜、無断で出て行った」
「明らかに怪しい!どこへ行ったか分かっているのか?」
「追わせた者の報告では、シナリニで見失った」
「シナリニって王、国内でも特に治安が悪いって言われているドヤ街だったよな」
地理に疎いユリィでも、その地名には覚えがあった。
「私も聞いたことがあります。そこの学舎では椅子や机を生徒に投げられないよう、鎖で固定してあるらしいです」
「ちょっと、その話って噂になった学院が事実無根だって抗議していたわ。いい加減な話を真に受けて広めちゃダメよ」
「あの…、卒業生が実話だと認めていたというオチがありましたよ」
「えっ…、そうなの?」
コーフの言葉に、チイヒの表情が引きつった。
「そうそう、武術大会で続対戦相手にいたけど、一年の時は会場の近くで万引きして出場停止。二年目は試合開始直前に他校生と喧嘩して出場停止。三年目はしごいた顧問を半殺しにして出場停止」
「つまり…、三年連続不戦勝ってことね」
「ずっ…、随分とやんちゃな方々が集まっているのですね」
話が横道に逸れたので、ヤサカは再び咳払いをした。
「実際のところ、ワシが若い頃から治安は相当悪かった。このような場所を潰せば住む場所を失った住人が他所で犯罪に手を染める危険がある。ゆえに王政府はあえて放置しておる」
「なるほど。問題児を一箇所に留めたのか」
「とはいえ完全な野放しではない。周囲を柵で囲み、本道以外の道は封鎖しておる。つまり街に通ずる道は一つしかない」
「じゃあ…、あいつもそこを通ったのか」
「うむ。追っ手はそこを監視し続けた。じゃが街を出た形跡はなかった」
「つまり、今もそこに潜んでいると」
「そういうことじゃ」
「ところで、無属性の習得と関係があるのか」
「それはの…、おいおい分かるぞよ」
「なんだよ、それ」
「それでの」
「話を戻されたか」
つつかれようが、ヤサカは構うことなく話を続ける。
「そやつは、とある研究の責任者だった」
「研究…」
その研究とは、おそらく暗黒魔法のことであろう。
「襲撃の直前、奴が管理する研究施設で爆発が起こった」
「うん…、偶然にしては出来すぎているな」
「部屋は跡形もなく破壊された。研究者も犠牲になった」
「酷いな」
「その場に居合わせたせいで…。悲しいことじゃ」
「ところで、何が目的なんだ?襲撃を知っていたのなら逃げればいいだけじゃ…」
「ワシは奴にあるものを預けた。保管するとしたらその部屋じゃ」
「だとしたら、爆発で壊れたんじゃ?」
「その時、そこにあればの」
話の流れからはこうなる。
おそらく“それ”は無事。
そして、それは研究者によって持ち出された。
要約すれば、それの奪取が最大の目的。
「つまり、俺たちにその街へ向かえと言うのか」
流石にユリィでも意図は読めた。
「お待ちください、ヤサカ様!シナリニは非常に危険な場所です!!」
チイヒが声を上げる。
「警備兵でも武装した一個師団で向かう場所ですよ。この二人だけで行かせるつもりですか!?」
「いやいや、カチル殿とナギ殿も同行させる」
「それでも危険すぎます!そもそもこの二人は監視対象ではないのですか!?」
「俺たちが監視対象?」
ユリィとアヤンの二人が面食らう。
チイヒはしまったという顔をした。
「暗黒魔法を間近に見た冒険者の方々は今後監視対象になります」
「なんだよ、それ!?」
コーフが代わりに答えた。
「今後行動は制限されます。従わない場合は、投獄される可能性もあります」
「……」
本来なら、国の暗部である暗黒魔法を目撃したものは口封じされてもおかしくない。
それを思えば、この程度で済んだのは穏当な処置と言える。
「だとしたら、外に出してはならないのでは!?」
「本部からは許可をとっておる」
「はあ?」
チイヒは目を丸くした。
「ワシには、この二人を手足として使う権限を与えられておる」
「いっ、いつの間にそんな手回しを…」
「そう言うわけじゃ」
ヤサカは軽く笑った。
「つまりワシからの命令は、お主らに拒否権はないということぞよ」
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