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優秀な先輩と落ちこぼれ

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 ユリィの目的地は、すでに活動を停止していると告げられた。


 だがユリィは、思ったほど落ち込まなかった。

 魔法に関する自身の能力を考えれば、魔闘家になれる望みはもともとかなり薄いと思っていたからだ。


「なんで閉鎖されたんだ?」


 諦めはつきそうだったが、顛末だけは気になった。


「反乱が起きたと聞いている。それで継続が難しくなったようじゃ」


「言い方が他人事みたいだな。すぐ近くで起きた事なのに」


「どちらも精霊術を扱う施設なのに、爺さんの言い方だと随分疎遠に聞こえるな」


「実際、そうなのじゃがな」


「事情があるようだな。今回は言ってくるのか?」


 カチルは、内情を簡単には話せない立場を皮肉るような口調で言った。


「はて、今回とは…。お主の意図が分からぬ」


 あからさまな口調でつぶやく。


「それより話を戻そう。疎遠になったのは設立に至った歴史が関係しておる」


 禁則事項には否定も肯定もしないヤサカが話を進めた。

 どうやらこれに関しては、隠し立てをする必要がないようだ。



 サカウオには、昔から精霊術を研究する家系があった。


 約百五十年前。精霊術の才を持った三人の兄弟がいた。

 次男は特に勤勉で、研究に没頭し術を昇華させようとしていた。


 しかし残りの二人は、術の修練をしながらも別の道に興味を持った。

 長男は剣術を、三男は武術を嗜むようになり、やがてのめり込んでいった。


「ヤサカ様、それはカナマヤ家の話ですか?」


「その通りじゃ。術士であれば一度は聞いたことのある名じゃろ」


 ある時、長男は王都へ剣術、三男はメウダにある道場へ武術を学ぶために家を出たいと当主に申し出た。

 当主は激怒した。

 家の方針上、到底受け入れられなかった。


 一方、次男は大事にされた。

 親の望む道を歩んでいたからだ。


 しばらくして二人は家を出た。


 結果、当主は勘当を言い渡した。

 同時に、カナマヤの姓を名乗ることを禁じた。


 以後二人は、母の姓であるヤダマを名乗ることになった。


「精霊術以外に興味を持ったせいで勘当されたのか」


「実の子供なのに…。そんなことをされたのですね」


 やがて当主がこの世を去ると、遺言に従い次男が継ぐことになった。

 術士として優秀だった彼は、ナバの神殿の長に任命されることになる。


 精霊術の研究の第一人者が長になったことで、王国のみならず近隣諸国からも精霊術使いを目指す者が神殿へと集まるようになった。


 それに伴い教育施設を創設され、やがて神殿内の術士の多くが精霊術使いとなった。

 その結果、ナバの神殿は精霊術使い育成の専門機関となった。


「そんな経緯があったのか」


 王都で修行を積んだ長男は、後に王国軍に入隊した。

 優秀な剣士として評される一方、精霊術を武器に付与した戦術を編み出す。

 やがてその功績は国王の耳に届くと、謁見が許された。


 そして国王は彼に“魔法剣士”の称号を与えた。

 さらに騎士団に迎え入れ、その部隊を創設するよう命じた。


「この流れだと、三男が魔闘家の創設者になるのか」


「そういうわけじゃ」


 三男はメウダに向かい、武闘家の集まる寺院に入門した。

 やがて兄弟子を追い越すほどの実力を身につけ、僧正から絶対的な信頼を得た。

 そして精霊術を自身に付与して戦う戦術を編み出す。


 子のいなかった僧正は彼を後継者に指名した。

 さらにその技法を新たな流派として認めた。

 “魔闘家”と命名し、極めるよう命じた。


 僧正に就任後も鍛錬を重ねた。

 やがて、その存在は武術家らに広まる。

 門下生が集まり、魔闘家を育成する道場へと至る。


 こうして三人の兄弟はそれぞれの道を歩み、三つの戦闘体系を確立させた。


「魔法剣士と魔闘家って創始者が兄弟だったんだ…」


「神殿の創設者の名は聞いていましたが、他に兄弟がいたなんて初めて知りました。それにしても、勘当された上に姓を名乗れなくなるなんて…残酷ですね」


 ヤサカから聞かされた事実に、二人は驚きを隠せなかった。

 一説では、次男が術士として最も優れていたと言われている。

 それが兄弟に確執を生むことになる。


 劣等感を抱いた長男。

 そして、序列的にも当主になれる可能性が最も低い三男。

 二人はやがて家の期待から外れる道へと進んでいった。


「つまり、創設者である兄弟が絶縁状態になった。その流れが受け継がれたせいで、爺さんの代になっても交流がなかったってわけか」


「そういうことじゃ」


「ところで爺さんの姓はトヤマモだけど、当主になったカナマヤ家の子孫じゃないってこと?」


「しばらくは世襲されておったが、先先代に途絶えた。先代は神殿内の議長の話し合いで決まった。ワシも同じ経緯じゃ」


「そんな悲しい末路になっていたのですか…」



 ナバへと向かう街道を、一台の馬車が駆け抜けていた。

 重厚で物々しい装飾が施されたそれは、王政府直属の査問機関のものだ。


 車内には、調査官の制服を身につけた二人の女性が乗っていた。

 どちらもまだ若い。


 胸元の名札にチイヒと記された女性は長身で、生真面目かつ知的な雰囲気を漂わせている。

 隣には座るのは、眼鏡を掛けたやや小柄な女性。

 名はコーフ。

 身分は補佐官だ。


「初仕事に、いきなり国の暗部に関わる案件が任されるとは思いませんでした」


「だから私が選ばれたのよ。実家の都合で、卒業前から研修で現場に向かわされていたから」


「それは分かっています。私と組まされたのも、父がチイヒさんのお父様の部下だからです。でも…本当に私で良かったのでしょうか?学院時代の成績は、チイヒさんが常にトップでしたし、進学は特別推薦。私はなんとか合格できた程度です。格が違います」


「私は学業だけがトップだったのよ。魔法の実技は、普通より少し上ってくらい」


「それでも充分すごいです」


「そういえば学院時代に、魔法とは別の分野で活躍した男の子がいたわね。王国武術大会の学生の部で優勝した子」


「いましたね。生徒会長だったチイヒさんが全校集会で祝辞をするよう先生に言われた時、嬉しそうにしていませんでした?」


「そっ…そうだった!?」


 平静を装ったが、隠し切れてはいなかった。


「学院創立以来初めての快挙でしたね」


「しかも三年連続よ」


「それ、本当に凄いです」


 直接顔を合わせたのは、その時だけ。

 それでもチイヒの記憶には、はっきり残っていた。


「卒業以来会っていないけど…今頃どうしているのかしら」


 ふいにチイヒは視線を窓の向こうへと向けた。

 流れていく街道の景色が、静かに目の前を過ぎていく。



 襲撃事件から数日が過ぎた。

 タシノキは歩き回れるまで回復している。


 だが神殿の中は、あの日以来ずっと慌ただしかった。

 負傷した術士のうち、容態が安定して動ける者は事後処理追われている。


 神殿には、報告を受け駆けつけた警備兵が駐在している。

 表向きには新たな襲撃に備えた警護。

 彼らは、関係者の外出を厳しく制限している。


 つまり、本来の目的はそちらの監視のように思える。


 アヤンは成り行きで目的地にたどり着いた。

 だが当然ながら、修行を受けられる状況ではない。


 一方、ユリィとアヤンの二人にはヤサカから任務が与えられていた。

 しかし、その詳細はまだ聞かされていない。


 今日は、王政府から派遣された調査官による事情聴取が予定されている。


 ユリィは、正直うんざりしていた。

 事情聴取というのは、何度経験しても慣れる気がしない。


 二人は応接室で待機させられた。


「何を聞かれるんだろう」


「そうですね。私達は何も悪いことをしていませんから、聞かれた事を答えればいいと思います」


 それは分かっている。

 だが、やり取りを想像するだけで気が滅入る。


「ところでアヤン。冒険者カードには確か姓がトヤマモって書かれていたけど、あの爺さんと親戚だったりするの?」


「それはないと思います。トヤマモはこの国ではよくある姓です。私のいた孤児院の院長の姓で、そこで育てられた子供はみなトヤマモを名乗っています」


「そういえば魔導学院にも、何人かその姓の人がいたな」


「私の育った孤児院は教会が運営していたので職員はいい人ばかりでした。その方達を私は親だと思っています」


 孤児であるアヤンに親族が見つかったと思ったが、そうではなかった。

 一方、ユリィもまたアヤンと似たような境遇だった。


(そういえば俺、両親について考えたこともなかったな)


 ユリィは今まで、自分の出生を深く考えたことがない。

 ふとそのことに思いが向きかけた、その時だった。


 コンコン、と扉を叩く音が響いた。


「待たせたの、お二人さん」


 部屋へと入ったヤサカの後ろには、二人の女性が立っていた。

 彼女たちが本日、事情聴取を行う調査官らしい。


 そういう職業のせいか、どこか堅苦しい印象を受ける。


「はじめまして、本日担当する調査官のチイヒです」


「私は補佐官のコーフです」


「こちらこそよろしくお願いします。私はアヤンです」


「俺はユリィ」


「調査官殿、よろしく頼むぞよ」


 ヤサカは一礼すると、そのまま部屋を出て行った。


 一同が席に移動しようとしたが、チイヒはその場に立ち尽くしていた。


「どうかしましたか?」


「そんな…。まさかこんなところで……」


 呆然と立ち尽くすチイヒ。

 その視線はある方へと向けられていた。


「あなた、魔導学院にいたユリィ君よね!?」


 突如名指しされたユリィは思わず戸惑った。


「えっ…、魔導学院にはいたけど」


「あなたが一年の頃、生徒会長だったチイヒよ!王国武術大会の学生の部で優勝して表彰された時にお話ししたでしょ!」


「ええっと…、あったような気がしなくもない」


 おぼろげだがそれと思える記憶はあった。


「覚えてくれていて嬉しいわ!」


「それって嬉しいんだ…」


 ユリィは生徒会という存在に興味がなかったため、記憶はほぼない。


「確か、三年連続優勝したって聞いたわ!凄いじゃない!!」


「うん。そいういや、二年と三年の時の生徒会の人達は形式的な拍手しただけだったな」


「その対応は酷いわ!後輩は人を祝う気持ちがないのかしら!!」


 不機嫌そうに言ったかと思うと、今度は気遣うような表情を見せる。

 ユリィはどう反応していいか分からなかった。


「ところで、魔導士のあなたがどうして武道着を着ているの?」


「えっと、それは…」


 以前とは違う展開。

 縁のある者と会ったらこうなるのか。


「チイヒさん!」


「え…」


 チイヒはハッとなる。


「思い出話は後にして、そろそろ始めませんか?」


「そうでしたわ!次きは事情聴取が終わってからにしましょう」


 一方、面倒に思っていたユリィ。

 とりあえず解放され、ほっとなった。



 しばらくして事情聴取は何とか終了した。


「お二人ともお疲れ様。これで事情聴取は終わりです」


 それを告げられると、ユリィとアヤンは揃って肩の力を抜いた。

 だが、疲労感はあまりしない。

 今回の聴取はどこか事務的で、明らかに普段より短い。


「チイヒさん、この辺とか、もう少し踏み入ったほうが良かったのではないですか?」


「本部からの確認事項は全部押さえているわ。問題はないはずよ」


「そうと言えばそうですけど…」


 一方ユリィは軽く背伸びをすると、席から立ち上がった。


「ユリィ君、今から用事でもあるの?」


「うん。そろそろ飯の時間だから食堂に行く」


「あら、そうなのね」


「アヤン。行こう」


「あっ、はい」


 ユリィの呼びかけに応じ、アヤンも椅子から立ち上がった。

 その様子を見たチイヒが突然席を立つ。


「待って…。そのお嬢さんと二人で行くの?」


「うん、そうだけど」


 言葉はどこか歯切れが悪い。

 そのうえ、チイヒの顔色がみるみる青ざめていく。


「チイヒさん、どうしましたか!?」


 突然様子が変わったチイヒに、コーフが駆け寄った。


「だ…、大丈夫よ」


「本当にそうですか?」


 心配するコーフを軽く制し、チイヒはユリィへ歩み寄った。


「ねえユリィ君」


「ん?」


「お嬢さんとは、どういう関係なの?」



 事情聴取はすんなり終わってくれた。

 だがこちらは、やたら踏み込んだ話をしてくる。


「つまり二人は、行き先が同じだからパーティを組んだのね?」


「だからそうだって言っているでしょ」


 うんざりした顔でユリィは答える。

 だがチイヒの詰問は続く。


 一方、当のアヤンは突然話題にされ、戸惑った様子で立ち尽くしていた。


「その程度の理由で、年頃の男女が一緒に行動するようになったと。そうだとしたら、寝る場所も一緒ってことになるのよね?」


「いっ、一緒って…。泊まる宿が同じなだけで、部屋は別だよ。アヤンは女の子だし」


「宿に泊まれなかった時はどうするの?」


「野宿は絶対しないようにしていた」


「そこは節度を持っているのね」


「……」


 格好に関する質問より面倒。

 ユリィの表情はさらに暗くなる。


「じゃあ聞くけど、その状況をずっと続けるつもりで旅をしていたの?」


 そう問いかけたチイヒの表情は、明らかに不機嫌だった。


「えっと…、これってどういう意味?」


 相変わらず、ユリィには質問の意図が理解できていない。

 その煮えきれない態度に、チイヒはついに痺れを切らした。


「あのお嬢さんに、何の感情も抱かないのかって聞いているのよ!!」


「かっ…感情?」


 ここまで踏み入られれば、流石に言いたい事は伝わった。


「ア…アヤンは旅の仲間だよ。俺はそう思っている」


「本当に?あのお嬢さん、かなりの美人さんよ」


「そっ…それは、えっと、思ったことはあるけど」


「でしょ!?」


「でもそれ以上は考えたことがない」


「……」


「……」


 疑いの目が向けられる。


「本当に本当?」


「…うん」


 否定はしたが、ぎこちなかった。

 アヤンの容姿に関しては、チイヒの言う通りだ。

 男の性なのか、意識したことがないわけではない。


 それでもユリィは一線を引いていた。

 目的地につけば、この旅は終わる。

 そうなれば、二人の関係もそこで終わるはずだった。


「ところでお嬢さん!学生時代は何もなかったの?」


「何もって…どういう意味ですか」


「男子生徒に言い寄られなかったのか、それを聞いているのよ!」


「えっと…、聖堂学院は男女の校舎が分けられていたので、異性交友がそもそもありませんでした」


「そう言えばあの学校はそうだったわ」


「はあ…」


「卒業後には何かなかったの?」


「卒業してからですか…?」


「仲良くなろうと話しかけてくる男の人とか」


 アヤンは心当たりを探る。


「そう言えば飲食店に勤めていた時、私がお客さんの側を通ると注文する男の人がいましたね」


「他にも何かされておない?」


「会計のカウンターに立つと急に清算しに来て、お釣りを渡す間に話しかけられていました」


「それ、あなた目当ての客よ」


「そっ、そうなんですか!?」


「あわよくば仲良くなれると思って通っていたのよ」


「だからいつも嬉しそうに…」


「本当に気づかなかったの?」


 チイヒの表情は明らかに苛立っている。


「チイヒさん、これくらいにしてあげて下さい」


 見かねたコーフは止めに入った。

 だが睨みつけられると、思わずたじろいだ。


 アヤンは育った孤児院は、職員が全員女性の女子専用だった。

 そのため幼い頃から、男性との接点がほとんどないまま育ってきた。


「あの、ユリィさんは私を無事に届けるために手を貸してくれただけです!」


「そっ、そうだよ!アヤンはよく誘拐されるんだ!」


「ゆっ…誘拐!?」


 穏やかではない言葉。

 チイヒは二人から詳細を聞いた。


「それはいくら何でも多すぎますね」


「アヤンは見た目がいいから標的にされるんだよ」


「そっ、そんなことありませんよ…」


 アヤンは慌てて謙遜した。

 だが、今のチイヒには嫌味にしか聞こえない。


 ユリィは今までに起きた事件を話した。


「偶然の犯行とは思えないわ。しかも誘拐に失敗した被疑者が全員死亡している。関連性があるとも考えられるわ」


 可能性は高い。

 だが証拠がない以上、断定はできない。


 突如、慌ただしい足音が廊下に響いた。

 会話が中断される。


「騒々しいな」


 扉が開いた。

 そこからヤサカに同行していた術士が現れた。


「失礼します!ヤサカ様からの伝言です!!」


 急いでいたようで息が上がっている。


「どうかしましたか?」


 ただならぬ緊張感が漂っている。


「捕らえた賊が全員死亡しました」

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