国家の闇に踏み込んでいた落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
賊は撃退された。
平穏も束の間、すぐさま神殿内は騒然となる。
多くの者が命を落とし、生き残った者の大半も負傷していた。
軽傷の者はすぐに救援へ回る。
幸い術士の集う神殿。治療を行える者は多かった。
その中でも、ナギの回復魔法は群を抜いていた。
「はい、次はあなたね」
ナギの前には負傷者が列を作っている。
重傷でなければ、動ける程度には回復させられる。
一方、アヤンは早々に魔力切れになっていた。
そのため、負傷者が運び込まれる部屋で手伝いをしている。
そこには、意識が回復しない者も並べられていた。
その中の一人に、タシノキがいた。
「タシノキさん…」
ナギの治療は受けている。
だが、目を覚ます気配はない。
アヤンは時間を見つけては様子を確認していたが、状態は変わらなかった。
一方ユリィは、根城から呼び寄せた冒険者と共に負傷者の搬送や瓦礫の撤去に追われていた。
「どうやら一段落ついたな」
一同が休憩に入ると、何人かが深くため息をついた。
冒険者は職業柄、人の死に触れる事は多い。
それでも遺体を目の前にするのは、やはり耐え難い。
まもなく、警備兵による現場検証が始まる。
自分たちにできることは、ここまでだ。
今回も功労者となったユリィだが、気分は複雑だった。
後処理に追われ、考える余裕がなかった。
だが今となって、ふと頭によぎる。
立ち去る直前、カリアンが口にした言葉だ。
“例の娘が目の前におります”
奴もアヤンを狙っている。
そう受け取るのが自然。
そもそも、なぜ野盗が暗黒使いと繋がっていたのか。
理由はまったく見当がつかない。
その時だった。
こちらへ駆け寄ってくる仲間がいた。
「みんな、タシノキが目を覚ましたぞ!」
「本当か!?」
救護室の前には冒険者が集まっていた。
だが、全員で入るわけにはいかない。
代表として、カチルとナギが中に入ることになった。
その時、術士を従えた老人がこちらへと歩いてきた。
やはり神殿内でも地位の高い人物らしい。
「失礼しますのじゃ。それから、お主も来なされ」
「えっ…、俺も?」
老人はユリィに声をかけた。
促されるまま部屋に入る。
それに従い部屋に入る。
寝台の傍らには、カチル、ナギ、そしてアヤンがいた。
「みなさま方、今回は我々を救っていただき感謝の言葉もありませぬ。ワシはヤサカ・トヤマモと申す」
ヤサカは、名乗ると同時に頭を下げた。
「あっ、えっ…」
急にアヤンが慌て始める。
「どうしたの?」
「あの方なんですけど…」
「あの爺さんだどうかしたの?」
アヤンは、恐る恐るヤサカに尋ねた。
「失礼ですが…、ナバの神殿のヤサカ様ですか?」
「そうじゃ。ワシがそこの神殿長じゃ」
「……」
アヤンは唖然となる。
「ナバの神殿ってなんだっけ?」
「私の目的地ですよ」
「そういえばそこだったな。ところで、そこのお偉いさんがなんでここにいるんだ?」
ヤサカと周囲の術士達が顔を見合わせた。
そして不思議そうに首を傾げる。
「なんでとは…。それは、ここがナバの神殿だからじゃよ」
「ここがナバの神殿!?」
一同が騒然となる。
転移された場所。
そこが、アヤンの目的地だったとは誰も思っていなかった。
「何じゃ。知らずにここに来たのかの?」
「だって私たち…、正門から入ったわけじゃないから」
「そういや、聖魔の杖の保管場所はここだった」
カチルは思い出し納得する。
「なるほど。だから精霊術を使えたのか」
「私の知らない高等術…、神殿長様だから扱えたのですね」
アヤンはようやく合点がいった。
だが同時に、ここが目的地だと気づかなかった自分が少し恥ずかしくなる。
「お前ら…、静かにしろ」
気怠そうな声が響いた。
普段とは違い弱々しい。
そもそもここへ来たのは、タシノキの容態を確認するためだった。
「タシノキ、無事だったか」
「心配させたな。それより、ナバにまで飛ばされたとは思わなかった」
「どうりで術士が多いわけだ。初めて来た場所じゃ分かるわけもないか」
「俺もそうだ」
軽い談笑が終わる。
タシノキはゆっくりと身を起こし、ヤサカと向き合った。
「お主が冒険者一行のリーダーかね。今回は本当に世話になりましたのじゃ」
「礼はいらない」
「ご謙遜を」
「本当にどうでもいい。それより聞きたい事がある」
詰めるような口調。
同時に、部屋の空気が張り詰められる。
「なんで奴らに狙われた」
遠回しな言い方はしない。
タシノキはいきなり核心を突いた。
「うむ、それか…」
「特に暗黒使いだ。そんなのが出てきた心当たりを聞きたい」
今回の襲撃は、ただの物盗りとは思えない。
核心を問われ、ヤサカは眉間に皺を寄せた。
「どこから話せばよいか…。その前に、お主ら出て行ってはくれぬか」
込み入った話になるらしい。
ヤサカは、取り巻きの術士たちに人払いを命じた。
扉が閉まるのを確認すると、話を再開する。
「聞かれたくない話があるのか」
「それは、そちらの想像に任せよう」
はっきりとは言わない。
だが、隠すつもりもないようだ。
「言える範囲でいい。聞かせてくれ」
「では、そこの若いお二人。暗黒魔法についてどこまで知っておる?」
「学院で習った知識程度かな。禁呪だってことは覚えている」
「私も、その程度しか知りません」
「教育機関の方針はそうであったか」
答えを聞くと、ヤサカは意味ありげに顎に手を当てた。
「では、そこの魔導士殿。簡単に説明してやってもらえぬか?」
ヤサカはカチルを指名した。
「俺に言わせるのか?まあいい…」
カチルは軽く肩をすくめる。
「禁呪に指定されたのは国家間の取り決めだ。だから習得はおろか研究も禁止されている」
それは授業で教わった内容だった。
「理由は発動の原理」
他の属性は詳細まで教えられた。
だが、闇属性は何も教えられなかった。
「魔法のエネルギーは、魔界から魔素を引き出して使う」
火や氷などの属性は、自然界に多く存在する。
だが、人間界には闇の原資はほとんどない。
「扱い損なえば、大災害を起こす危険性がある」
「恐ろしい話ですね…」
「そんな危険なものだったんだ」
寝る子を起こすな。
下手に知識を与えると、興味を持たせてしまう。
「良い解答じゃ」
ヤサカは拍手で応える。
「ではそれは守られていると思うかの?」
「国家間の約束だろうが、破る国は破る」
「ふむ…」
「禁止されたらやりたくなるのが、人間の性だ」
ヤサカは質問を小出しに続けた。
まるで、自分からは核心に触れぬよう誘導しているようだ。
「禁止されているはずの暗黒魔法を、王政府の主導で研究している。それにここが一枚噛んでいるんじゃないのか?」
タシノキが口を挟む。
痺れを切らしたような口調だった。
その仮説は、国家の信頼に関わる危険な内容だ。
「そっ…そんなことが他国に知られたら、信用を失うんじゃないのか!?」
「最近まで学生だったお前は純粋だな」
カチルが軽く笑うとタシノキも釣られる。
「とうの昔にバレている」
「えっ…じゃあなんで問題にならないの!?」
「そもそも、どうしてバレたのですか?」
「同盟国同士でも間者は送り込むものだ。お互い秘密裏に研究していることを、すでに把握し合っている」
「みんな破っている…」
「そうなれば誰も責められない。結局は黙認だ」
「国同士の約束を、そんな簡単に…」
二人は衝撃を受けていた。
だが、タシノキとナギは当然のような反応をしている。
国家や巨大組織とは、常に腹の探り合いをするもの。
一方ヤサカは、この推測を否定もしなければ肯定もしなかった。
ただ、静かにそのやり取りを見守っている。
「そんな危険な魔法を、どうして研究するのですか?」
「抑止力よ」
ナギが答えた。
「暗黒魔法の中には、一撃で数千の兵を葬るものがあるらしいわ。もし習得されていたら、簡単には手が出せないでしょ?」
その言葉には説得力があった。
同時に、人の醜さを物語っている。
「でも、秘密なら使いようがないんじゃないの?」
「歴史上、天変地異によって一夜で滅んだ街がいくつもある」
「そっ…、そんなのがあるの?」
「歴史の授業で先生の小話で聞いたことはあります」
「だが…、その中には本当にそうか疑わしいものもある」
「暗黒魔法が使われた!?」
「その可能性はある。つまり、災害に偽装すれば使いようはある」
「それにしても、一撃で街を滅ぼしてしまう魔法が存在するなんて…。考えただけで恐ろしくなります」
「暗黒魔法は魔界から呼び寄せる魔素が多ければ威力が上がる。言い換えれば、術者にどれだけ魔素を呼び込む能力があるかが重要になる」
「なんか、難しい話になってきた…」
情報量の多さに、ユリィは既についていけれてない。
「それができるのは、結局のところ上級魔導士の中でも特に優秀な連中だがな」
「とっ、とにかく…俺には次元の違う世界の話だ」
「はあ…、そのようですね」
言葉程度しか知らなかった闇属性。
その実態は、想像以上に重いものだった。
「ところでだけど…。あんたの周りって、誰も手を出していないの?」
「いい疑問だ」
カチルは軽く手を叩く。
「これは一個人が研究できるようなものじゃない。施設や設備が大掛かりで、莫大な資金が必要だ」
「そんな大ごとなの?」
「ああ。国家規模の後ろ盾が必要だ」
「さっき、王政府の主導って言ったな」
「情報漏洩を防ぐため、関わった人間の監視も必要になる。金だけじゃなく多くの人手大必要だ」
「規模がデカすぎる…」
「誰でもできることじゃないって訳だ」
「にしても、そこまでして研究したいのか…」
「これに費やすお金と労力を、平和のために使おうとはしないのですね…」
防衛のため、人はついに大量虐殺すら可能な研究に手を染める。
その実情を知り二人は愕然とした。
一方、ヤサカはその話をまるで当然のことのように聞いていた。
「おい爺さん。俺たちをここに集めてこんな話をさせたのは、暗黒魔法に関わる何かがあるんだろ?」
タシノキは寝たままだったが、その言葉には周囲の空気を張り詰めさせるほどの重みがあった。
「コイツはまわりくどいやり取りが嫌いだ。簡潔に言ってくれ」
「ふむ、お主らにしか頼めない案件がある」
「俺たちにしかか。それは暗黒魔法を見てしまったからか?」
「それもあるが、この少年とお嬢ちゃんがいるからじゃ」
「この二人…」
「いや、この二人が必要不可欠なのじゃ」
「俺と!?」
「私!?」
「まずは嬢ちゃんに無属性を習得してもらう」
ヤサカから使命を告げられたが、二人は反応に困った。
「私は存じ上げないのですが、それはどのような属性ですか?」
「俺も初めて聞いた」
告げられた属性は、二人が聞いたことのないものだった。
「確か、どの属性の影響を一切受けていない属性だったな」
「それって伝説みたいなものじゃないの?」
「おお、そちらのお二人は知っておられたか」
カチルとナギには多少の知識があった。
「確かに伝説と呼ばれても致し方ない。何しろ扱える者がこの世に一人いるかどうかと言われておる」
「不純物を完全に除いた魔力を用いるって難解すぎる仕組みだったような…。それをこの娘が習得できると言うのか?」
「うむ、お嬢ちゃんには素質があるのじゃ」
「ちょっと待ってください…。そんなものの素質が、本当に私にあるのですか?」
「そのうち分かる」
そのような返答で、理解などできなかった。
「あとのぉ、お嬢ちゃんの能力を最大限に発揮するには、そこの少年が重要となる」
「俺が!?」
今度はユリィに視線が向けられた。
その反応に戸惑う。
だが、その時。
(そうだ)
ユリィは重要なことを思い出した。
「爺さん、アヤンの役に立てるなら俺は手を貸したい。でも俺はこれからメウダ寺院に用がある」
「メウダ寺院じゃと。ニシにあったあれのことかの?」
「知っているのか!?」
ユリィとアヤンの目的地は近い。
だとしたら、知っている者がいてもおかしくはない。
新たな情報を聞けると思い、ユリィは色めき立った。
だが、ふと聞こえたある言葉が引っかかった。
「ところで爺さん。今『あった』って言い方していたけど、何でそういう言ったんだ?」
普段なら、聞き流す言い回しだった。
しかし今回は妙に気にかかった。
同時に胸騒ぎもした。
「用があるのに知らぬのか?」
「まあ、そうなんだけど」
「本当に何も知らんようじゃな」
ヤサカは軽く息をつく。
「そこは十年以上も前に閉鎖されておる」
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