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ならず者の街に繰り出す落ちこぼれ

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

「おい、ここだ」


 通りにある巨大な建造物。

 カチルが指差す方角にそれがあった。


「これ本当にお役所?」


 ユリィは唖然となる。


「廃墟みたいですね…」


 アヤンも同意見だった。

 確かに外装は酷い有様。

 しかし、この街ではまだマシな部類に入る。


 街全体が貧民街と揶揄されるシナリニ。

 その中にある王政府直轄の施設。

 近くには警備兵の詰め所もあり、周囲と比べればかろうじて体裁は保たれている。


 それでも、落書きや投石といった悪戯は絶えない。


 ヤサカの指示に従い、一行が訪れたのはこの庁舎だった。


「ほら、入るぞ」


 カチルが扉を開ける。

 入り口の受付には肘を突きながら欠伸をする職員の姿があった。


「ちょっと、あんた」


「ああ?」


 大通りですれ違った警備兵もそうだったが、ここの職員もガラの悪さがにじんでいる。

 公職員であるはずだが、明らかに民度が低い。

 あえて、そういう人間を派遣していると考えてしまう。


「庁舎長に用がある。紹介状だ」


 ヤサカから預かった書状を受付に渡す。

 それを開くと、めんどくさそうな表情で目を通した」


「神殿長の署名…。本物のようだ」


 そう言うと、頭を掻きながら立ち上がった。


「ついてきな」


 気だるそうな職員に引率され、一行は応接室へと案内された。


「……」


 室内を見渡し、ユリィは言葉を失う。


 庁舎にしては質素すぎる。

 来訪者を迎える最低限の体裁こそ整ってはいるが、高価な調度品は一切ない。

 盗難の恐れがあるからか。

 この街なら、王政府の施設であっても盗みは起きそうだ。


 しばらくすると一人の男が部屋へと入って来た。


 身なりは整っている。

 しかし、このような街へ派遣されている役人。

 制服を脱げば、渡世人と見間違えられても不思議でない雰囲気をしている。


「遠路はるばるよく来て下さった。私が庁舎長のコリジだ」


「私は王都から派遣された調査官のチイヒです。こちらが補佐官のコーフ。それから冒険者のカチル、ナギ、ユリィ、アヤンです」


 暫定的なリーダーはカチルだが、このような取次は社会的信用の高いチイヒが務めることになっている。


「書状はヤサカ殿からだな」


 コジリは封を切り、中に目を通した。


「ふむ、久々に一献やりたいか…」


 軽く舌なめずりをした後、喉を鳴らす。


「一献?」


 一方、チイヒは思わず声を漏らした。


「なんだ、教会関係者も多く参加するのか。これではただの接待ではないか」


「……」


 チイヒは固まる。


「ノウテンジまで出向かなくてはならんのか…。日帰りはできんな」


「あっ、あのぉ…」


「おや、どうかしましたかねチイヒ殿?」


「えっ、いや…」


 チイヒは口ごもった。


 書状の内容は聞かされていない。

 封蝋が施されていたため、途中で確認することもできなかった。


 完全な予定外。


 内容は協力要請。

 そうとばかり思い込んでいた。


「書状の中身に不備でも?」


「いえ…」


「うん?」


「ただ、このような事を伝えるために、ヤサカ様がわざわざお書になるとは思わず…」


 チイヒは慎重に言葉を選んだ。

 本音では叱責したい気分だが、相手は庁舎長である。

 ぐっと飲み込む。


「なあ調査官殿」


 カチルが口を挟んだ。


「ヤサカの爺さんからの使命は覚えているか?」


「はい、大体は」


「その話題に触れる時は、何に気を付ける?」


「部外者に聞かれない様に留意します」


「分かっているじゃないか」


 カチルはフッと息を漏らす。


「じゃあそんな内容を、書面に書くなんて危険すぎるだろ」


「はっ…」


 チイヒは目を見開いた。


「いっ、言われてみれば確かに…」


 指摘され気付いたチイヒを見て、カチルは呆れた様に息を吐いた。

 ナギは横で肩を震わせている。


「気づいていなかったの?」


 ナギがくすくすと笑う。


「ヤサカ様は、隠語を使っているのよ」


 機密事項を扱うのであれば当然の配慮だった。

 しかしチイヒは、その意図が読めていなかった。


 今回の指令には、禁呪である暗黒魔法が関わっている。

 もし、その内容を書かれた文章を紛失することにでもなれば。

 部外者の目に触れ、国家を揺るがす事態になりかねない。


(そうだった。私たちは国の暗部に関わった人物を捜索しようとしている)


 事情を理解した瞬間、チイヒは小さく肩を落とした。

 文面をそのまま受けてしまった自分が、急に恥ずかしく思えてきた。


「そうなの?」


 ユリィは首を傾げた。


「私も、単に能天気なだけだと思っていました」


 アヤンもぽかんとした表情で言う。

 だがそれを見て、チイヒは安心するどころか、余計に複雑な気分になる。


「お前らも、おかしいと思えよ」


 カチルは再び呆れ出す。


「そんな言い方してあげないでよ…。まだみんな若いのよ」


 チイヒは目を伏せたままだった。

 その言葉は慰めにはならず、むしろ胸に痛く響くただけだった。


「ねえ、コーフさん」


「はい?」


 チイヒは小声で聞いた。


「あなたは分かっていたの?」


 コーフは小さく頷いた。


「勿論です。ヤサカ様が相当慎重な方だということは、先日のやり取りで十二分に承知しましたから」


「……」


 チイヒは更に気まずくなった。


「ヤサカ殿の要望には、可能な限り応えよう」


 コリジはヤサカと同じく遠回しな表現を好むようだ。

 言葉を噛み砕けば、協力は得られる。


「あ…、ありがとうございます、コリジ様」


 チイヒは軽く頭を下げた。


「ところでチイヒ殿。この街には、他の街では手に入らない物を手配するのが得意な方がいるようです」


「珍しい物…、ですか?」


「そうとも言えますね」


 コリジは意味ありげに口元を歪めた。

 その表情から、チイヒはこれが単なる雑談ではなく『助言』であると察する。


「これは私の知人から聞いた話です。あの辺りには、それらを取り扱う商人がいるそうです」


 そう言って、コリジは窓の外を指さした。

 つられてユリィも視線を向ける。


「どこ?」


 目を凝らして探すが、そこに広がっているのは、無秩序に建て増しされた粗末な家屋ばかりだった。


「あの辺じゃないですか?」


 アヤンの言う場所は、街に唯一ある大通りから完全に逸れた場所。


 チイヒも目を凝らす。

 しかし、そこへ通じる道を見つけられない。


「どのように行けば良いのですか?」


「大通りの赤い幌がある店が見えますかな?」


「えっと…、はい」


「その裏にある側道から行けますよ」


 そもそも、この大通り自体が異様だった。

 露店が遠慮なく道路へせり出し、道幅を圧迫している。


 本来なら馬車が行き交う通りのはずだが、ここでは一台通るのがやっとだ。


「では…、そこを目印に行ってみます」


 チイヒが言うと、コリジは小さくうなずいた。


「あと、これも私の知人から聞いた話ですが」


 呼び止めるように、コジリは言葉を継ぐ。


「そのような商売をしている者たちの間にも、どうやら規律はあるようです」


「規律…ですか」


「左様。もしそうであれば、それらを取りまとめている人物に当たれば、案外早く辿り着けるかもしれません」


 回りくどい言い方だが、チイヒはすぐに意図を理解した。

 一方、ユリィは眉をひそめる。


「なあ、どういう意味なんだ?」


「つまりだな、無秩序の中にも秩序があるって意味だ」


 カチルが小声で説明する。


「それにしてもあの人、知り合いが多いんだな」


「あのな、本当に『知り合いの話』なワケがないだろ」


「ワケがないって、どいういう事?」


「実際は、庁舎長が直接見聞きした話だ」


 この街の警備兵は、正直言って機能しているとは思えない。

 それでも、完全な無法地帯になってない理由がある。


「ならず者との付き合いがあるって意味?」


「ああ。あの人は平和な街の役人よりも、遥かに大変な仕事をしている」


 コリジが王政府から派遣された本来の役目。

 それは街の有力者たちとの裏取引。


 ある程度の悪事には目を瞑る。

 その代わり、街が暴走しないよう管理させる。


「ふむ…。裏社会を取り締まれるのは、裏の人間だけ、か」


 コジリの低い呟きに、二人ははっとして口を閉ざす。

 どうやら会話は聞こえてたいたらしい。


「本日はご教授ありがとうございます。では私たちは、そちらへ向かってみます」


 チイヒは素早く話を切り上げた。


「それでは、お気をつけ下さい」


 一行はそのまま部屋を後にする。


 この街が厄介であることは、充分すぎるほど理解できた。

 得られた情報はある。だが、接触すべき相手は自力で探すしかない。


 つまりは、聞き込み。


 だが、それが簡単にできる街ではないことは、誰の目にも明らかだった。



「次から次へと!」


 カチルが苛立った声を上げた。


 事の発端はこれだった。


「ここの元締めってどこにいるの?」


 ユリィがそんな尋ね方をした。


 この一帯は一応、商業区域らしい。

 しかし、他の街のそれとはまるで違う。


 露店とも倉庫ともつかない建物が乱雑に並び、まともな店らしい店はほとんどない。


 その中で、かろうじて商売をしていそうな建物を見つけたユリィは、そこの主人に声をかけた。


 主人は一度、奥へ引っ込んだ。

 そして戻ってきたと思うと、ユリィたちを店の外へと誘導した。


 そしてそこには、ガラの悪そうな男たちが埋め尽くしていた。



「もう少し遠回しに言えないのか!?」


「そうよ!」


 カチルとナギの叱責で、ユリィの表情がひきつる。


「聞き込みってのには順序があるんだ!!」


「いくら若いからって、それくらいは考えなさい!」


 今回はナギもかばってはくれない。


 怒鳴り怒鳴られながらも、三人は迫ってくる男たちを迎え撃っている。


 ユリィは体術で迎え撃つ。

 踏み込んできた男の腕をとり、そのまま背負い投げで地面に叩きつける。


 一方、カチルとナギは杖で薙ぎ払う。

 魔法職ではありながら、その動きは洗練されていた。

 二人とも杖術の使い手でもあった。


「へえ、接近戦もできるんだね」


 カチルが男の脇腹に一撃を叩き込む。


「まあな、一応冒険者だからな!」


「街のチンピラぐらいなら、魔法なしでも戦えるわよ!」


 ナギもまた、軽やかな動きで相手をいなしていく。


 この密集した区画では、魔法を使うわけにはいかない。

 炎系は火災を引き起こし、風系は粗末な建物を破壊する。


 魔法一つで大惨事になりかねない。

 だからこそ、三人は武術で戦うしかなかった。


 一方その頃。

 アヤンたち三人は店の中へ避難していた。


「なんでこんな目に…」


 コーフは涙目で震えながら、チイヒの背に隠れている。


「ユ…ユリィ君も悪気があったわけじゃないから」


「……」


「ほら、頑張ってなんとかしてくれているでしょ」


 チイヒは必死にフォローした。

 だがコーフの表情は晴れない。


 一方、アヤンは静かに外の様子を観察していた。


「この程度の人達なら、私の加護がなくてもなんとかなりそうですね」


 その声は落ち着いている。


 少し前まで、平和な学院生活を送っていた。

 だが、冒険者になって以降それは一変する。

 そして今では、こうした光景に慣れてしまった。


「これって、私たちの業務に含まれているのですか?」


 ジト目でコーフがぼやく。

 もっともな疑問だった。


 本来、調査官は現場に出る立場ではない。

 今回は本部に要請で同行しているに過ぎない。


 だが、その結果がこれだ。


「これも経験だと思いましょ」


「はあ…」


「現場を知らないと、机上の空論に陥るものよ」


 弁明はしたが、それでも表情は不服なままだった。


「そうかも知れませんが、この場所に来るという経験が役に立つとは…」


 突如言葉が遮られる。

 その口元には人の手。


「っ!?」


 背後から腕が回され、体が引き寄せられる。

 声が出ない。

 何者かに羽交締めにされ、そのまま暗がりへと引きずり込まれていく。

 抵抗する間もなかった。


「私はそう考えることにしたわ」


 話を続けていたチイヒは、ふと違和感に気づく。

 いつの間にか相槌がなくなった。


「コーフさん…?」


 視線を向ける。

 そこには、誰もいなかった。



 数こそ多かったが、三人にとって脅威ではなかった。

 気がつけば、周囲には伸びた男たちが重なるように転がっている。


「こいつら、何か知ってるのかな?」


「お前のせいで聞けなくなったんだろうが!」


 苛立つカチルに突かれ、ユリィは萎縮する。


「ちょっと!その上の人どかしてくれる?」


 ナギが指さした先では、男たちが何層にも重なって倒れていた。


「このままだと、下にいる人が窒息するわ」


 狭い通路で戦ったせいで、何人かがは下敷きになっていた。


「仕方ないな…」


 面倒だが、放っておけば命に関わる事態になりかねない。

 ユリィとカチルは、ナギの言葉に従って男たちをどかし始めた。


「こいつ重たいな」


「力仕事はお前の得意分野だろ?」


 ぼやくユリィにカチルが皮肉る。

 ぶつぶつ言いながらも、ユリィたちは男たちを上から順に引きずり下ろしていく。

 やがて、一番下に埋もれていた男を引き出した。


 男の顔は赤く染まり、荒い呼吸をしている。

 もう少し遅ければ、本当に窒息していたかもしれない。


「これで最後か」


 三人は救い出した男たちを、通路の端へ並べていく。

 岸に打ち上げられた魚のように、ぐったりと横たわっていた。


 その時だった。

 勢いよく建物の扉が開く。


「ユリィ君!大変!!」


 チイヒが飛び出してきた。

 顔色が明らかに変わっている。


「大変って、どうしたの?」


 ユリィが振り向く。

 チイヒは息を切らしながら叫んだ。


「コーフさんが、いなくなったの!!」

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