再び絡まれる
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ X1にイメージイラストがあります
一般的に魔法職は攻撃力が低く、非力だと思われている。ましてや登録したての初心者であれば、力押しで何とでもできる。ユリィが標的にされたのはその固定概念ゆえだろう。しかし、それが通用しない魔導士に出会ってしまった。
「こんな魔導士と戦えるか!!」
捨て台詞を吐いたユキンリは一目散で逃げ出した。
「お前!先に逃げてんじゃねえ!!」
見捨てられた仲間達の怒号が路地に響き渡る。我先にと追いすがり、逃げ去っていく様はどこか滑稽だった。
「登録していきなり誘われるなんて、やっぱり出来すぎているな」
ユリィは小さく息を吐いた。未遂に終わったとはいえ、被害に遭った事実は変わりない。今回は返り討ちにできるような相手だったのが、幸いだった。このような事例は例外で、本来初心者狩りに遭えば無事では済まない。
強盗だけではない。囮や捨て駒として使い潰され命を落とす者、人身売買組織に売られ、強制労働や人体実験に使われる者もいる。パーティ内に死人や行方不明者が出るとギルドへの報告が義務付けられている。しかし現場が捜索困難な場所で、尤もな理由を添えれば深く追及されにくい。冒険者という職が死と隣り合わせであること、それが横行する一因でもある。
把握されればギルドは厳罰を科す。それでも被害が絶えないのは、手口が狡猾で、証拠を掴むのが困難なためだ。
一行を見送りユリィは一息ついた。一仕事を終えた気分になったユリィはここで大事な事に気づいた。
「しまった!帰り道を聞いていない…」
本来の目的はそれだった。追いかけようと思ったが、距離が開いた今からでは余計に迷う危険性がある。
「自力で帰るしかないか」
ユリィは向きを変え、再びギルドを目指す。記憶の中の景色を頼りに進むが、それは正解にも間違いにも思えた。懸命に思い出しながら道を進む。記憶に自身がない、でも合っている気はする。しかし似たような景色が続くだけ。やがてユリィは受け入れることにした。
「迷っているな…」
立ち尽くしたユリィは途方に暮れた。だが立ち止まっても何も解決しない。考えを変え、ギルドではなく、まずは大通りへ出る。王都のどの位置にいるかを把握できれば帰れる。気を取り直し、ユリィは足を踏み出そうとした。
「こっちに来い!」
争うような物音が路地の奥から聞こえてきた。
「いやっ!」
声がした先では取り押さえられ抵抗する少女の姿がある。
「待ちやがれ!」
押さえつけたのは見るからにゴロツキの風体をした男。少女は懸命に抵抗を続ける。
−これって…誘拐だよな−
目の前の光景にユリィは唖然となる。少女は涙目になる。無駄とは分かっていても抗い続けている。
「あの娘は…術士か」
少女が羽織るローブが術士用の形状であることに気づく。あまりの衝撃にユリィの意識は分析を始めていた。
「逃げられてんじゃねえよ!」
仲間が増援として駆けつけ少女を取り囲む。
「手間かけさすな!」
状況的には絶望的。それでも少女は諦めようとはしない。
「暴れるな!」
「いい加減にしねえと痛い目に遭わせるぞ!」
男は乱暴に少女の髪を掴んだ。
「バカ、やめろ!絶対傷つけるなと言われていただろうが!!」
「ああ…、そうだったな。ちっ、面倒くせえ」
仲間からの静止に男は従い渋々手を離した。
「それより…、さっきから向こうに誰かいるが」
指摘と共に視線がユリィの方へと向く。
−これって、俺のことだよな…−
ユリィは周囲を見回す。間違いはないようだ。
−このような場所で誘拐現場に遭遇すれば目撃者は…−
この後の展開は予想できる。
「おい、そこの魔導士!」
やはり、そうなった。ゴロツキらは腰からエモノを抜くと、じわじわ近づいて来た。
「じっとしていたら楽に死なせてやる」
「こっちは忙しいんだ!」
「魔導士が俺らに勝ち目はねえ、それくらい分かるだろ?」
既視感、というか先程と同じ展開が起きる。
−同じ日に二回絡まれる!?−
ユリィはうんざりする。今回はさっきのチンピラとは違い本職。口封じをしようとしている。だが、返り討ちにできる相手。
「話が分かるな。助かるぜ」
ユリィはじっと間合いを測る。あと一歩の距離にまで近づく。だがその時、少女が再び暴れ出した。
「その人は関係ないわ!手を出さないでください!!」
「黙れ!」
ゴロツキは少女の口を塞ぐ。一方反撃に出る寸前だったユリィは急いで構えを解く。今ので調子が狂いかけた。
「おい、さっさとソイツをやれ!!」
「おっ…おう!」
男は指示に従い、ユリィの喉元へとエモノを突き出した。
「いでっ!」
間合いへと踏み込む、その瞬間が訪れる。ユリィの杖が、鋭く男の手首を打ち抜く。男は悲鳴と共にエモノを落としうずくまる。樫製の杖は骨を折らずとも、行動不能にさせる威力がある。
「あの魔導士、反撃しやがったぞ!」
完全に予想外の行動。修羅場を潜ってきた奴らの驕り。そんな相手でもユリィは臆さない。面食らった男達に、次はユリィから攻撃を仕掛ける。
「うぐっ!」
「ぐわ!!」
次々と手首を叩き、武器を封じる。
「魔導士のくせにでしゃばりやがって…」
最初に打たれた男が、震える手でエモノを拾い上げる。まだ痛むのか、利き手を押さえている。
−杖術の試合なら、もう勝敗はついているんだけどな…−
男は怒りに満ちた目を向け、構え直した。それに対しユリィも構え、次の手を探る。手首への攻撃は一時凌ぎに過ぎない。実戦は試合とは違い、相手を戦闘不能にしなければ何度でも攻撃は続く。
−この攻撃はかなり痛いけど、仕方ないか–
男が再び襲いかかる。ユリィはそれをかわし、杖を振り上げた。
「ぐはぁ!」
今度は左の肩口を狙って、杖を振り下ろす。男は肩を押さえ悶えた。杖術での有効技の一つ。生身ではその痛みは計り知れない。杖術では防具の着用が義務付けられているので、安全は確保されている。
一方、仲間が倒される光景を見て、残った男達は慌て出す。
「メチャクチャ強えぞ。魔導士なのに」
「こんな魔導士、初めてだ。油断しちまった」
−やはり、こういう反応になるか…−
「いくら強くても、全員でかかればなんとかなるんじゃ?」
「よし、それでいくぞ!」
号令と共に、男達が一斉にユリィへ飛びかかる。だが、ユリィは冷静だった。距離を詰める速度にばらつきが起きる。その隙を逃さない。
杖術の有効技には三種類の『振り落とし』、そして『突き』がある。前者は手首、肩口、そして頭頂部。防具のない相手に頭頂部の攻撃と突きはできない。だがユリィには十分だった。
やがて雁首揃えていたゴロツキ達は地面に転がり、立っているのは少女を拘束する男一人だけになっていた。
「ち…近づくなぁ!」
男は震える手でエモノを抜き、少女の喉元へ突きつける。
「待て!傷つけるなと言われてただろ!?」
「うるせえ!この状況で言ってられるか!!」
仲間の生死も耳に入らない。ユリィは足を止め、杖を下ろした。
「よし、そのまま動くな…」
声はかすかに震えている。だがユリィが従ったことで、男の表情にわずかな余裕が浮かんだ。
「この人の言うことになんて従わないで下さい!!」
少女が叫んだ。
「このアマ!」
男は力を込め押さえつけるが、少女は怯まず続ける。
「通りすがりのあなたが私のために犠牲になる必要なんてありません!」
「黙れ!」
刃に力がこもる。しかしながら少女の言葉は正論だった。ユリィは、少女の誘拐現場に居合わせただけ。会ったばかりの相手のために、犠牲になる義理など本来ない。
攻撃する気配どころか、逃げる様子すら見せないユリィを見て、要求が通ったと判断した。少女を拘束したまま、じりじりとユリィに近づく。
「魔導士、女にその杖を渡せ」
少女を盾にし、完全な優位を取るための要求だった。
「…わかったよ」
ユリィは一歩、距離を詰める。
「待て!その位置から渡せ。ゆっくりとだ」
指示通りにするには、杖の先端を持たないと届かない。男は自身より小柄な少女の背後に身を隠し、必死に身体を縮めている。卑怯だが、男にはそれしか方法がなかった。
「どうして、私のために…」
少女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「掴め!早く!!」
受け取ってしまえば、男がさらに優位になる。少女は渋り抵抗したが、最終的には受け取り、わずかな時間稼ぎで終わった。
「ごめんなさい…」
男はそれを見届けると、少女を拘束する腕に力を込めた。
「魔導士ぃ!じっとしていろよ!!」
男は少女を密着させながら、慎重に後退する。数歩下がったところで、背中に壁が当たる。
「行き止まりか」
次の行動に迷を決めかね、男が一瞬迷う。その刹那、少女はある考えが浮かぶ。今しかない。少女は行動に移した。
「ごめんなさい!」
少女は杖を両手で握り、男の足の甲へ全力で突き立てた。
「っ!!」
声にならない呻きとともに、エモノを離す。同時に、少女を拘束する力が緩む。少女はその隙に身体をすり抜け、踵を返して杖を構える。
「えいっ!」
壁に背をもたれ苦しむ。そのみぞおちを狙い、打ち放った。
バシッ!
鈍い音とともに、動きが止まった。少女の目線の先には、杖を掴み取る男の手がある。押し込もうとしても、びくともしない。
「…っ」
凍りついた少女は、思わず杖から手を離し、その場に座り込んだ。
「このアマが…」
恐る恐る見上げた先には、怒りに歪んだ男の顔があった。
「助けて…」
軽率だったと、少女は後悔した。足を引き摺りながらも少女の方へ近づいていた。
「やめろ!命令を忘れたのか!?」
その叫びが、男の動きを止めた。どうやら、奴らには逆らえない“指示”があるらしい。
「ちっ…」
男は渋々だが引き下がった。怒りはまだ治っていない。そんな中、手首を掴まれる感触が起きる。
「なっ!?」
少女との攻防に気を取られ、ユリィに迫る隙を与えてしまっていた。男は慌てて振り解こうとする。しかし、もう遅い。
「返してもらうぞ」
ユリィは男の手首を捻り上げる。激痛に耐えきれず、男は杖を手放す。すかさずユリィはみぞおちへ拳を叩き込んだ。
「がっ…」
男はその場に崩れ落ち、意識を失った。
「こっちだ!」
ユリィは杖を拾い上げ、少女の手を取ると走り出した。目指すは大通り。人目のある場所なら、追手が来ても手を出しにくい。今回も勘を頼りに進むしかない。
−こっちで合ってるか…?−
だが、今回は運が味方してくれた。前方に、行き交う人の姿が見える。薄暗い路地から抜け出せると分かると、自然と足が速まった。
「あと少しだ!」
路地裏とは違い、太陽の光が眩しい。人々の話し声が雑踏として耳に届く。
「…はぁ」
全力疾走のまま飛び込んだユリィは、その場で呼吸を整えた。ふと、まだ少女の手を握っていることに気づき、慌てて離す。少女の方も息が上がっていた。ユリィのペースに合わせて走らされたのだから、無理もない。
少しして、少女がようやく落ち着く。
「た…助けてくれて、ありがとうございます。あっ、私、アヤンと言います」
アヤンはそう言って、深く頭を下げた。
「俺はユリィ。そんなにかしこまらなくていいよ」
謙遜ではなかった。助けたのは事実だが、ユリィにとっては降りかかった火の粉を振り払っただけだ。とはいえ、歳の近い女の子に礼を言われると、嬉しさと照れが同時に込み上げる。
「いえ、本当に助かりました。あの時、ユリィさんが通りかかっていたなかったらと思うと…」
言葉を詰まらせるアヤン。大勢の男に取り囲まれ、連れ去られそうになった恐怖は、想像に難くない。
「とりあえず、警備兵を呼ぼう。俺も一緒に行く」
「お願いします。あの、それと…」
やはりアヤンにも疑問に思われていた。
「魔導士なのに、とてもお強いのですね」
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