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術士と剣士と武闘家

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 ユリィの目的地は既に活動を停止していることが告げられた。だがユリィはさほど落ち込まなかった。魔法に関する自身の能力を鑑みれば魔闘家になれる望みは相当薄いと思っていたためだ。


「なんで閉鎖されたんだ?」


 諦めはつきそうだが顛末は気になった。


「反乱が起きたと聞いている。それで継続が難しくなったようじゃ」


「言い方が他人事みたいだな。すぐ近くで起きた事なのに」


「どちらも精霊術を扱う施設だが爺さんの言い方だと疎遠に聞こえてしまう」


「実際そうなのじゃがな」


「事情があるようだな。今回は言ってくるのか?」


 カチルは内情を下手に言えぬ立場を皮肉る言い方をする。


「今回とはどういう意味かのぉ…。それより話を戻そう。疎遠になったのは設立に至った歴史が関係しておる」


 禁則事項には否定も肯定もしないヤサカが話を進めた。どうやらこれに関しては隠し立てをする必要がないようだ。



 サカウオには代々精霊術を研究する術士の家系があった。ある当主には息子が三人おり全員が優秀な精霊術使いだった。次男は特に勤勉で研究に没頭し術を昇華させようとしていた。しかし残りの二人は術の修練をする傍ら長男は剣術を、三男は武術を嗜んでいた。日が経つにつれのめり込むようになった。


「ヤサカ様、それはカナマヤ家の話ですか?」


「その通りじゃ。術士であれば一度は聞いたことのある名じゃな」


 ある時、長男は王都へ剣術を学びに、三男はメウダにある道場へ武術を学ぶために家を出たいと当主に申し出た。当主は激怒しその要望は受け入れなかった。一方親の希望に沿った次男は大事にされた。しばらくして二人は家を出た。それを不孝だと考えた当主は二人にカナマヤの姓を名乗ることを禁止した。以後二人は母の姓であるヤダマを名乗ることになった。


「精霊術以外に興味を持ったせいで勘当されたのか」


「実の子供にそこまでしなくても…」


 やがて当主がこの世を去ると次男がその座を継いだ。新当主となった次男は術士としての功績が評され所属していたナバの神殿の長へと就任。精霊術の第一人者が長になったことにより王国のみならず近隣諸国からも精霊術使いを目指す者が神殿へと集まるようになった。それに伴い教育施設を創設すると、やがては神殿内の術士に精霊術使いが占める割合が多くなった。結果ナバの神殿は精霊術使い育成の専門機関になった。


 長男は王都で剣術を学んだ後に正規兵の入隊試験に合格。優秀な剣士として評される一方精霊術を武器に付与した戦術を編み出す。功績に伴い昇格を続けるとやがてそれが国王の目に留まる。長男は国王と謁見すると『魔法剣士』の称号を与えられ、同時に騎士団にその部隊を創設するための責任者になるよう命じられた。


「この流れだと三男が魔闘家の創設者になるのか」


「そういうわけじゃ。入門したメウダ寺院では僧正から絶対的な信頼を得た。やがて子のいなかった僧正は彼を後継者に指名した。やがて三男が僧正になると精霊術を自身に付与して戦う戦術を形成しそれを弟子に広めた」


「魔法剣士と魔闘家って創始者が兄弟だったんだ…」


「神殿の創設者の名は聞いていましたが、他に兄弟がいたなんて初めて知りました。それにしても勘当された上に姓を名乗れなくなるのは残酷ですね」


 ヤサカから聞かされた事実に二人は驚愕した。一説では次男が術士として最も優れていたようでそれが兄弟に確執を生んだ。劣等感を持った長男、そして序列的にも当主になれる可能性が最も低い三男の二人はやがて横道に逸れるようになった。


「つまり創設者である兄弟が絶縁状態だったせいでその流れは受け継がれ爺さんの代になっても交流がなかったのか」


「そういうわけじゃ」


「ところで爺さんの姓はトヤマモだけど、当主になったカナマヤ家の子孫じゃないってこと?」


「しばらくは世襲されたが途絶えたと聞いておる。それ以降は神殿内の議長が話し合い代表者を選出するようになった」


「そんな悲しい末路になっていたのですか」



 ナバへと向かう街道に物々しい外装が施された一台の馬車が駆け抜ける。これは王政府直属の査問機関に所属している。そこには調査官の制服を身につけた二人の女性が乗っている。どちらも歳は若い。胸元の名札にチイヒと書かれた女性は長身で生真面目かつ知的な雰囲気がある。隣には眼鏡を掛けた少し小柄な女性はコーフという名の補佐官がいる。


「初仕事にいきなり国の暗部に関わる案件が任されるのですね」


「だから私が選ばれたのよ。実家の都合で卒業前から関わっていたし」


「それは分かっています。私と組まされたのも父がチイヒさんの部下で事情をよく知っているからという事も。だからと言って私で良かったのでしょうか?学院時代の成績はチイヒさんが常にトップで進学は特別推薦でしたしが私はなんとか合格…。格が違います」


「私は学業だけがトップで魔法の実技は普通より少し上なだけだったのよ。そういえば学院時代に魔法以外に秀でた男の子がいたわね」


「いましたね。生徒会長だったチイヒさんが全校集会で祝辞をするよう先生に言われた時嬉しそうにしていませんでした?」


「そっ…そうだった!?それにしても卒業以来会っていないけど今頃どうしているのかしら」


 つい顔に出た表情を見られたくないのかチイヒは窓の向こうの景色に目をやった。



 襲撃事件から数日が過ぎた。タシノキは歩き回れるまで回復した。神殿内はあの日以来慌ただしい。負傷した術士で良好で動ける者は事後処理追われている。神殿には報告を受け駆けつけた警備兵が駐在している。表向きには新たな襲撃に備えての警護であるが関係者の外出に関しては厳しく制限している。つまり派遣した目的はそちらのように思える。


 アヤンは成り行きで目的地に到達した。当然ながら修行を受けられる状況ではない。一方ユリィと二人にヤサカから任務が与えられたが詳細は今現在聞かされていない。


 今日は王政府から派遣された調査官による事情聴取が行われる予定となっている。ユリィはうんざりしていた。事情聴取は何回されても全く慣れない。二人は応接室で待機させられた。


「何を聞かれるんだろう」


「そうですね。私達は何も悪いことをしていませんから聞かれた事を答えればいいと思います」


 それは分かっているがやり取りを考えるだけで気が滅入る。


「ところでアヤン、冒険者カードには確か姓がトヤマモって書かれていたけどあの爺さんと親戚だったりするの?」


「それはないと思います。トヤマモはこの国ではよくある姓です。私のいた孤児院の院長の姓で、そこで育てられた子供はみなトヤマモを名乗っています。」


「そういえば学院にも同じ性が何人かいたな」


「私の育った孤児院は教会が運営していたので職員はいい人ばかりでした。その方達を私は親だと思っています」


 孤児であるアヤンに親族が見つかったと思ったがそれは違った。一方ユリィ自身もアヤンと同じだった。


−そういえば俺って両親について考えたことがなかったな-


 ユリィは今まで出生を気にしたことはなかった。思わずその事に気が行きそうになろうとしていたら扉の向こうから叩く音がした。


「待たせたの、お二人さん」


 部屋へと入ったヤサカは二人の女性を連れていた。彼女らが本日事情聴取を行う調査官。そういう職業に就く人間であるだけで堅苦しそうな印象を持ってしまう。


「はじめまして、本日担当する調査官のチイヒです」


「私は補佐官のコーフです」


「こちらこそよろしくお願いします。私はアヤンです」


「俺はユリィ」


「調査官殿、よろしく頼むぞよ」


 ヤサカは一礼すると退室した。一同が席へと移動しようとする中チイヒが別の何かに意識をしていることにコーフが気づいた。


「どうかしましたか?」


「えっとね、あの人だけど以前会ったような気がして…」


 この中に見え覚えのある人物がいる。チイヒは思い出そうと必死で脳内をかき巡らせると該当者が出てきた。


「あなた、魔導学院にいたユリィ君よね!?」


 突如名指しされたユリィは思わず慌てた。


「えっ、魔導学院にはいたけど…」


「私、あなたが一年の頃に生徒会長だったチイヒよ!王国武術大会の学生の部で優勝して表彰された時にお話ししたよね!」


「ええっと…確かあったね」


 一応おぼろげだがユリィには記憶があった。


「覚えてくれていて嬉しいわ!」


「二年と三年の時の生徒会の人達は拍手してくれただけだったから、それで覚えていた」


 ユリィは生徒会という存在に興味がなかったので記憶はそれ位しかなかった。


「その対応は酷いわ!後輩は人を祝う気持ちがないのかしら!!」


 不機嫌そうに言った次は気遣う仕草をしたがユリィは反応に困っていた。


「ところで魔導士なのにどうして武道着なの?」


「えっと、それは…」


 縁のある者と会ったせいで疑問を持たれてしまった。


「チイヒさん、思い出話は後にしてそろそろ始めませんか?」


「そうでしたわ!次きは事情聴取が終わってからにしましょ」


 またしても起こったこの展開を面倒に思っていたユリィはコーフのおかげで今のところは解放された。



 時間はかかったが事情聴取は何とか終了した。今回の件に関しては後ろめたい事は全くない。今までとは違い事務的な感じがして普段より短い時間で済んだ。


「お二人ともお疲れ様。これにて事情聴取は終わりです」


 それを告げられユリィとアヤンは解放感から気が緩んだ。


「チイヒさん、この辺とかもう少し踏み入ったほうが良かったのではないですか?」


「本部からの確認事項は網羅しているので問題はないはずよ」


「確かにそうですけど…」


 一方ユリィは背伸びをすると席から立った。


「ユリィ君、今からどこかに行くの?」


「アヤンと一緒に飯食べに」


「しょっ食事!?そのお嬢さんと?」


「あっ、はい」


「そっ、そうなの…」


 その言葉は歯切れが悪く顔が青ざめていた。


「チイヒさん、どうしましたか!?」


 突如顔色が悪くなったチイヒにコーフが駆け寄った。


「だ…、大丈夫」


「本当にそうですか?」


 心配するコーフをチイヒは跳ね除けるようにユリィへ近づいた。


「ねえユリィ君」


「ん?」


「この娘とはどういう関係なの?」



 事情聴取とは違い突き詰めた質問が続き終わる気配がない。


「つまり二人は行き先が同じだから同行しているだけなのね」


「だからそうだって言っているでしょ」


「その程度の理由で年頃の男女が一緒に行動するようになったと。そうだとしたら寝る場所も一緒ってことになるのよね?」


「いっ、一緒って…。泊まる宿が同じなだけで部屋は別だよ。アヤンは女の子だから野宿は絶対にさせない事にしているし」


「そこは節度を持っているのね。じゃあ聞くけどそんな状況でいる事を何とも思わないの?」


 その質問したチイヒは明らかに不機嫌な表情をしている。


「えっと…、これってどういう意味?」


 相変わらずユリィには意図が理解できていない。煮えきれないやり取りにチイヒは痺れを切らした。


「あのお嬢さんに何の感情も抱かないのかって事よ!!」


「かっ…感情?」


 ここまで踏み入られれば流石に言いたい事は伝わった。


「ア…アヤンは旅の仲間だよ。俺はそう思っている」


「本当に?あのお嬢さんかなりの美人さんよ」


「そっ…それは、えっと、思ったことはあるけど。でも良からぬ事を考えたりなんてしていないよ」


「本当に本当?」


「…うん」



 否定したが歯切れは悪かった。アヤンの容姿に関してはチイヒの言う通り。男のサガなのか意識したことは何度かあった。だがユリィは割り切っていたと言い切る自信はある。近くとはいえ目的地につけば旅は終わり同時に関係も終わらせる予定だった。


「お嬢さん!学生時代は何もなかったの?」


「何もってどういう意味ですか」


「本当に分からないのかしら。クラスの違う男子生徒に言い寄られたりとか」


「聖堂学院は男女の校舎が分けられていたので、異性交友がそもそもありませんでした」


「そう言えはあの学校はそうだったわ。卒業後には何かなかったの?仲良くなろうと話しかけてくる男の人とか」


「そう言えば飲食店に勤めていた時、私がお客さんの側を通ると注文する男の人がいましたね。会計のカウンターに立つと急に清算しに来てお釣りを渡す間に話しかけられていました」


「それ、あなた目当ての客よ。あわよくば親密になれると期待して来ているわ」


「そっ、そうなんですか!?」


「本当に気づかなかったの?」


 チイヒの表情は明らかに苛立っている。


「チイヒさん、これくらいにしてあげて下さい」


 見かねたコーフは止めに入ったが睨みつけられるとたじろいだ。アヤンは育った孤児院も職員が全員女性の女子専用だったこともあり、幼少期から男性との交流が少ないまま現在に至っていた。


「あの、ユリィさんは私を無事に届けるために手を貸してくれただけです!」


「そっ、そうだよ!アヤンはよく誘拐されるんだ!!」


「ゆっ…誘拐ですって?」


 穏やかではない言葉。チイヒは二人から詳細を聞いた。


「それはいくら何でも多すぎますね」


「アヤンは見た目がいいから標的にされるんだよ」


「そっ、そんなことありませんよ…」


 アヤンは慌てて謙遜したがチイヒには嫌味に聞こえたようでそれは表情に出ていた。


「それも誰かから依頼されているみたいなんだ」


「そう考えられなくもないわね。しかも誘拐に失敗した被疑者が全員死亡している。やっぱり関連性があるのかしら」


 ユリィの推理にチイヒも同調した。だが証明に至る根拠はない。そんな中、慌ただしくこちらへ駆け寄り響く足音が聞こえると扉が開いた。入ってきたのはヤサカに同行していた術士だった。急いでいたようで息が上がっている。


「失礼します!ヤサカ様からの伝言です!!」


「どうかしましたか?」


 突如駆けつけた伝令役の術士からはただならぬ緊張感が漂っている。


「捕らえた賊が全員死亡しました」


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