頭領と遭遇する落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
一行が進む通路は狭く、窓もない。
蝋燭の灯りを頼りだった。
湿気を帯びた空気が肌にまとわりつき、圧迫感が胸を締め付ける。
どうやら建物の地下に転移されたらしい。
その壁や柱には、神秘的な装飾が施されている。
やはり宗教的な何かで間違いない。
「おい、あれは…」
タシノキの声が、一行の足を止めた。
視界の悪い通路の先に、何かが倒れている。
慎重に近づく。
これが何なのか、予想はついている。
やがて、それは蝋燭の灯りの中に浮かび上がる。
「…やっぱりな」
倒れていたのは、人間だった。
赤黒い血が床一面に広がっている。
明らかに刃物による切り傷。
これだけの血を失って、生きているはずがない。
視線を衣装へ落とす。
術士特有のローブだった。
「ちょっと、あっち見て!」
ナギが指差した先には、同じローブ姿の男達が数人、血まみれになって倒れていた。
「…全員、こと切れているようだ」
虐殺はすでに始まっている。
血の状態からして、賊はかなり前にここを通過したと見るべきだ。
「酷い…」
アヤンは胸の前で手を組み、目を閉じる。
「アヤン…」
「もう…大丈夫です」
深く息を吐き、彼女は前を向いた。
「うん、急ごう」
今は哀悼を捧げている暇はない。
一行は足早に通路を進んだ。
やがて前方に光が差し込んでいるのが見える。
地上階に出たのだろう。
この階には陽光が入り込んでいた。
これまでの閉ざされた石造りの通路とは違い、幅も広く、神殿らしい荘厳な装飾が施されている。
同時に、無惨に切り刻まれ横たわる術士の姿も目に入った。
「酷い…」
本殿へと続く区画なのか。
ある一方向へ向かうように、幾人もの術士が血の池を作って倒れている。
「まだ息のある方がおられるかもしれません」
わずかな希望を抱き、アヤンは倒れ伏した術士へ駆け寄ろうとする。
「アヤンちゃん」
ナギが肩を掴み、制止しようとする。
だがアヤンは小さく首頭振った。
その気持ちは分かる。
可能性はないとは言い切れない。
だが、その僅かな望みに賭けて足を止めるわけにはいかない。
ナギは、涙を堪えるアヤン静かにを諭す。
決して非情なわけではない。
冒険者である彼らは、幾度も人の死に直面してきた。
割り切れられなければ、この稼業は務まらない。
感情を押し殺し、状況を整理する。
皆の視線が、自然と同じ方向へと集まった。
その沈黙を破るように、タシノキが口を開く。
「こっちに何かがあるのは間違いない」
その言葉とともに、止まっていた足が再び動き出す。
一行はさらに足を速めた。
地に臥した者たちを、皮肉にも道標のようにたどりながら、奥へと進んでいく。
先を急いではいたが、倒れた術士を踏まぬよう気を払った。
それでも、流れ広がる血に何度か足が触れてしまう。
動く者はおらず、助けを求める声もない。
進行を止められることはなかったが、まったく喜べる状況ではなかった。
複雑な思いを抱えたまま進み続けると、やがて悲鳴と怒号が耳に飛び込んできた。
「あともう少しだ!」
この先で、虐殺が行われていることは間違いない。
そこへと繋がる扉へ向けて、一行の足は速まった。
脚はユリィの方が速い。
だがアヤンに随行していたため到着は同時だった。
それでもアヤンは、全力で走り続けていた。
肩で息をしながらも、アヤンは目の前の惨状に足を止める。
「もっと早く辿り着けていたら…」
悔しげに絞り声を出す。
だが、アヤンに責任はない。
一行が転移される前から、すでに惨劇は始まっていたのだから。
「待ちやがれ!」
こちらへ逃げて来る術士を追う野盗の姿が目に入った。
次の瞬間、術士は背後から斬り付けられ、悲鳴と血飛沫を上げて倒れる。
標的を仕留めた野盗は、扉付近に立つユリィたちへ視線を向けた。
訝しげに目を細める。
やがて一行が部外者だと悟る。
「誰だおま…」
言い終える前に、ユリィが飛びかかる。
拳が男の腹へ叩き込まれる。
野盗は膝をつき悶絶したが、ユリィは相手にせず倒れた術士へ駆け寄った。
「まだ息があるぞ!」
報告を受け、ナギはすぐに駆けつける。
「出血が酷いわ。傷を塞ぐくらいなら今なら…
咄嗟に術を施し、止血は完了した。
だが、これは応急処置に過ぎない。
適切な治療が必要だ。
術士には悪いが、それは後回しだ。
先に片付けるべき案件がある。
「まずは賊どもをどうにかするぞ!」
タシノキの号令で、一行は構えた。
本来の目的は幹部の捕縛。
同時に手下もろとも殲滅することになる。
敵は圧倒的多数。
しかも、高額賞金首の幹部が複数いる。
手だれ揃いとはいえ、苦戦は避けられない。
「なあアヤン、加護ってまとめて付与できるの?」
「えっ、できますけど」
「そんなこともできるんだ」
「思えば言っていませんでしたね」
「だったら好都合だ。みんな、ちょっと待って!!」
仲間を呼び止めると、ユリィは素早くアヤンに指示を飛ばした。
「なんだいきなり」
「急いでいるんだぞ!」
直後、仲間たちの身体に異変が起きた。
「おい、身体が緑に光っている」
「武闘家の兄ちゃんに起きていたのと、同じ現象か!?」
次の瞬間、風の加護が一行を包み込んだ。
「なるほど、これだと普段の何倍も速く動けそうだ」
タシノキらは拳を軽く握り、身体の軽さを確かめた。
その頃、異変に気づいた野盗たちが続々と押し寄せてくる。
迎え撃たんと一行は構える。
「後方支援は任せて!あと、アヤンちゃんのことも心配しないで」
「頼む」
術士は前線に出るべきではない。
これが本来の役目。
加え、ナギが近くにいれば安全は確保できる。
「さっきアイツをぶっ飛ばしていたぞ!」
「仲間じゃねえな!」
「助けが来たのか!?」
「どうしてこんなに早く…」
その疑問の答えが出る前に、戦いは始まった。
加護を得た一行が疾風のように突入する。
野盗を吹き飛ばしながら、ユリィたちは散開し掃討を開始した。
しばらくして。
野盗を撃退し終えた区画へ、ナギとアヤンが向かった。
そこには負傷した術士が集まっていた。
「大丈夫ですか!?」
「はい…、なんとか」
「治療しますので、動かないでください」
目の前の術士は比較的傷が浅い。
アヤンの回復魔法でも治療はできそうだ。
「助かりました」
「いえ」
「私も治療を手伝います」
「そんな、動いても平気ですか!?」
「負傷者の数は多い。少しでも助けになれば…」
「それでは、お願いします!」
解放された区画からは、次々と負傷者が運び込まれてくる。
アヤンも懸命に治療を続けた。
だが、回復力が弱い。
そのため時間がかかってしまう。
するとナギがやって来た。
重傷者の治療が済んだようだ。
「ナギさん」
「苦戦しているようね」
「はい…、私が不甲斐ないばかりに」
「それじゃ、私に任せなさい」
そう告げると、ナギは静かに詠唱を始めた。
やわらかい光がナギを中心に広がり、負傷者を包みこんでいく。
「傷が…治ったぞ!」
「私もだ!」
ナギの魔法は、同時に複数人を癒す高位の治療術だった。
そのおかげで、軽傷者は一度で治療を終えることができた。
「すごい…。ナギさん、さすがです」
アヤンは思わず息を呑んだ。
聖堂学院の授業で存在は知っていた。
習得が極めて困難な魔法であるため、扱える教員すらいなかった。
実際目にするのは、初めてだった。
術士としての実力差を痛感し、アヤンはナギへ深い敬意の眼差しを向ける。
「本当にありがとうございます」
「どなたかは知りませんが、助かりました」
救われた術士たちは、次々と礼を述べた。
「無事で何よりですよ」
「そんなに頭を下げないでください。私はそれほど貢献していませんので…」
事実その通りだったため、アヤンの胸には複雑な思いが残る。
そのとき、アヤンはある違和感に気がついた。
負傷者の法衣に、焦げ跡や土埃が付着している。
野盗の攻撃は刃物が中心だったはず。
「敵さんに、魔法が使える人がいるのですか?」
「あら、急にどうしたの?」
「この人たちの怪我ですが…」
その言葉に誘われ、術士たちへと目を向ける。
「爆発に巻き込まれてできたものに見えます」
治療に必死で気にも留めなかったが、言われてみればそうだ。
「あの崩れた跡、おそらくそうね」
「同行した魔導士の仕業だと思います」
同じ頃、野盗と交戦していたユリィの耳に、突如として爆音が飛び込んできた。
「爆発!?」
反射的にそちらへ視線を向ける。
遠くで煙が上がっていた。
(アイツがやったのか?)
考えられるとしたら魔法によるもの。
カチルの仕業だと考えた。
(建物の中だぞ)
使う魔法を間違えば、建物を崩壊させかねない。
だが直後、野盗の反応に違和感を持った。
爆音が起きたにも関わらず、誰ひとり気に留める様子がない。
(そういや、賊の仲間に魔導士がいたな…)
仲間の仕業なら、この無関心にも説明はつく。
しかしユリィは、そう結論づけられなかった。
胸の奥に引っかかる何かがある。
理由はわからない。
だが、確かめずにはいられなかった。
「おい、あんた!」
「どうした、少年?」
「悪いけど、あとは頼む」
「え!?なんだいきなり!」
まだ敵を排除しきれていない。
それにも関わらず、ユリィは仲間に戦線を押し付けた。
(何が起きているんだ…)
その衝動に突き動かされるままに、ユリィは爆音がした方角へ駆け出した。
再び爆音が響いた。
同時に、黒煙が吹き上がる。
(カチルは別の場所で戦っている)
向かう途中、その姿を確認している。
やはり、何かがある。
しばらく駆け進むと、見覚えのある背中が見えた。
「あっ、アイツだ!」
そこでは、タシノキが激しく斬り結んでいた。
「おーい!!」
戦いに集中しているのか。
返事をする余裕はなさそうだ。
そして、相手を見たユリィは目を疑う。
そこに立っていたのは、魔導士ではない
巨大な体躯の野盗だった。
「爆発が起きたのって、確かここじゃ…」
順当に考えれば、後方からの支援魔法。
だが位置的が合わない。
もしそうなら、野盗自身も巻き込まれているはずだ。
無法者とはいえ、仲間を犠牲にするような戦い方をするとは思えない。
答えが出せずにいると、野盗がタシノキへ飛びかかる。
ユリィは再び目を疑う。
刀身が燃えるように輝き、炎が噴き出した。
「!?」
大剣に打ち合った刹那、爆炎が巻き上がる。
襲い来る爆風に、ユリィは咄嗟に腕で顔を庇う。
同時にある記憶が蘇った。
(この光景、昨日と同じだ…)
炎の剣と似た現象。
今回は、爆発系の魔石がはめられているのか。
「それより、あいつは…!」
爆炎はタシノキを完全に飲み込んでいる。
生身で耐えられるはずがない。
四散するか、焼き尽くされるか。
そんな結末しか思い浮かばなかった。
ユリィは青ざめ、それを見つめる。
だが次の瞬間、煙の中に二つの人影が現れた。
リッチャの攻撃を受け止めるタシノキ。
「うりゃ!!」
渾身の力が込めて押し返す。
またしてもユリィは目を疑った。
タシノキに負傷した気配はない。
よく見ると、周囲を淡く光る障壁が包んでいる。
「無事ですか!?」
振り返ると、神殿の術士が魔法障壁を展開していた。
だが、その術士も負傷している。
限界が来たようで障壁は解除された。
「助かった!恩に着る!!」
加護の速度を活かし、タシノキは一気に後退した。
周囲の石畳は焼け焦げ、壁や装飾も無惨に砕けている。
そこでようやく、タシノキはユリィの存在に気づいた。
「なんだ、他は片付いたのか?」
「そんなことより、あの武器って昨日の賊と同じなのか?」
「いいや、奴の武器には魔石が見当たらなかった」
「見当たらないって、じゃあ自力!?」
「そんな芸当ができるのは魔法剣士ぐらいだぞ」
「あいつ魔法剣士なの?」
「バカ言え!野盗風情がなれるわけがない!!」
「独学で魔法剣士になったとか」
「絶対にない!」
「言い切れるの?」
「魔法剣士は由緒正しき王宮騎士団だ」
「らしいね」
「専門の教育機関で訓練を受けて、ようやくなれる」
「そうだった。だとしたら、辞めて野盗に成り下がったとか?」
「それもない」
「これも言い切れるの?」
「そんな過去があったなんて聞いてない」
「聞いていないって…、アイツを知っているのか?」
タシノキは鋭く睨みつける。
「奴が、頭領のリッチャだ!」
熊のような巨体。
凶悪な面構え。
その威圧感はシマナレ以上。
野盗の長に相応しい風貌だった。
「アイツが!?」
「一番の賞金首だ」
「なるほど。そんな奴が元王宮騎士団なわけがないか…」
魔法剣士になるには、高い教養を受けられる経済力が必要。
自然と、名家の出身者に限られる。
どう見ても、リッチャにそんな生い立ちがあるとは思えない。
「だろう。それより奴の剣を見ろ」
ユリィは目を凝らす。
「幾何学的な模様が刻まれているね」
高価な剣。
そんな印象を受けた。
「あれは魔力の伝導を高める刻印。魔法剣の特徴だ」
「魔法剣!?さっきと、言っていることが違うじゃないか!」
「だから意味がわからん!!」
魔法剣士ではない者が、魔法剣を扱う。
不可解な事態。
だが、議論している余裕などない。
確かなことは、ただ一つ。
魔法剣を持つリッチャは、極めて危険な敵だということだった。
「ユリィさーん!」
振り向くと、アヤンが駆けて来るのが見えた。
「危険だから来ちゃダメだ!!」
身振りで制止する。
アヤンは足を止めた。
危険であることを承知している。
それでも、伝えなければならないことがあった。
アヤンは息を整える。
「気をつけて下さい!」
ひと呼吸あけ、さらに声を張り上げた。
「敵さんの中に精霊術士がいます!!」
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