上級冒険者の戦いを傍観する落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
突如出されたタシノキからの要望。
それはシマナレとの一騎打ちだった。
「今そんな事を言っている場合か!」
カチルは即座に反対する。
当然の反応だ。
馬鹿げているとしか言いようがない。
「クククク…」
シマナレが低く笑い応える。
「この俺とサシでやり合いたいのか」
その反応に、タシノキは口角を吊り上げる。
「お前が良ければな」
「団長を陥れるための芝居とはいえ、中途半端に終わらせてしまった。それでお前に『逃げられた』と思われるのも癪だ」
「じゃあ、勝負は受けてもらえるのか?」
「いいだろう。勝負がつくまで、手下には手を出させねえ」
そう言い放つと同時に、手下を睨みきかせた。
「よし!お前らも手を出すなよ!」
タシノキも仲間に言い放つ。
一方、皆の表情は複雑だった。
タシノキの意思は強い。
意気揚々と歩を進めた。
「これで良いのか?」
ユリィは問う。
「付き合いの長い俺に言わせればな…」
カチルは、額に手を当てながらため息をつく。
「今のあいつは聞く耳を持たない」
「何を言っても無駄か」
「ああ。それから油断するな。向こうが約束を守る保証はない」
「分かっているよ」
所詮は野盗との口約束。
誰一人、構えを解く者はいない。
一方、当の二人はどこか楽しんでいるようだった。
「まさか再戦できるとはな」
「冒険者になって以来、逃したのはお前だけだ」
タシノキは静かに告げる。
「必ず見つけ出し、決着をつけると決めていた」
「随分と執着しているな」
「いつの間にか賞金首に出世してくれた」
「俺にはそれだけの素質があったということだ」
「認めよう。自信過剰ではないと」
タシノキは淡々と続ける。
「あの日以降、俺は修練を積み直した。称賛されようが慢心はしない」
「…何を固執しているんだ?」
「あの頃の俺は未熟だったせいで、手加減ができなかった」
「手加減…?」
「お前は生け捕る必要がある。殺してしまうと賞金が出ないからな」
シマナレの眉間の皺が深くなる。
「だから手加減できるだけの力身につけた」
当然のようにタシノキは語る。
“殺すだけなら簡単にできる”と受け取れる。
「ほお…」
タシノキに向けられた目が血走る。
「生け捕りにこだわらなかったら、簡単に勝てたと言いたいのか!?」
「ああ。殺すだけなら、あの日にでもできた」
キッパリと言い放つ。
「殺すだけなら簡単にできただと?」
「お前の動きは単調で力任せだ」
「……」
「つまり、俺の敵ではない」
今の言葉はシマナレの逆鱗に触れた。
「ほざけぇ!!」
怒号とともに、床を蹴った。
巨体とは思えぬ速さでタシノキへと迫る。
ジャキン!!
反射的に抜き上げた大剣が、その一撃を受け止める。
刃と刃が噛み合い、耳をつんざく金属音が室内に炸裂した。
「防いだか」
シマナレは即座に体勢を立て直し、間一髪入れずに振り下ろす。
軽々と振るわれるその武器は、分厚く巨大。
常人離れした筋力が、俊敏な動きも生み出す。
「うわ!」
「危ねえ!」
後退するタシノキを追う刃が、手下を掠める。
広いとは言えない室内。
巨漢同士の打ち合いは、周囲を巻き込みかけない迫力だった。
「今回は守る番か!?」
シマナレはあざけり迫る。
その言葉通り、タシノキは防御に徹していた。
断続的に攻撃が打ち込まれる。
「ユリィさん!押されていますよ!!」
アヤンには劣勢に映った。
「大丈夫。見ていれば分かる」
ユリィは静かに答える。他の者も冷静だった。
よく見れば、タシノキの表情に焦りがない。
シマナレの打ち込みは時間と共に速くなる。
タシノキは間一髪防ぐ。
その攻防は同調しているようにも見えた。
「ぐぎゃあ!!」
血飛沫がまった。
防御一辺倒だったタシノキが、遂に牙を剥いた。
鋭い一閃。
利き手を正確に斬り裂く。
ガシャン!
武器が床へ落ちた。
「ぐぎゃ!」
傷口を押さえるシマナレ。そこへ追撃の刃が振り下ろされる。
肩口の一寸手前まで迫る。
避けられる距離ではない。
俺は死ぬ。
脳裏を掠めた直後、動きが止まる。
「……!?」
突如、柄頭が向く。
認識した直後、腹部に激痛が走る。
叩き込まれた一撃、シマナレは地に沈んだ。
勝ち筋しか見えてなかったのか。
喜ぶ気配も見せず、血振りした。
「あっさり勝ちましたね」
「大丈夫だって言ったでしょ」
一行は頷き賛同する。
一方、前方で待機していた手下らは目を疑う。
「バカな!?」
「シマナレの兄貴がやられた!!」
「しかも予告通り殺してねえ!」
圧倒的な力を目の当たりにし、焦りが広がる。
「いくら強くても全員でかかれば…」
「そうだ、やっちまおう!」
「おう!」
勢いに任せて飛びかかる。
しかし所詮は有象無象。
束になろうとタシノキには関係なかった。
戦意を失った者は投降し、部屋はすぐさま制圧された。
「ナギ、拘束する前にコイツの傷を治してやれ」
タシノキは倒れたシマナレを見下ろす。
気を失っているが、命に別状はない。
「さすがだね」
ユリィは称賛した。
手加減するには相当な技量が必要。
命を奪わない。
命を取り合う戦場でトドメを刺さない。
慢心とも言えない危険な行為だ。
力量が圧倒しているからこそ、成し得たのだ。
「ところでですが、しばらく攻撃を受けていたのはなぜですか?」
「癖を見極めるためだよ」
「癖ですか?」
「致命傷にならない攻撃を与えるためにな」
「なるほど」
タシノキには観察できる余裕があった。
つまり、不利な状況に陥ったことは一瞬さえもなかった。
「それより問題は、コイツらが何の目的で転移したかだ」
ユリィの言う通り、最大の謎が明かされていない。
タシノキは投降した野盗を引きずり出させた。
「お前らはあの魔法陣で根城からここへ来たんだよな?」
「…そうだ」
「目的は!?」
男は口を閉ざす。
「早く言え!回復魔法でも治らない傷を負わせるぞ!!」
悠長に取り調べている時間はない。
首根っこを掴み、壁へ押し付ける。
ここでは大掛かりな何かが行われている。
経験がそう語る。
「…ここにいる奴らを皆殺しするよう言われた」
「殺すって誰をだ?」
「術士がいると聞かされた」
「術士だと!?」
一行が叫ぶ。
「術士が…。殺す理由は?」
「そこまでは聞かされてない」
タシノキは無言で睨みつける。
男の喉が鳴った。
「本当だ!!シマナレの兄貴なら、もっと踏み込んだ情報を持っているかもしれない」
目を逸らしてはいない。
信用に足りると判断。
経験がそう語る。
もちろん全てを鵜呑みにするつもりはない。
おそらく、これ以上の情報も期待できそうにない。
ちょうどその頃、別の手下を尋問していたカチルが戻ってくる。
「ここにいる術士を片っ端から殺すよう命じられたんだとよ」
「それは俺も聞いた」
「賊の数は百人以上。幹部も揃っている」
「やはりか!」
「コイツらはここの警備を命じられただけで、詳細は聞かされていない」
「慎重だな」
タシノキは思わずため息をつく。
「術士が標的ってことは、ここは宗教的な施設か?」
標的と場所は分かった。
だが、目的は依然不明のままだ。
「幹部のコイツなら、何か知っているかもしれんぞ」
視線は倒れているシマナレへと向く。
頬を叩いてみるが、目を覚す気配はない。
「タシノキさん。この人の話が本当なら、急いだ方がいいと思います」
アヤンの声は切迫していた。
「そうよ。今まさに始まっているかもしれないわ」
ナギも続く。
確かに、すぐにでも発つべきだ。
だが、相手は百人以上。幹部も揃っている。
一度根城へ戻り、態勢を立て直すべきでもある。
「急ごうよ」
ユリィがまっすぐに言う。
「簡単に言うな」
大胆な行動は多いが、考えてはいる。
「この先に何があるのか、分からないんだぞ」
冒険者稼業に必要なものは、強さだけではない。
慎重な判断ができる能力。
タシノキはそれが備わっていたから、今日まで生き延びられた。
だがその視線の先に、アヤンがいた。
不安を抱えながらも、覚悟を宿した瞳。
タシノキは小さく息を吐く。
「…ちっ」
迷いを断ち切る。
「仲間を呼び戻す暇はねえ。今から向かうぞ!」
現状を見れば無謀な判断。
だが誰も反対しない。
「アヤン、行こうよ」
「はい!一人でも多く助けましょう!!」
アヤンに笑みが戻った。
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