圧倒的な力を見せさせられる落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
「精霊術士がいる…」
駆けつけたアヤンの言葉に、ユリィは思わず眉をひそめた。
(賊の仲間に精霊術士がいて、だからなんだ?)
頭の中で必死に知識を探る。
(精霊の加護は属性付与)
ユリィは特性を整理した。
攻撃に属性が乗り、耐性も得られる。
(だが、それが賊にどんな意味を持つ…?)
「お前さんと同じことをしているんだよ!!」
タシノキの一言で、思考が一気につながった。
「じゃあ、さっきの爆発は炎の加護で起こしたってこと?」
「状況から見て、そうだろ」
タシノキは呆れたようにため息をついた。
「そんな方法があるんだ。それで擬似的に魔法剣士になれるのか」
「違う」
即座に否定する。
「魔法剣士は精霊術を『剣そのもの』に付与する」
「アヤンの場合は『身体』にだよな」
「ああ、外部の術者が武器に付与するのは、本来のやり方じゃない」
「じゃあ…。奴には何が起きているんだ!?」
その問いを口にした瞬間だった。
二人は何かを察し、反射的に跳び退いた。
次の刹那。
炎が二人の間を薙ぎ払った。
「おっと。今はおしゃべりをしている場合じゃないぞ」
顔を上げると、リッチャは剣先を向けて迫っていた。
石弓で弾かれた矢のごとく、巨体に備わった筋力が生み出した。
突如その動きが止まる。
「何かを仕掛けるぞ」
そう警告したのと同時に、リッチャは腰を落とし、剣を後方へ引いた。
次の瞬間、勢いよく振り抜かれた刃から無数の火球が飛び出す。
「こんなの反則だぞ!!」
一つぐらいなら、容易に避けられる。
だが、数が多ければ話は変わる。
「冷静に避けろ!」
焦れば、避けられるものも避けられなくなる。
ユリィは必死に身を捻り、最後の一発をかわす。
だが息をつく間もなく、再び構えを取るリッチャの姿が目に映る。
「次が来るの!?」
そう思った瞬間、新たな火球が放たれた。
「あれで終わるわけないか…」
仕留めるまでやめるはずがない。
現実的に考えれば当然のことだった。
ユリィはそれを避けると、次なる攻撃に備えて身構える。
だが、リッチャの動きが先ほどと違っていた。
「こっちに向かっている!?」
ユリィは油断していた。
同じ攻撃だけをするはずがない。
避けるので精一杯。
そのせいで失念していた。
(避けられない!!)
加護を受けているとはいえ、魔力を帯びた刃を叩きつけられれば命はない。
ユリィは必死に回避の手段を探る。
だが答えは見つからなかった。
死を覚悟した、その直後だった。
(え!?)
ユリィの前に人影が割って入る。
次の瞬間、爆炎が弾けた。
轟音とともに衝撃波が叩きつける。
二人の身体は容赦なく吹き飛ばされた。
ユリィは地面に投げ出されながらも、咄嗟に受け身を取る。
頭を打つことはなかった。
痛みはほとんどない。
目立った外傷も見当たらない。
直撃は免れた。
なんとか、無事だ。
助かった理由は明白だった。
視線の先。
盾となったタシノキが倒れている。
大剣で防いだおかげで、衝撃を多少は和らげた。
だが、それは気休め程度。
巨体が傷まみれになりながら、地面に横たわる。
自力で立ち上がれる状態ではなかった。
「おい!大丈夫か!?」
無事ではないことは、見れば分かる。
それでも叫ばずにはいられなかった。
「……」
タシノキはわずかにユリィへ視線を向ける。
焦点は合っていない。
呼吸も荒い。
意識を繋ぎ止めるだけで精一杯。
それが一目で分かった。
それでも、歯を食いしばり、無理やり目を見開く。
「おいっ、嬢ちゃん!!」
野太い声でアヤンを呼ぶ。
声を出しただけで、全身から汗が噴き出した。
「あっ…、はい!」
「加護を…、コイツだけに使え」
後半につれ声が掠れていた。
だが、強い意志が伝わる。
タシノキはわずかに口元を緩める。
満足げな笑み。
その直後、巨体から力が抜ける。
瞼が閉じられ、完全に動かなくなった。
「おい!」
呼吸音は聞こえる。
意識を失っただけのようだ。
だが唐突な指示を受け、アヤンとユリィは戸惑った。
タシノキは自らを犠牲にし、この戦いをユリィに託したのだ。
だが、その意思を優先するということは、重傷の彼を後回しにすることになる。
アヤンの回復能力は決して高くない。それでも今は治療を向かわせたい。
(コイツを放ったまま戦うなんて…)
葛藤に揺れるユリィ。
そのとき、風の加護が解け、新たに氷の加護が付与された。
「ユリィさん!ちゃんと前を見てください!!」
その声に、ユリィははっと我に返る。
目の前には再び迫り来るリッチャの姿。
だが、もう焦りはなかった。
氷の加護により炎への耐性がある。
ユリィは攻撃を避けると、即座に反撃へ転じた。
ジャキーン
放った回し蹴りは、刃の側面で受け止められる。
ユリィはすぐに距離を取った。
やはり先ほどより速度は落ちている。
だが、不利だとは思わない。
(あいつは俺を信頼しているから、自分を犠牲にできたんだ)
アヤンの方へ目をやると、彼女は気丈にこちらを見据えていた。
残酷だが、現実は受け止めなくてはならない。
タシノキを助けるのは、この戦いが終わってからだ。
言い換えればこうなる。
タシノキを助けるには、リッチャを倒すしかない。
「来い!」
ユリィが叫ぶと、リッチャは即座に飛びかかる。
そして、一瞬の間で目の前まで迫った。
「ユリィさん!!」
リッチャは脳天を目掛け、剣を勢いよく振り下ろした。
しかし、その刃は途中でぴたりと止まる。
ユリィが鍔元近くの刃を素手で掴み、押し止めていた。
「!?」
炎の加護を纏う剣を、氷の加護で強化された掌が抑え込む。
焼けることも、切り裂かれることもない。
ユリィは臆するどころか、さらに力を込めた。
押し返され、切先がじわじわと上へ持ち上がっていく。
体格ではリッチャの方が二回り以上勝っている。
それでも、力で押し負けていた。
「ぐっ!」
突如、リッチャは力を緩めた。
「うわ!」
同時に力の方向も変わり、ユリィはバランスを崩す。
その隙を逃さず、リッチャの蹴りが腹部へ叩き込まれる。
「しまった!」
優位に立ったという慢心。
それは油断を生み出す。
避けきれず、ユリィは吹き飛ばされた。
強烈な一撃だったが、加護が威力を和らげる。
まともに受けていれば、意識を失っていただろう。
「あともう一息だったのに…」
腹を押さえながら、ユリィは歯噛みする。
掴みかけた勝機を逃した。
同じ手は通じない。
別の手を考えなければならない。
「ええい、何をしている!」
苛立った怒声が、リッチャの後方から飛んだ。
そこには、黒いローブを纏った術士の姿がある。
神殿の術士とは違い、漆黒の生地に奇怪な紋様が刻まれていた。
かつて戦った、リッチに似た気配を感じる。
だが、それとは別種の禍々しさがあった。
アヤンの言っていた精霊術士。
それは、おそらくこの男。
そして、野盗をここへ導いた張本人でもあるのだろう。
「こんな連中、さっさと始末せぬか!」
叱責と同時に、術士が手を掲げる。
次の瞬間、リッチャを黒い靄が包み込んだ。
不気味な光景に、ユリィには悪寒を覚える。
そしてすぐに違和感に気づいた。
(どの属性なんだ?)
その靄は、不可解だった。
「気をつけてくだされ!あの者は暗黒使いです!!」
神殿の術士が叫ぶ。
ユリィは意味を理解できなかった。
「闇魔法の使い手という意味ですよ!」
アヤンの言葉で、ようやく思いに至る。
(授業で習った、あれの事か?)
学院の座学で教えられた禁忌の魔法。
それは『闇属性』と呼ばれている。
これは主要国家の取り決めにより、研究も習得も全面禁止。
違反すれば、どの国でも重罪に処される。
それでも禁を破る者がいる。
禁忌を犯し、習得し得た者。
それは『暗黒使い』と呼ばれている。
「試験のために、言葉だけは覚えていたけど…」
学生に求められる知識は、その程度でよかった。
危険であることを認識できればいい。
そのため、ユリィは何がどう危険なのかまで知らない。
「貴様!俺に何をした?」
リッチャが怒鳴る。
「ククク…、さらなる力を与えてやったんじゃよ」
「本当にそれだけか!?」
その様子は明らかに異常だった。
全身から汗が噴き出し、呼吸は荒い。
手足は震え、血管が浮き上がる。
そして、筋肉は不自然なほど腫れ上がっていた。
(闇属性を…付与されたのか?)
身体強化が目的なのか。
もはや、魔法剣の戦い方ではない。
奇怪な現象。
ユリィの身体が震える。
その震えはリッチャにも起きていた。
だがそれは、恐怖ではない。
高熱に浮かされた病人の震えに似ていた。
焦点の合わない目
ふらつく足取り。
「なんか…いや、絶対にやばい!」
リッチャは切先を向ける。
その直後、姿を見失う。
(えっ!?)
次の瞬間、すぐ横に気配。
ユリィは反射的に上体を大きく後ろへ逸らす。
腹と鼻を掠めるように、黒い塊が通過した。
先ほどの炎と似た軌道。
だがまったくの別物。
奇妙で毒々しい霧状の物体。
「うっ!」
地面に転がりながら受け身を取る。
だが、安心する暇はない。
ドバァッッッッ!
視界が闇色に染まる。
同時に、眼球と瞼が焼き切れそうな感触が起きた。
だがユリィは無事だった。
咄嗟に次は“頭を狙う”と判断できたからだ。
眼球の少し前に、床へと突き刺さる剣がある。
あと僅かでも遅れていれば、それは頭に突き立てられていた。
(今のうちに!)
剣を引き抜く、一瞬の隙。
そのわずかな時間で、ユリィは立ち上がる。
だが、体勢を立て直しかけた直後、容赦ない追撃が叩き込まれた。
「うっ!」
辛うじて躱す。
ユリィは冷静さを保つので必死だった。
さっきとは、状況がまるで違う。
リッチャを包む闇色の靄。
触れて無事に済むとは思えない。
氷の加護があっても防げるとは思えない。
他の加護でも同じだろう。
反則的な付与を受けた相手。
ユリィは逃げに徹するしかなかった。
「あの小僧、なかなかしぶといな。それでは」
後方で暗黒使い呟くと、何かを念じ始めた。
闇が、さらに濃くなる。
「なっ…何をしてくれた!?」
リッチャの全身から、滝のように汗が流れ落ちる。
「ククク…」
それを眺め暗黒使いは笑う。
リッチャが睨みつける。
その目は赤黒く濁っている。
皮膚の色までも変わり始める。
呼吸は更に荒く、そして浮き出た血管が激しく脈打つ。
「……」
一瞬、呼吸が落ち着く。
だが、容態が良くなったわけではない。
リッチャは強烈な倦怠感に襲われていた。
歯を食いしばり、なんとか耐えている。
「ほれっ、さっさとやらんか」
急かすその声に、心配の色はない。
強制力でもあるのか、リッチャは従う。
剣を持つ手に力が入り、再び呼吸が荒くなった。
次の瞬間、リッチャは構えた。
「なっ!?」
刀身が闇色の炎に包まれる。
あまりの禍々しさに、ユリィの腰が引けた。
擬似的な魔法剣を作り出したのか。
炎の剣と似てはいる。
だが威力は全くの別物だろう。
リッチャが剣を振る。
闇の炎が火球となり、ユリィへ襲いかかった。
「ひぃ!」
横へと飛び、なんとか回避。
直後、背後で黒い炎が噴き上がった・
「何なんだ、あれは…」
焼かれた地面は、毒を浴びたかのように溶け、変色している。
直撃していれば、骨まで消えていたかもしれない。
「ぐわあ!!」
咆哮のような悲鳴が響く。
リッチャの腕から血が噴き出ていた。
引き出された力に、肉体が耐えきれなかったのだ。
腕を抑える指の間から、赤黒い血が滴る。
リッチャは無言で暗黒使いを睨みつけた。
「心配するな。闇の力が傷を塞いでくれる」
睨まれても、暗黒使いは薄く笑うだけだった。
すると言葉通り、出血が止まった。
だが『治った』とは言い難い。
流れ出た血は地面に落ちることなく、水蒸気のように霧散していく。
リッチャの身体は、なおもふらついていた。
高熱にうなされた病人のように、壊れかけている。
「なっ…仲間なのに、ひどい」
だが、敵を憐れんでいる余裕はない。
ユリィが倒されたら、次はタシノキとアヤンが狙われる。
ユリィはふと、先ほど倒れていた場所を見る。
しかし、そこにタシノキの姿はなかった。
「あれ?」
記憶違いか。
いや、確かにそこだった。
「そこのお方!!」
声の方を見ると、神殿の術士がタシノキを抱え走っていた。
「お仲間は、私が避難させます!」
目指す先の瓦礫。そこには、避難したアヤンの姿が見える。
「…助かる!」
タシノキへの憂いはひとまず晴れた。
しかし、闇の加護を得たリッチャを前に、打開策は依然として見えなかった。
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