謎の爆発
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
一行が進む通路は狭く窓がないため蝋燭の灯りを頼らなくてはならない。圧迫されそうな空間に加え周囲が湿っぽい。どうやら建物の地下に転移されたようだ。一方装飾には神秘的な施しがされている。術士が標的になっていることからやはりここは宗教的な施設なのであろう。
「おい、あれは…」
その言葉でタシノキは一行を制止させた。相変わらず視界の悪い通路の先に倒れた人間らしきものが見える。そこへ一行はゆっくりと近づいた。
「斬られている」
蝋燭の灯に頼らなくても床へと溢れる大量の血が目視できる。これだけの血液を失えば命はない。羽織っているローブからこの男は標的である術士であろう。
「ちょっと、あっち見て!」
ナギが指差した方にも同様のローブ姿を纏った数人の男が血まみれで倒れていた。
「全員こと切れているようだ」
虐殺はすでに始まっていた。乾きかけた血痕からある程度の時間が経っている事が推測される。そうなれば下手人ずっと先にいる事になる。
「酷い…」
惨状を見てアヤンは両手を組み哀悼する。
「アヤン…」
「もう大丈夫です」
「うん、急ごう」
遺体を放置するのは忍びないが、今の状況下では仕方ない。一行は足早に通路を進むとその先に光が見えた。地上に出たようでこの階には陽の光が入っている。今までとは違い幅が広く神殿らしい装飾が多く施された通路へ出た。だがそこにも切り刻まれた術士が横たわっていた。
「酷い…」
本殿のような重要な部屋へと繋がっているのか、ある方角へ向かって幾人もの術士が血の池を作り倒れている。
「まだ息のある方がおられるかもしれません」
そのような希望を抱いたアヤンは伏した術士へと向かおうとする。
「アヤンちゃん」
ナギが肩を掴み制止さようとしたがアヤンは頭を振った。気持ちは分かる。可能性はゼロだとは言い切れないがそのために進行を止めるわけにはいかない。ナギはなんとかアヤンを現実に引き戻した。
「こっちに何かがあるのは間違いない」
状況的にはそうなり野盗達もこの先にいる。一行はさらに足を早め地に臥した彼らを道標にしながら進んだ。
先を急いではいたが倒れた術士を踏まぬよう気を払った。それでも流れ広がる血液には幾度か足が触れてしまった。すれ違った際に動く者や助ける者はいなかった。結果的に進行を止められることはなかったが全く喜べない。複雑な思いを抱えながら進み続けるとやがて悲鳴と怒号が耳へと入り込んだ。
「あともう少しだ!」
この先で虐殺が行われていることは間違いない。そこへと繋がる扉に向けて足を速めた。
現場には足の速い者から辿り着いた。そこには巨大な球場の空間が広がり数々の神秘的な像や装飾物が施されている。おそらく本殿のようだが今はそのような事にこだわっている場合ではない。
「予想はしていたが、結構やられている!」
最初に目に飛び込んできたのはそれだった。先程から見て来たものと同じ光景。血まみれになった床と壁、そして斬り裂かれ倒れた術士。
「アヤン、あとちょっとだ!」
ユリィとアヤンの二人が最後に辿り着いた。
「ごめんなさい!遅れました」
「お疲れさん」
ユリィは脚力に自信はあるがアヤンに随行していたため同時だった。それでもアヤンは全力で走っていた。アヤンは息を切らしていたが目の前の惨状で止まった。
「もっと早く辿り着けていたら…」
悲観したがアヤンに責任はない。一行が転移される前からもう始まっていた。
「待ちやがれ!」
こちらへ向かい逃げる術士を追う野盗が目に入った。その直後術師は斬り付けられ悲鳴と血飛沫を上げながら倒れた。標的を倒した野盗は扉付近にいるユリィ達の存在に気づいた。男は訝しげな目をした。しばらくして一行が部外者であると勘付いた。
「仲間にお前らなんていた…」
男は言い終わる前に飛びかかって来たユリィによって拳を腹へと撃ち込まれた。膝をつき悶絶したがユリィは相手にする事なく倒れた術士の安否を確認した。
「まだ息があるぞ!」
その報告を受けたナギはすぐさま術士の元へ駆けつけた。
「出血は酷いけど傷を塞ぐくらいならできるわ」
ナギが咄嗟に術を施すと出血は止まった。だがこれは応急処置にすぎず適切な治療を受ける必要がある。しかしその前にやるべき事がある。
「まずは賊どもをどうにかするぞ!」
タシノキの号令で一行は構えた。本来の目的は幹部の捕縛であるが結果的に達成する事にはなる。当然だが敵の数からして圧倒的に不利な状況である。しかも高額賞金が掛けられた幹部が複数人いる。仲間が手だれ揃いだとしても苦戦は免れない。
「なあアヤン、加護ってまとめて付与できるの?」
「えっ、できますけど」
「できるんだ!みんな、ちょっと待って!」
呼び止めたユリィがアヤンに指示を与えると詠唱を始めた。
「何だ!?身体が緑色に光ったぞ」
「武闘家の兄ちゃんに起きていたのと同じ現象か!?」
アヤンはユリィだけでなく仲間の冒険者にも風の加護を付与した。
「なるほど、これだと普段の何倍も速く動けられそうだ」
タシノキらは動きが普段より軽くなったことを実感した。その頃一行に気づき続々と迫る野盗の姿が見えた。
「私達は後方支援をするわ。アヤンちゃんのことなら心配しないで」
「頼む」
術士本来の役割に徹すればアヤンは前線に出る必要はない。ナギに任せればより安全だろう。
「さっきアイツをぶっ飛ばしていたぞ!」
「ということは仲間じゃねえな」
「だとしたら助けが来たのか!?どうしてこんなに早く…」
その疑問の答弁をする暇はなかった。速度を得た一行が駆け寄り吹き飛ばして行った。ユリィ達は散り散りになって野盗を掃討し始めた。
野盗を撃退し終えた区画にナギがアヤンが向かう。そこには負傷した術士が集まっている。
「大丈夫ですか!?」
「はい、なんとか」
「治療しますので動かないでください」
その術士は比較的傷が浅かったのでアヤンの回復魔法で治療はできそうだった。
「助かりました。私も治療を手伝います」
「数が多いのでお願いします」
解放された区画からは次々と負傷者が避難して来た。アヤンも協力したが不得意なため回復力が弱く時間もかかる。一方、傷の酷い者の治療にあたっているナギがひと段落つきアヤンの元へやって来た。
「私に任せなさい」
そう言ってナギは詠唱を始め出した。ナギから放たれたやわらかい光が広がり辺りにいる負傷者を包みこんでいく。
「傷が治ったぞ!」
「私もだ!」
ナギが発動させた魔法は同時に複数人の傷を癒すもの。このおかげで軽傷の者は一度で治療を終わらせられた。
「凄い…。ナギさん、さすがです」
アヤンは驚愕した。聖堂学院の授業で存在は知っていたが習得の困難な魔法であるため扱える教員が一人もおらず直接見るのは初めてだった。術士としての実力差を目の当たりにしたアヤンはナギを敬意の眼差しを向けた。
「本当にありがとうございます」
「どなたかは知りませんが助かりました」
助けた術士たちは二人に次々と礼を述べた。
「無事で何よりですよ」
「そんなに頭を下げないでください。私はそれほど貢献していませんので…」
実際そうであるため複雑な心境になった。一方アヤンはある事に気がついた。彼らの法衣には焦げ目や土埃がついていた。野盗は刃物を用いて襲っているためそれは不自然に思える。負傷者には刃物が要因ではない者が存在する。
「敵さんに魔法が使える人がいるようですがその人の仕業ですか?」
「あら、どうしてそんな事を聞くの?」
「この人達の怪我は爆発に巻き込まれて負ったものだと思います」
さっきまで対応に必死だったので気づかなかったがそのように見える。
「言われてみればそうね。あの辺とか爆発で壊された跡があるわ」
「その人は爆発系の魔法が使えるようですね」
同じ頃、野盗と戦うユリィの耳に爆音が飛び込んで来た。
「爆発!?」
その方角に目をやると煙が上がっている。
―アイツがやったのか?建物の中でぶっ放すなよ…―
カチルが仕掛けたと思った。だが野盗の反応に違和感がある。爆音が起きたにも関わらず気に留める気配がない。
-そういや賊の仲間に魔法を使える奴がいたな…-
その仲間の仕業であれば無関心に攻撃を続けるのも分かる。しかしユリィはそう結論づけようとはならなかった。別の何かがあると思ってしまい理由を固執した。
「おいあんた!」
「どうした少年?」
「悪いけどあとは頼む」
「え!?なんだいきなり!!」
直接確認せずにはいられない。その衝動に駆られたユリィはまだ排除しきれていない敵を一方的に仲間へ任せると音がした方へと向かった。
再び爆音が響く。同時に煙が吹き上がる。
−カチルは別の場所で戦っている。やっぱり賊の仲間か−
ユリィが向かう先には見覚えのある男の姿がある。
「あっアイツだ、おーい!」
その先はタシノキが戦っていた。声を掛けたが戦いに集中しているようで返事はない。戦う相手を見てユリィは目を疑う。そこには魔導士ではなく野盗が立っていた。
「確かあっちで爆発が起きたはずだけど…」
順当に考えれば後方支援による攻撃になる。しかし位置的にそうは考えられない。もしそれだったら野盗が巻き込まれている。ならず者とは言えそのような戦い方をするとは思えない。
答えが出せず思い悩んでいると野盗がタシノキへと飛びかかる。それと同時に刀身が燃えるように輝くと炎が吹き出た。
「!?」
タシノキの大剣に打ち合うと同時に爆炎が巻き上がる。襲いかかる爆風から身を守るためユリィは両腕で顔を隠す。ユリィは似た状況を先日見ている。その時も武器を用いて爆発を起こしていた。
「何であんな物を持っているんだ…」
爆炎はタシノキに直撃している。そうだとしたら生身で戦うタシノキが耐えられるとは思えない。タシノキは爆発で四散もしくは全身を焼き尽くされている。状況的にはその結末しかない。ユリィは青ざめながらその光景を眺めていると二人分の人影が見えた。ユリィは目を疑った。だが間違いはなかった。タシノキは無事でリッチャの攻撃を受け止めていた。そのタシノキはは障壁に守られていた。
「無事ですか!?」
声の方に目をやると神殿の術士が魔法障壁を展開していた。その術士も負傷しており限界が来たようでタシノキを守る障壁が解除された。
「助かった!恩に着る!!」
ここが術士の多くいる場所であったことが幸いした。障壁が消えたのと同時にタシノキは後退した。風の加護のおかげで瞬時に距離が広がる。周囲の石畳は焦げ剥がれ掛けている箇所がいくつもあり、壁や装飾も同様に破壊されている。そこでようやくユリィの存在に気付いた。
「なんだ、他は片付いたのか?」
「そんなことより、アイツが持っている武器って昨日の賊が持っていたのと同じなのか?」
「いいや、奴の武器には魔石が見当たらなかった」
「見当たらないって、じゃあ自力!?」
「そんなことができるのは魔法剣士ぐらいだ!野盗風情がそんな芸当をできるはずがない。そもそも魔法剣士は王宮騎士団に所属する由緒正しき剣士だ」
「辞めた後に野盗に成り下がったとか?」
「奴にそんな過去があったなんて聞いてない」
「アイツの事を知っているのか?」
「奴がここの頭領のリッチャだ!」
タシノキと交戦中の男、それが今回のクエスト最大の賞金首。野盗を束ねる長として相応しい絵に描いたような悪人ズラに加えて熊のような巨体。それらの見てくれはシゲラム以上に威圧感がある。
魔法剣士になるためには高い教養が必要であるため、それが可能な経済力のある家庭に生まれ育った者でなければ困難。リッチャにそのような生い立ちがあるとは思えず、そもそも魔法剣士であればその情報が出回るはずである。
「確かに。あんなのが王宮騎士団にいたとは考えられない」
「どう控え目に見てもな。それより奴の武器に妙な幾何学模様が描かれているのが見えるか?」
「あるね。あんな模様が入っているってことは結構高いのかな」
「あれは魔力の伝導を高めるために刻印されているもので魔法剣の特徴だ」
「魔法剣!?さっき魔法剣士なわけがないと言ったじゃなか!」
「だから意味がわからない!なんで奴が魔法剣を持っているのかが!!」
目の前で起きる不可解な現象。しかし今それを討論している場合ではない。必要なのは魔法剣を持ったリッチャは脅威であると認識することだ。
「ユリィさーん!」
声を上げながらこちらへ向かうアヤンの姿が見えた。
「危険だから来ちゃダメだ!!」
同時に身振りで制止を伝えるユリィが目に映ったアヤンは走行を止めた。アヤンは危険であることを承知していた。それでもユリィの元へ向かわなければならない理由があった。全力で走っていたアヤンはその前に呼吸を整えた。そして用件を伝えた。
「気をつけて下さい!敵さんの中に精霊術士がいます!!」
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