何かを見つけた落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
魔法で偽装された壁。
タシノキは慎重に手を伸ばす。
「……!」
難なく中へと入れた。
「ほらね」
ユリィが再び中へ。
「そうだな」
部屋は暗くて全体像が見えない。
窓は全て塞がれている。
日の光は入らず、光源は蝋燭だけ。
「ほら、あれ」
部屋の奥。
暗がりの中、ユリィが言っていた祭壇が見える。
そこに鎮座する台座。
揺らめく蝋燭の光に照らされている。
「近くまで行ったんだな?」
「うん」
「軽率だぞ」
「気になったから…」
「変な物はあれだけか?」
「さっき一通り見た」
「人は…いなかったんだな?」
「誰もいなかった」
ユリィは何事もなく出てきた。
実際、誰も隠れはいなかったのだろう。
だが、この部屋が安全かどうかは別の話だ。
「消えた幹部は、ここじゃなかったのか…」
だとしたら、謎はさらに深まる。
わざわざ魔法で隠す。
不気味な演出。
そして目の前にある祭壇。
「儀式でもするつもりなのか…」
そう推測はできる。
しかし目的が見えない。
「何だ、この床…」
わずかに照らされる足元。
赤黒い何かを見つけた。
「汚れ…、いや違う」
しゃがんで覗き込む。
「血か…?」
似てはいる。
だが違う。
それは塗料の類。
灯りの外、そこへも広がる。
「……」
目でなぞった先。
別の灯りの中。
床全体に描かれていた。
「模様…か?」
光源が足りない。
そのせいで、全体像までは掴めない。
だが、人為的な物であることは分かった。
「タシノキ、こいつは魔法陣だ」
カチルの声にハッとなる。
「何だ、お前も来たのか」
後方には、他の仲間の姿もあった。
険しい顔で部屋を見回している。
「お前も見たことがあるだろ?」
タシノキは改めて目を凝らした。
その模様。
確かに魔法陣だ。
「こんな物があるとはな」
「俺も同じ事を考えていた」
不気味すぎる。
数多くの死地を潜り抜けてきたタシノキでさえ、悪寒が走る。
「何が描かれている…?」
「おそらく転移用だ」
「転移魔法だと!?」
その名の通り、離れた場所へと移動する魔法。
術者の魔力で移動する方法。
そして、魔法陣をお互いに描き繋ぐものがある。
「俺でも扱えない上級魔法だ」
「習得困難だと聞いたことがある」
「つまり、それを扱える者が賊の中にいる」
「野盗の集団が、大層な魔導士を抱えているのか」
「そういう意味になる」
魔法職くずれが野盗に身をやつした。
そんな話は聞いた事がある。
だが、この魔法は扱える者が限られる。
チムビ団が、そのような人物を取り込んだという情報は一切ない。
「奴らが作ったと見て、間違いないのか?」
カチルは魔法陣へと視線を落としながら観察する。
「塗料が新しい」
最近描かれた物。
「じゃあ、やっぱり…」
「賊の仲間に術者がいる」
そう言われても、受け入れ難い。
「じゃあ一体何の目的でこんなものを作ったんだ」
その頃ユリィは祭壇の近くを探索していた。
「ユリィさん、危なくないですか?」
「さっきは何も起きなかったよ」
ユリィは臆する事なく祭壇の前へと立った。
遠目では不気味に思えたが、近くで見れば素人作品。
その中央に小汚い皿。
その上に何かが置かれている。
「石っぽいな」
祭壇の中央に、意味ありげに鎮座する物体。
石と呼んだが、形はほぼ真円。
わずかに透けており、水晶玉に似ている。
「ただの石ではないようですね」
「うん。…あれ?これって何かに似ていない?」
ユリィには、これと似たものを見た記憶があった。
「もしかして、魔石じゃありません?」
「それだ!」
アヤンの一言で思い出す。
炎の剣には嵌め込まれていた魔石と、似た気配を放っている。
「おい、ここに魔石があるのか!?」
二人の会話を聞きつけ、カチルがタシノキと共に駆け寄る。
「えっと…、これだよ」
ユリィは一歩退き、祭壇を示した。
カチルは目を細め、それを観察する。
「なるほどな」
「何か分かったのか?」
「これは転移石だ」
「そんなのがあるの?」
「ああ、厳密には魔石と性質は異なるがな」
「どう違うの?」
「相対する魔法陣をこれで制御して移動させる。魔石とは違い誰でも制御できるわけじゃない」
「とういうことは…」
「消えた幹部…。奴らはこれを使って移動した」
タシノキは、そう結論づけた。
「あんたはこれを制御できるの?」
「ああ」
「じゃあ、話は早い」
「向かうのか?」
「当然だ。俺に帰るなんて選択肢はない」
真顔で言うタシノキにカチルは軽く笑う。
「お前らしい」
転移先がどこかは分からない。
どんな危険が潜んでいるのか。
しかし、今回も反対する者は誰もいない。
「一度に運べられるのは十人くらいか」
「俺とお前、あと八人選べ」
タシノキは周囲を見回す。
その様子を、ユリィはじっと見ていた。
「アヤン、一緒について行きたいんだけど…」
「私は構いませんよ」
「どんな危険があるか、分からないよ?」
「心配ありません、ユリィさんがいれば!」
快諾はしてくれた。
嬉しい。
同時に、後ろめたさが胸によぎる。
「……」
アヤンに迷いはない。
表情から伝わる。
ユリィの決意は固まった。
「なあ、俺とアヤンも連れて行ってくれ」
ユリィが声を上げる。
「来てくれるのか。助かる」
タシノキは即座に頷いた。
「じゃあ私も行くわ」
ナギも名乗り出る。
「回復役は必要だ。頼む。それから嬢ちゃんの援護もな」
これで五人。
さらに、タシノキが選抜した五人の剣士が加わる。
「まずはこの十人で向かう」
「そう言える余裕があればいいがな」
カチルは冷ややかに呟く。
「アヤン、余裕ってどういう意味?」
「状況次第では、仲間を呼びに戻る余裕がないということです」
転移直後に戦闘が始まれば、この十人で全てを処理するしかない。
この先に何がるのか、一切の情報がない。
「何だ、怖気ついたのか?」
タシノキは軽く笑いからかう。
「そっ…、そんなことないよ!」
不安であることは否定できない。
だが、同行を決意したことに後悔はなかった。
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